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第五章 魔導大会編

335話 決勝前に

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『け、決着ぅー! Eブロックの試合、ここに決着しました!
 最後まで立っていたのは、ラッへ選手! 決勝へ進むのは、ラッへ選手です!』


「ノマちゃん……」

 Eブロックの試合、そのすべてを見ていたエランは、試合終了の合図とともに、小さく言葉を漏らした。
 応援していたのは、ノマ。それにガルデ。友達や知っている人は、やっぱり応援したくなるものだ。

 シルフィドーラは先輩だし同じ生徒会に所属している仲間ではあるが、あんまり好きではない。だっていつも刺々しいから。
 ただ、今回の試合で彼の秘密を一つすることができた。彼はなんらかの獣人であるという話だったが、その正体は"三ツ目族"だった。

 ノマの力の上昇具合や、聞いたことのない種族と気になることはたくさんあった。
 しかし、その中でも一番気になったのは……

「ラッへ、か」

 この試合の勝者、ラッへ。フードでやマントで顔や体を隠している人物。
 試合開始直後に、選手の大半を倒したのは、ラッへだろう。そして、最終的にノマと互角以上に渡り合った。

 最後、ラッへの顔を隠していたフードが脱げたのは、確かに映し出された。
 しかし、その中身がモニターに映し出されることはなかった。いや、モニターでなく、観戦席や舞台上にいても、見えはしなかっただろう。

 ラッへの素顔を見たのは、目の前にいたノマだけだ。

「なんかノマちゃん、驚いてたように見えたんだよなー」

 あのとき、ラッへの素顔を見たであろうノマの表情に、違和感があった。それは驚きの部類に分けられる。
 もっとも、これはノマの友達であるエランだからこそ、気づけたことだ。

「最後負けちゃった子、キミの友達だったの?」

「! フェルニンさん」

 モニターをじっと眺めていたエランに、話しかけてくる人物。エランは振り向き、その人物を確認する。
 そこにいたのは、Aランク冒険者であるフェルニン。Aブロックの勝者でもある。

 冒険者には珍しい魔導士で、ガルデの幼馴染みだという彼女は、エランと共に魔獣相手に戦った。

「うん。学園でできたお友達だよ」

「そっか……残念だったね」

 選手控室となるこの部屋に、現在待機している人数はほんの少数だ。
 わずかな警備。そして各ブロックの勝者……フェルニン、エラン、そして離れた机に座るのは、ブルドーラ・アレクシャン。

 後に、Eブロックを勝ち残ったラッへもこの部屋に来るだろう。
 エランたち同様、回復魔術で傷を癒やし……疲労が取れたところで、決勝が始まる。

「こちら、どうぞ」

「あ、ありがとうございます」

 部屋を見回していたエランの目の前に、パンが差し出される。それを受け取り、お礼を言う。
 パンを持ってきてくれたのは、冒険者ギルドの受付カタリナだ。それぞれ、選手たちにパンやタオルを渡している。

 選手たちのケアも行っている、ということだろう。

「このあとの、決勝って……」

「前回の大会と同じく、勝ち残った五人……それと前回優勝者を加えての、六人の総当たりになるの。
 もっとも、今回の勝ち残りは四人。五人での総当たり戦になるわね」

 エランの質問に、カタリナは答える。
 決勝の内容は、聞いていた内容と差異はないようだ。

 これまでの大会だと、六人総当たりだった。だが、勝ち残ったのが四人では、五人総当たりとなる。
 歴史あるこの大会でも、珍しいことだ。

「前回優勝者かぁ。どんな人なんだろ」

「わりと有名だけど……エランちゃんは、この国に来てから日が浅いもんね。ま、決勝でのお楽しみよ」

 前回優勝者、その響きだけでも、次に出てくるであろう人物は相当の実力者だと予想できる。
 もちろん、勝ち残った者たちも然りだ。

 魔導士冒険者のフェルニン、魔導は一切使わず魔導に打ち勝ったブルドーラ・アレクシャン、そしてまだまだ未知な部分が多いラッへ。
 数多の選手の中から勝ち残った三人……エランの心は、踊っていた。

 そんな最中……

「あ……」

 ガチャ、と扉が開く音。そして、中に入ってくるのはラッへだ。
 フードやマントは少し損傷しているが、相変わらず顔も体も隠している。こうして直接見ると、自分と同じくらいの年ではないか、とエランは思った。

 せっかくだし、声でもかけようかな、と立ち上がろうとした瞬間……

「……」

「っ?」

 ラッへの顔が、エランを見つめる。そして、浴びせられるのは鋭い敵意……見えはしないが、鋭く睨みつけられているように、感じた。
 初対面のはずの相手に睨みつけられる覚えなどエランにはない。それとも、フードの中は自分の知っている顔なのだろうか。

 その後、ラッへはなにを話すでもなく、適当な席に座る。カタリナからパン等タオルをもらい、一人で過ごす。

「エランちゃん、彼女になにかしたの?」

「し、知らないよぉ」

 ラッへノ態度を不審に思ったのは、カタリナも同じようだった。しかし、エランにはもちろん、身に覚えなどない。
 結局、ラッへに話しかける者はいなかった。エラン含め。

 それから、エランとカタリナ、そしてフェルニンはしばしの談笑。時間はあっという間に過ぎていき……

『皆さん、お待たせいたしました! まもなく、決勝の始まりです!』

 決勝開始を告げる、司会の声が、モニター越しに驚いた。
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