上 下
338 / 769
第五章 魔導大会編

330話 最後の予選

しおりを挟む


 自身の試合を終えたエランは、観戦席にいるクレアやルリー、フィルの下へ……と、本来ならば戻りたかったのだが。
 勝ち残ったため、次の試合に備えなければならない。もちろん、観戦席に行ってはいけないという決まりはないが。

 それでも、次に備え、こうして控え室で休んでおくのが、最善に思えた。

「次はノマちゃんも出るんだよね」

 エランの体も傷だらけのではあったが、すでに回復魔術により傷は癒えている。
 精神力はすり減っているが、それも休めば問題はない。

 本当ならば、外で直接見たい。が、回復魔術で傷は癒えても、疲労までなくなるわけではない。
 なのでこうして、座ってじっとしておく。

 ちなみに先ほどから、それなりに人はいるのたが、なぜだかエランに話しかけてくる人……いや近づく人さえいない。
 知り合いは別室で治療していたりするし、微妙に居心地が悪かったりする。

『いよいよEブロック、選手が入場してきます!』

「お」

 モニターの向こうから、司会の声が聞こえる。
 先ほどまでは、直接試合を見ていたから、モニター越しに見るのは初めてだ。

 一つの大きなモニターに、いくつかの映像が流れている。それは一人ひとり選手を映し出し、その中には見知った顔もいくつかあった。

「ノマちゃんだ。映像越しでもかぁわいいなぁ。
 ……あ、シルフィ先輩もいるんだ」

 胸を張って入場するノマの姿。次に映し出されたのは、先輩であるシルフィドーラ・ドラミアスだ。
 生徒会メンバー唯一の二年生。ゴルドーラを尊敬し、エランを目の敵にしている。

 彼も、Eブロックだったか。
 なんらかの獣人らしいが、エランにはまだその正体を明かしてもらってない。この試合で見られるだろうか。

「うわー、みんな強そう……あ、ガルデさんもいる!」

 中には、見知った冒険者の姿も。
 Aランク冒険者、ガルデ。彼も大会に参加していたようだ。

 本当に、いろんな人が参加している。見ているだけでも、楽しい。
 あの中で勝ち上がれるのはただ一人。それが、エランにとっては惜しかったりもする。

『さあ! 各ブロック予選も、残すのはこのEブロックのみとなりました!
 Aブロック百名、勝者冒険者フェルニン選手! Bブロック百一名、勝者なし! Cブロック百一名、勝者武闘家ブルドーラ・アレクシャン選手! Dブロック百名、勝者狂犬エラン・フィールド!
 そしてこのEブロック百一名! 勝ち残った選手が、決勝に進むことになります!』

 司会の男が、これまでに勝ち残った選手の名前を挙げるが……それを聞いて、エランはあんぐりと口を開けていた。

 ……おい! なんだ私の紹介文!? 狂犬って!? なんかこう、もっとあるでしょうよ!
 くそ、直接会ったら殴ってやる……!

 強く、思った。

『おや、なんだか体に寒気が……気のせいでしょうか。
 それとも昨日、大会の司会を務めることの緊張とワクワクで、あまり寝られなかったせいでしょうか! 皆さん、どう思いますか!』

「知ったことか! さっさと始めろ!」

「毎度うるせえんだよ!」

 ……観客からの講義を受け、司会の男は押し黙る。しかし、すぐに切り替える。

『もう皆さん、待ちきれないようだ!
 それでは、熱い戦いを我々に見せてくれることを期待して! 試合、開始ぃ!』

 ついに、魔導大会予選……最後のブロックが開始した。

 ――――――

 試合開始の合図が鳴り響く。
 それを受け、選手たちは次々と行動に移そうとする……が。

「……っ?」

 ドサッ……ドサドサッ……と。
 次々に、選手たちが倒れていくではないか。

 何者かから攻撃を受けたわけでもない。なのに、先ほどまで血気盛んだった選手たちが、膝から崩れ落ちる。
 その光景を、ノマは警戒し見ていた。

「こ、これは……」

『おぉっと、どうしたことか! 試合開始直後、次々と選手が倒れていくぞぉ!』

「何事ですの?」

 ……試合開始直後の魔術、使い魔召喚、派手な大暴れ……これまでのブロックでは、試合開始直後の行動をより早く起こした者が、主導権を握っていた。
 もちろん、主導権を握ったところで最終的な勝者になるかは、また別の話だが。

 なんにせよ、これまでは誰の目にも、わかりやすい形で勝負を仕掛けた者がいた。
 しかし、今回のそれは……

「魔術……いえ、それとも魔導具……?」

 なにが原因なのか、よくわからない。
 ただ、何者かが仕掛けたことであるのは、確かだ。

 そして……

「半分……ま、こんなものかな。
 思ったよりは残ってるね」

「……あなた、ですのね」

 その、なにかを引き起こした人物は、そこにいた。
 ノマはその人物を睨みつける。フードを被り、顔まで隠した小柄な人物だ。

 その人物は言った、半分……と。
 そう。半分もの人物が、試合開始直後にして、倒れたのだ。それをやったのが、このフードの人物。

 ノマは、構える。いや、ノマだけではない。フードの人物がなにかをして、現状を作り出したと、少なからず気づいている者たち。
 彼らは、矛先を一斉に、フードの人物へと定めた。

「へへ、悪いな。どんな手を使ったか知らねえが、この数相手じゃ無謀だろ」

「一気に仕留めてやる」

「ん? うん、そうだね……一気に終わらせようか」

 フードの人物を囲う男たちは、凶悪に笑う……対してフードの人物は、唯一露わになっている口元が、笑っていた。
 なに笑ってやがる……男たちのうちの一人が、そう怒鳴っていた、はずだった。

 その直後、とフードの人物の姿が少しぶれて……次の瞬間には、囲っていた幾人の男たちは、倒れていた。

「! な、なんだ!?」

「なにしやがった!」

 それを見ていた他の選手は、起こった出来事が理解できない。
 あんなにもいた選手が、一斉に倒れたのだ。それも、二回も。

 半分……そう、また半分だ。また半分が、倒れた。
 開始三十秒もしないうちに……Eブロックの選手は、四分の一にまで減っていた。
 それも、一人の人物の影響で。

「……なんて、速さ」

 そんな中、現状を理解しているのは……ノマだけだった。
 彼女には、見えていた。フードの人物がぶれた瞬間、目にも止まらぬ速さで、周囲の選手を斬り伏せていたことを。

 先ほどの試合で、エランが見せた超スピード。あれとは、似て非なるものを感じた。

「……キミ、ただの人間じゃないね」

「……っ」

 警戒するノマに、フードの人物が狙いを定めたのか……視線が、向いた。
 フードにより隠れている、その人物の顔。

 しかし、その奥にある……緑色に輝く瞳と、ノマは視線を交わした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

出来損ない王女(5歳)が、問題児部隊の隊長に就任しました

瑠美るみ子
ファンタジー
魔法至上主義のグラスター王国にて。 レクティタは王族にも関わらず魔力が無かったため、実の父である国王から虐げられていた。 そんな中、彼女は国境の王国魔法軍第七特殊部隊の隊長に任命される。 そこは、実力はあるものの、異教徒や平民の魔法使いばかり集まった部隊で、最近巷で有名になっている集団であった。 王国魔法のみが正当な魔法と信じる国王は、国民から英雄視される第七部隊が目障りだった。そのため、褒美としてレクティタを隊長に就任させ、彼女を生贄に部隊を潰そうとした……のだが。 「隊長~勉強頑張っているか~?」 「ひひひ……差し入れのお菓子です」 「あ、クッキー!!」 「この時間にお菓子をあげると夕飯が入らなくなるからやめなさいといつも言っているでしょう! 隊長もこっそり食べない! せめて一枚だけにしないさい!」 第七部隊の面々は、国王の思惑とは反対に、レクティタと交流していきどんどん仲良くなっていく。 そして、レクティタ自身もまた、変人だが魔法使いのエリートである彼らに囲まれて、英才教育を受けていくうちに己の才能を開花していく。 ほのぼのとコメディ七割、戦闘とシリアス三割ぐらいの、第七部隊の日常物語。 *小説家になろう・カクヨム様にても掲載しています。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

処理中です...