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第五章 魔導大会編

325話 バトルアンドバトル

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『おぉ! ダルマス選手の剣が、フィールド選手の体を斬り裂いた!
 これは決ま……んん? 斬り裂いた?』

 炎を纏いしダルマスの一閃は、エランの体を斬り裂いた。
 傍目から見ればそれは、勝負の決まった一撃に思えた……しかし。

 この結界内で、斬れた、ということがおかしい。

「幻影か……」

 先ほどと同じであることを、イザリは察する。ならば、次にエランがとる行動は……
 イザリは背後に振り抜きざまに、炎剣を振るう。背後を狙ったのであれば、エランはそこにいたはずだ。

 しかし、剣を振るった先に、エランの姿はなかった。

「っ?」

「結構正直者だよね、ダルマスって!」

「! うし……っ」

 イザリの背後……つまり、元々イザリの正面にいたところから、エランの声がいた。
 咄嗟に振り抜いてしまったイザリの頬に、エランの拳が打ちこまれる。

 それは、以前決闘でとどめに打ち込んだものと、ほとんど同等の威力。

「ぐっ……くぅ」

「へぇ、耐えるんだ」

 以前はあの一発で伸びていたものだが、イザリは耐えている。
 が、口の中が切れたため、ペッ、と血を吐き出す。

「てっきり背後に現れると思っていたが……」

「私、学習する女なんで」

 先ほど暴れ回っていた際、選手たちの背後をとり倒していったが、それにまんまと騙されたというわけだ。
 裏をかかれた……もしくは、イザリが深読みしすぎてしまっただけか。

「それにしても、すごいねあの技。なになに、私との訓練のときは、見せてくれなかったじゃん」

「完成したのが、つい最近だったんで、な!」

 再び剣を構え、イザリは飛び出す。
 魔力を起こし、イメージするのは炎。炎を纏いし剣で、エランに斬りかかる。

 エランはそれを杖で弾くが……

「っ、力が上がってる……」

 魔力と剣技を組み合わせて使いこなすのが、魔導剣士。魔力の扱い方を覚えたことで、イザリの技量は向上した。
 さらに、腕にも魔力強化をすることで、剣撃の力自体を上昇させる。

 それは、魔法でありながら、魔術にも匹敵しうる威力……

「わっ、たっ……」

 斬撃を弾くので精一杯なエランは、魔術の詠唱を口にする暇さえ与えられない。
 こういった場合に、無詠唱魔術の使えるコロニアが、羨ましい。

 だが、魔術が使えないなら使えないで、やり方を変えるまでだ。
 杖で弾きつつ、エランはもう片方の手のひらに魔力を溜める。

 魔力の塊を、至近距離からぶつけてしまえば……

「キキーッ!」

「!」

「ん?」

 しかし、それは突然の乱入者の登場によって阻止された。
 二人の間に割り込むように、何者かが空から落ちてきた。二人は、それに踏み潰されるより寸前に、互いに距離を取る。

 ドスン……と、着地したそれは、ニタリと笑った。

「ウキャキャキャ! 楽しそうじゃねぇか、俺も混ぜてくれよ!」

「……サル? でけぇ」

 コーロランのゴーレムほどではないにしろ、巨体がエランたちを見下ろしている。
 それは全身を体毛に包まれた、獣人。巨大なサルと言って差し支えない選手だった。

「そろそろ人数もあと少しになってきたところだ! あとは俺が一掃してやる!」

「へぇ、獣人って、体の一部分を変化させられるだけじゃなくて、体の大きさまで変えられるんだ」

「話聞いてんのかくらぁ!」

 怒りを露わに、サルは巨大な拳を振り落とす。
 それを前に、エランは避けるでもなく……

 ドパンッ、と、素手で受け止めた。

「……は?」

「うーん、でかいだけって感じかなぁ。魔力も纏ってないし、こんなんじゃ私たちは倒せないよ」

「は……たち……?」

 あ然と口を開くサルだが、次の瞬間背後を斬られる。
 結界内でも、血は出る。血と炎とがその場に吹き出し、続くイザリの斬撃は無防備な背中を、容赦なく襲う。

「残りの選手も少なくなってきた。だからでかくなって一掃……うん、それは良いと思うよ。けど……」

「選手が減った状態でそんなでかさになれば、狙いの的になるだけだ」

 飛び上がるエランが、イザリが、左右から拳と剣とを、サルの顔面へとぶち込む。
 それを受けたサルは声もなく倒れていき……空中に飛び上がったエランとイザリは、互いに打ち合う。

 杖を、剣を、拳を、そして魔法を。
 二人の戦いは空中へと移行する。エランは浮遊魔法で体を浮かせ、イザリは足下に魔力の足場を作る。

 空中での攻防に、誰も手出しができない。いや、しようと考えていない。
 勝手に潰し合ってくれればいい。残った方を、倒せばいいのだから。

「ありゃあ、さっすがエランちゃん。それにダルマスの長男もやるねぇ……っと」

 二人を見上げるタメリアは、その凄まじさにひゅう、と口笛を吹く。
 その際、襲いかかってくる選手を蹴り倒すのは忘れずに。

 正直、どちらが勝とうとタメリアには関係のないことだが……どうせなら相打ちになってくれれば楽なのに、とは思っている。

「くっ……付かず離れずって、感じか!」

 イザリは、エランとの距離を一定に保ち攻撃に移動していた。
 近すぎれば、エランの打撃が襲ってくる。かといって遠ければ、エランに魔術詠唱の隙を与える。

 対してイザリの今の剣なら、中距離からじわじわとエランを攻めることができる。

「凍れ!」

 放たれた炎の斬撃を、エランは魔法で凍らせる。しかし、凍ったのも一瞬……パキン、と音を立て、氷が割れる。
 決闘のときは、凍らせてその隙をつき勝負を決めにいけたのに。やはり、あのときとは魔力の質が違う。

 エラン自身も、以前に比べて魔力は強くなっているはずだ。しかし、それよりもイザリの成長速度が早いのか……

「……ま、元々がレベル五十とレベル五じゃ、成長速度も違うってもんよな」

 試合を観戦していた、ヨルは一人、つぶやく。
 ゴルドーラとの戦いの末、双方ダウンし、しばらく気を失ってしまっていた。

 彼にとって興味の対象エラン。元々強い分、修行しても成長速度が遅くなるのは当然だ。
 対して、魔力の扱い方を学んだイザリは、成長速度が早い。元々レベルが低かったからだ。

 とはいえ、ここまで差が埋まるのは、イザリの才能の力もあるだろうが。

「やっぱりこの世界おもしれぇ……おっ」

 試合を観戦するヨル……その目に映ったのは、エランの背後に飛び上がってきた何者か。
 エランは、イザリとの打ち合いで気づいていないのか、一瞬、判断が遅れる。

 その隙をつかれ……振り下ろされた剣は、エランの背中を斬り、血しぶきを撒き散らした。
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