330 / 751
第五章 魔導大会編
322話 エラン大暴れ
しおりを挟む「おー」
試合開始のその直後。各選手たちが、一斉に向かってくる。その光景に、エランは声を漏らした。
バトルロイヤル形式のこの試合、先ほどまでの試合と同じく入り乱れると思っていたが、まさか一斉にエランへと向かってくるとは。
『Dブロック参加者総勢百名!
そのほとんどが、まっさきにエラン・フィールドを狙うー! 子供一人におとなげないことこの上ない!』
Cブロックのように、事前に組むことを決めていたのだろうか……
……いや、そうではないだろう。
「覚悟しろエラン・フィールド! お前の首はこの、カマイタチのセズ様がもらったぁ!」
「いやこのおれ、ポッキーウマシのススリン様がいただいた!」
「待て待て、おいらドラム缶のビストルのものだ!」
「個性的な人多いな……」
頼んでもいないのに口々に名乗りを上げるのは、魔導士だからか冒険者だからか、それともただの趣味か。
いずれにしろ、エランを狙っている彼らはその手柄をひとり占めしようとしている。
つまり、事前にエランを倒そうと画策していたわけではない、ということになる。
「やだもー、私ってば、みんな一斉に狙っちゃうくらい魅力的ってことー? やだもー」
「ひゃっほぅ!」
頬に手を当て、くねくねと体を動かしているエランに、横薙ぎの斧が迫る。
刃は確実に首を捉え、そのまま振り抜きエランの首を斬り裂いた……
……はずだった。
「! すり抜けた!?」
振るった斧がすり抜けたことに、カマイタチのセズは驚愕する。
この結界内では、ある一定以上のダメージは無効化される。死に直結するようなダメージは、傷こそ負わないがそのまま戦闘不能へと至る。
しかし、斧はすり抜けた。首を斬り裂くなどの大きなダメージ、それは結界内では無効化されるとはいってもも……すり抜ける、なんてことはありえない。
もしも、すり抜けるのが本当だとしたらそれは……
「! 幻影か!」
それが幻影であることに、カマイタチのセズはいち早く気づく。冒険者としての勘は、健在だ。
聞いた話では、エラン・フィールドは浮遊魔法に分身魔法と、多才な魔法を使う。幻影魔法くらい使えてもおかしくはない。
……だとするとエランは、いったいいつから幻影魔法を使っていたのだろう。
「っ、なら本体はどこに……ぁう!」
「ここだよーん」
いつの間にか、カマイタチのセズの背後に立っていたエランが、杖の先端をつんと、カマイタチのセズのうなじに押し当てた。
するとカマイタチのセズは、間抜けな声を漏らしながらその場に倒れた。
意識は、ない。
「な、一撃!? なにを……」
「ちょっとツボをね、強めの力で刺激しただけだよ」
なにが起きたかわからないといった具合に騒ぐ選手たちに、エランは得意げに説明する。
人間にはいくつものツボがある。それを探し当て、魔力強化で強化した杖でそこを突っつけばあら不思議。ばたんきゅーとなるのだ、と。
しかし、理屈はわかっても実際にそれをできる技量と力は簡単ではない。
「ほらほら、そこで固まらずにかかってきなさいよ」
「ちっ、なら望み通りやったらぁ!」
「噂通りのとんでもねえ女だ、お前を倒せば俺の名も売れるってもんだ」
「ひゃおーぅ!」
「邪魔すんな!」
エランを狙うのは、さすがに全員ではないがそれなりの数がいる。しかし協力しようという気持ちはないのか、ギャーギャー言い合っている。
誰がエランを先に倒すか、我先にと飛び出す者が後を絶たない。
しまいには、エランを狙う者と狙う者とで奪い合いの組み合いが始まってしまうほどだ。
「やめて! 私のために争わないで!」
「余裕だなてめぶべぁ!?」
後ろから飛びかかってきたモヒカン風の男を、裏拳でぶっ飛ばす。
今のはなにも言わず、潰し合うのを見ておいたほうがよかっただろうか。しかし、それだと強いやつと戦いたいエランの気持ちに反する。
どうせなら、強いやつと、たくさん戦いたいのだから。
「そんな順番取りなんてしないでさー、まとめて来なよ」
「! おいおい、ずいぶん余裕じゃねぇか。ならここにいる全員でかかっても……」
「うーん、それも悪くないよねぇ」
さすがに百人……いや、自分を抜いたら九十九人か。その相手をするとなれば、骨が折れるだろう。
だが、それすらも面白いかもしれないと、エランは笑った。
そして……次の瞬間、舞台の人口密度が、増えた。
「! こりゃあ……!」
舞台に上がってしまえば、戦闘不能脱落で人が減ることはあっても、増えることはない。
しかし、今人数が、増えている。その理由は……
「こいつが、分身魔法ってやつかい……!」
周囲に現れるのは、エラン・フィールド。それも、一人や二人ではない。
次々と、現れる。その数十を超えるほど。
分身魔法……これにより、エランはその姿を増やすことができる。
エランが二人になれば、その力は単純に倍……というわけではない。分身魔法は、分身人数が増えれば増えるほど、一個の力は弱くなるのだ。
とはいえ、エランはゴルドーラとの決闘の後、分身魔法についても鍛えた。鍛えたとはいっても、分身人数を増やせば一個の力は弱くなる、という性能は鍛えようがない。
鍛えたのは、分身の動き。
「よっ、ほりゃ!」
「うぉお!?」
分身体の一人が、近くにいた選手を投げ飛ばす。
分身魔法を鍛える過程で、気づいたことがある。分身が増えれば増えるほど、一人の力もまた低下する……そう、思っていた。
そしてこれは、正しくて間違いだ。
この"力"というのは、イコール魔力のこと。つまり、分身が十いれば魔力は本来の十分の一。
それは変えようがない。しかし、身体能力は別だった。
エランはこれまで、力が減少するのは魔力も身体能力も、体の機能すべてだと思っていた。勝手に思い込んでいた。だが、減少するのは魔力のみ。
身体能力は、減少せず本来の性能のままだ。つまり……
「うぇええい!」
「ぶはっ!?」
魔法を使わず体術にのみ専念すれば、エランは今十倍の力を手に入れたことになる。
さらに、エラン自身の魔力は減少しても、大気中の魔力は変わらない。なので、魔術の威力はそのままだ。
これは、ゴルドーラとの決闘時に確認済みだ。
分身含め十人のエランは……本能の赴くまま、暴れまわっていく。
0
お気に入りに追加
165
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
公爵令嬢はアホ係から卒業する
依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」
婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。
そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。
いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?
何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。
エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。
彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。
*『小説家になろう』でも公開しています。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる