史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

文字の大きさ
上 下
328 / 849
第五章 魔導大会編

320話 魔力がなくても

しおりを挟む


 そこに立っているのは、リリアーナの魔術に閉じ込められていたはずの、ブルドーラだ。
 その体には、少々の切り傷が刻まれていた。……少々の、だ。

 あの魔術を受け、ほとんどダメージがない。どうなっているのか。

「なんなんだあいつ……」

「ば、バケモンか?」

 残っている選手も、その光景に物怖じする。
 魔法も、魔術も、通用しない。試合開始直前の、そして先ほどの魔術は、ブルドーラの肉体を証明することとなっていた。

「魔導士といっても、こんなものか……」

 ぽつりと、ブルドーラは呟く。伝統あるアレクシャン家に生まれ、魔力がまったくなかった自分。
 両親は魔力のない自分ではなく、魔力に恵まれた弟をかわいがった。

 弟を憎んだことはない。が、魔力がないからと自分を虐げる両親に思うところはあった。
 だから、魔力とは……魔導とは、どれほど素晴らしいものなのか。この身で、確かめたくなった。

「オラっちを虐げた魔導が……こんなものか!」

「ぶふっ!」

 元々、アレクシャン家は変わり者が多いと言われている。その中でも、ブルドーラはまた異質だった。
 魔力を持たず、野蛮な恰好をして言葉遣いも乱暴。そんなブルドーラは、アレクシャンを名乗ってこそいるが、もう家を出て関係は切れていると言ってもいい。
 ちなみにブルドーラがアレクシャンを名乗り続けられるのは、それが「アレクシャンだから」というほかない。

 そして、とにかく己の体を鍛えた。
 鍛えて、鍛えて、魔導なんてものがどれだけちっぽけか、証明する。そのために、この大会に名乗りをあげた。

「げは!」

「ぐあぁ!」

 次々倒される選手たち、残っているのはもはや、コーロランとリリアーナのみ。
 ここまで残っている二人も、さすがと言うべきだが……

 他選手たちとの戦いを経て、もはや力は残っていない。対して、あれだけのことがあって、ブルドーラは息切れ一つ起こしていない。

「くっ……そ!」

 コーロランはありったけの魔力を込めて放つ魔法も、ブルドーラに弾き落とされた。
 リリアーナも魔法を連撃するも、やはり通用はしない。

「ハッハァ! アーイムナンバーワーン!!」

「!」

「ぐ……」

 ブルドーラの太い腕が、コーロランを、リリアーナを弾き飛ばし……場外へと、ぶつけた。
 それだけでなく、二人の意識は狩りとられ……舞台上に立っているのは、もうブルドーラ一人しかいなかった。

 その圧倒的な展開に、会場はしばし息を呑み……

『た、ただいま決着! 決着しました! 最後まで立っていたのは、魔力を持たない武闘家ブルドーラ・アレクシャン!
 驚くことに、魔法も魔術も、その身一つで弾き、勝利をもぎとりました! 信じがたい光景です!』

 司会の言葉が、会場に響く。直後、場内が湧く。
 誰も、予想すらしていなかっただろう。魔導の猛者集まるこの試合で、勝ち残ったのが魔力を持たない人間などと。

 かつて、魔力を持たずともブルドーラのように身一つで出場した者、魔導具を使って出場した者はいた。
 だが、ここまで圧倒的な存在を刻み、勝ち残った者は、いなかった……

 ――――――

「いやあ、すごかったねぇ」

 試合を観戦していた誰もが息を呑んでいた……そんな中、モニター越しに試合を見ていたタメリア・アルガは、感心するように言葉を漏らした。
 それは、ひとり言として……ではない。隣に立つ、エラン・フィールドに向けてだ。

 エランも、試合の状況を確認していた。いっとき、あの筋肉男の関係者が出てきた時には取り乱してしまったが……
 それでも、勝ち残るならリリアーナかコーロランだと、そう思っていた。

「あんな戦い方、あるんだ……」

 エランはつぶやく。終わってみれば終始、試合の中心には彼がいた。
 師匠であるグレイシア・フィールドは言っていた。魔導士は魔法や魔術を使うものだが、体も鍛えてこそ一流の魔導士になれるのだと。
 だからエランも、魔導とは別に体を鍛えてきた。

 しかし、ブルドーラがやったみたいに、魔導なし身一つで、あんな芸当ができるだろうか。
 ……無理だ。

「リリアーナや弟くんは残念だけど、仕方ないねぇ。
 俺らの試合でも、ああいうのがいるかもしれないから気を付けないとね」

 タメリアは、いつものように軽い調子だ。
 同じ生徒会のメンバー、その身内がやられても、顔色一つ変えない。まあ、大会だからと割り切っているだけかもしれないが。

 魔導士として。
 魔法はともかく、魔術を撃たされる前にやられたのならわかるが……魔術を撃ち、それが通用しなかったときの気持ちは、いったいどんなものだろうか。
 もっとも、あんなのがたくさんいるなんて、思いたくはないが。

「あの筋肉男も……いや、考えるのやめよう」

 いつも制服がパツパツの彼も、ブルドーラのような肉体なのだろうか。
 授業風景を見る限り、少なくとも魔力なしではないようだが。かといって、授業に真面目に取り組んでいるようにも見えない。
 魔石採取の授業がいい例だ。

 エランにとってはある意味で、ヨルよりも謎の多い人物だ。

「ふぅー……うーん、ワクワクしてきた!」

 ともあれ、Cブロックが終わり、Dブロック試合開始まであと少し。時間が近づくにつれ、エランは胸の高ぶりを抑えられない。
 それを見て、タメリアは笑う。

「はは、緊張とかじゃないんだ」

「もちろん!」

「初めてでたいしたタマだね」

 驚くことはたくさんあった。正面からぶつかり合うだけが戦いではないこと、自分を負かした相手と渡り合う相手がいたこと、ノーマークだった選手が勝ち残ったこと……
 エランにとって、しかしそれは怯む理由にはならない。

 まだまだ、知らない強い相手がたくさんいる。
 冒険者が、魔導士が、魔力すらない人間が。まだまだたくさんいるのだ。

 だから、エランは……

『まもなく、Dブロックが開始となります!』

 聞こえてきた司会の声に、軽く息を整えて……舞台へ続く道へと、足を踏み出した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

処理中です...