327 / 769
第五章 魔導大会編
319話 使い魔の能力
しおりを挟む……突然だが使い魔とは。固有に一つの能力を持っているモンスターのことである。
ただモンスターを自らの相棒とするだけならば、そのへんのモンスターを調教でもしたらいい。
そうしないのは、使い魔として召喚されたモンスターには能力が付与されるから。
召喚者と使い魔の視界は共有することができる、など細かい利点もあるが、明確な形で能力は存在する。
今、リリアーナが召喚した蛇。名を「ハク」。その牙には毒があるが、この蛇は毒蛇だ。使い魔としての能力は、毒ではない。
ちなみにサーペントの種類の蛇には大型が多いが、彼女のものは小型である。
蛇の能力は、ブルドーラが予想したように、己の体重の増減変化だ。体重を羽のように軽くすることや、鉄のように重くすることもできる。
使い魔の能力は、それぞれだ。同じモンスターでも、まったく違うものもいる。
ちなみに、ゴルドーラの使い魔サラマンドラだが……彼にも、能力はある。
しかし、能力を使うまでもなく強大なモンスターなので、使うときはあまりない。せっかく能力を得ても、モンスターが強大だからこそ使うことのないものもある。
「ぬぅっ、こんなもの……っ……」
さて、ブルドーラの足首に、リリアーナが召喚した使い魔のハクが牙を立てる。
魔法どころか魔術をも弾く肉体……牙を立てても突き刺さることはない。
しかし、刺さらなくていい。触れるだけで、充分だ。その牙にある毒は、触れるだけで岩をも溶かす力を持つのだから。
「っ、めまい……がっ……」
もちろん、結界内であるためにそのような被害をもとらすことはない。が、毒の効果までもなくなるわけではない。
即効性の毒は、肌に触れただけでめまいを起こすほどの事態を引き起こす。
逃げようにも、ハクの鉄のような重みが足枷となり、逃げられない。
もっとも、わずか数秒で方向感覚すら失ってしまうのだが。そうならないのは、やはり体内に毒を送れなかったからか。体内に毒を流すか、体外に毒を付けるか……その差は大きい。
ふらつきながらも、足元はしっかりしているように見える。
もちろん、毒が回り切るまで悠長に待っているつもりもない。
魔術の詠唱が完了し、リリアーナは杖を振るう。
「荒風刃斬!!!」
瞬間、ブルドーラの周囲を風が囲む。これは突風……いや嵐とさえ見間違うほどの強大なエネルギー。しかし、規模はブルドーラを囲う程度だ。
外から見れば、それは嵐の球体とも言える。その中に取り込められたブルドーラは、周囲を見回すが……
突如、なにかに斬りつけられる。今までいかなる魔法も通してこなかった体に、傷が付けられたのだ。
それは、風の刃。風の球体に囲まれ、吹き荒れる風の刃が次々と、ブルドーラに襲い掛かる。
「ぬぅううう……!」
たまらず、顔を庇うように両腕を移動させたブルドーラだったが、無防備となった体に次々と刃が刻まれていく。
ふと、足元を見た。これだけの風の刃、足を縛っている蛇もただでは済まないはずだ。まさか使い魔ごと……
……いつの間にか、蛇は消えていた。
「っ!?」
使い魔召喚のできないブルドーラはあまり使い魔の知識を持っていない。使い魔は召喚者の意思で消すことが可能だ。もちろん、視覚的な意味ではなく物理的な意味で。
魔術を唱えると同時、リリアーナはハクを消していた。なので、ハクが巻き込まれることはない。
しばらくの間、閉じ込めておけば……戦闘不能と、なっているはずだ。
「すごい……」
それを見て、コーロランは素直に称賛の声を漏らす。
ゴーレム召喚以外の魔術を使えないコーロランにとって、様々な種類の魔術を、それもかなり大規模のものを使える兄ゴルドーラは尊敬の相手だ。
今日こうして、リリアーナの魔術を見ることができた。ゴルドーラに負けず劣らずの魔術……舌を巻くばかりだ。
今は魔術を使えなくとも、学園で学んでいけば身につけることができるだろうか。
……同じ一年生でありながら、ゴルドーラに匹敵するエランの存在は、ちょっと泣きたいくらいにうらやましいが。
「っと、ぼくも……!」
いつまでも見とれているわけにはいかない。ブルドーラのおかげで選手は大幅に減ったし、当のブルドーラも倒れるのは時間の問題だろう。
ならばここで一気に、ケリをつける!
「不死たる身体を形成されし人造なる人形よ……」
魔術詠唱を開始する。当然それを食い止めようとする他の選手だが、コーロランは身軽に後退しつつ詠唱を続ける。
防御しながらやったり、エランのように飛んだままやったり分身してやったり……そんな高度な方法は、コーロランにはできない。
だから、相手の攻撃をかわしながら、唱えていくしかない。
「我が下僕となりて眼前に姿を現せ!」
兄と妹と同じ、ゴーレムを召喚するための詠唱が完成する。妹は無詠唱だし、兄のものと比べるとでかいだけで質は全然だが……
だが、この場においてはでかさこそ力だ。
「人造人形!!!」
唱え、直後出現するのは巨大な土人形。見上げるほどの巨体が出現し、選手一同の視線を集める。
みな疲弊してきたところでの、ゴーレムの召喚。これは、他選手にとって厳しいものがあった。
このタイミングで間違いはなかったと、コーロランはふっと笑う。
「さあゴーレム! 残りの選手をなぎ倒して……」
ドッ……!
……次の瞬間、なにか鈍い音が響いた。なにかを殴ったような、そんな音だ。
その数秒後……ゴーレムの体に、異変が起こる。その体がひび割れ、ボロボロと崩れていくのだ。
その光景に、驚きを隠せない。
「……は?」
一瞬、なにが起きたのか……コーロランは、そして他の者も目を疑った。
見上げるほどに巨大なゴーレムが、崩れていく。もちろん、コーロランはそれに関与していない。
外部からの干渉。それは……
「けぇーっへへはははは!
これがゴーレムか! けはははは!」
いつの間にか風の球体から抜け出し、ゴーレムの足元に立つ一人の男だった。
0
お気に入りに追加
167
あなたにおすすめの小説
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
公爵令嬢はアホ係から卒業する
依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」
婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。
そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。
いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?
何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。
エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。
彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。
*『小説家になろう』でも公開しています。
出来損ない王女(5歳)が、問題児部隊の隊長に就任しました
瑠美るみ子
ファンタジー
魔法至上主義のグラスター王国にて。
レクティタは王族にも関わらず魔力が無かったため、実の父である国王から虐げられていた。
そんな中、彼女は国境の王国魔法軍第七特殊部隊の隊長に任命される。
そこは、実力はあるものの、異教徒や平民の魔法使いばかり集まった部隊で、最近巷で有名になっている集団であった。
王国魔法のみが正当な魔法と信じる国王は、国民から英雄視される第七部隊が目障りだった。そのため、褒美としてレクティタを隊長に就任させ、彼女を生贄に部隊を潰そうとした……のだが。
「隊長~勉強頑張っているか~?」
「ひひひ……差し入れのお菓子です」
「あ、クッキー!!」
「この時間にお菓子をあげると夕飯が入らなくなるからやめなさいといつも言っているでしょう! 隊長もこっそり食べない! せめて一枚だけにしないさい!」
第七部隊の面々は、国王の思惑とは反対に、レクティタと交流していきどんどん仲良くなっていく。
そして、レクティタ自身もまた、変人だが魔法使いのエリートである彼らに囲まれて、英才教育を受けていくうちに己の才能を開花していく。
ほのぼのとコメディ七割、戦闘とシリアス三割ぐらいの、第七部隊の日常物語。
*小説家になろう・カクヨム様にても掲載しています。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる