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第五章 魔導大会編
309話 厄介な存在感
しおりを挟む『白熱のAブロックの興奮冷めやらぬ中、続いてBブロックの試合が開始されます!
占めて百一名もの参加者たちが、一斉にぶつかり合います!』
わぁあああ……と、会場が湧く。観戦席にいる人たちが、一斉に声を上げたためだ。
それは、先ほどAブロックのものより大きい。それは単純に、先ほどの試合で観戦者たちの熱も上がったからに他ならない。
そして、理由はもう一つある。
『Bブロック参加者の中には、このベルザ王国の第一王子、ゴルドーラ・ラニ・ベルザも参加しています!
先ほどAブロックにおいても、第一王女コロニア・ラニ・ベルザが参加していました! 王族の参戦はいやでも視線を集めてしまうみたいです!
その調子で、俺もみんなから注目されたい!』
「うるせえ! さっさと試合を始めろ!」
ある意味自由な司会者に、観戦者たちからヤジが飛ぶ。
その厳しい言葉に司会者はしゅんとするが、隣の補佐官に促され、言葉を続ける。
『Bブロックでも白熱の展開が予想されます! さあてめえら、目ん玉かっぽじってよぉく見てろぉ!』
「うるせえっつってんだろ!」
『……し、試合開始ぃ!』
少し震える声で、ついに試合開始の宣言があった。
同時に、参加者たちは杖を抜く。目の前の、あるいは狙いを定めていた人物へと、視線を向けて。
その視線を多く受ける人物……ゴルドーラは、周囲を軽く見回した。
「狙われている、か」
乱戦であるこの戦いではパッと見わからないが、ゴルドーラにはわかった。
周囲の何人か、十何人か、あるいはそれ以上か……ゴルドーラを、狙っている。
それは、ゴルドーラを厄介と定めた結果、参加者たちの共通の敵として認識されたのかもしれない。
もう一つ……参加者たちは、あらかじめ組んで、ゴルドーラを狙うことを決めていたか。
「どちらでもいいか」
『おぉっ、なにやら参加者の一部が、協力して他の参加者を倒しているようだ!』
しかし、狙うのはもちろんゴルドーラだけではない。
これは乱戦、バトルロイヤル。自分以外はすべて敵の状況ではあるが……参加者同士が手を組んではいけない、というルールはない。
手を組み一団となった参加者集団は、他の参加者を蹴散らしていく。
互いに背を向ける形で円陣を組み、魔導を放つ。こうすることで、背後を気にすることなく、正面を相手取るだけで成り立つ。
「はは、悪いなゴルドーラ様! だが、卑怯とは言うまいな!」
「無論だ」
うち一人が、ゴルドーラに対して凶悪な笑みを向けた。これはルール違反ではない以上、誰にも文句は言わせない。
ゴルドーラ自身、これを卑怯というつもりはない。実際、これまでの大会でも、参加者同士手を組み勝ち抜いていく者は少なからずいた。
だが……
「それでも、最終的に勝ち上がれるのは一人だけ。いかにお前たちが協力しようと、最終的には仲間の蹴落とし合いになる」
「へへっ、どうかな」
こちらの言葉に、動揺を見せはしない。そんなこと、言われずともわかっているのだろう。
まあ、他の参加者の事情など、ゴルドーラにとっては関係のない話。
それに……
「たかが十数人、手を組んだところで、俺を倒せる気でいたか?」
参加者同士手を組む、それはいいアイデアだ。
だが、逆に考えればこうも言える……手を組む参加者は、自分で力の弱さを証明しているようなものだ、と。
もちろん、組むという点において強者弱者の差異など比べるべくもない。
しかし、ことバトルロイヤルにおいて組むという選択肢を取る時点で、自分への自信のなさが見て取れる。
「そうやって調子こいてられんのも今のうちだ!
王子だがなんだか知らねえが、所詮ガキひとりに……」
「ドラ」
「ジェアアアアア!」
余裕を見せる男を前に、ゴルドーラは焦る様子もなく……召喚した使い魔の名を呼ぶ。
赤き鱗を持つ巨体は、会場を揺るがすほどの咆哮の後、口の中から炎を放つ。
放たれた炎は、ひとかたまりになっていた参加者たちをまとめて焼き払う。
「っ、か……」
「ほぉ、まだ立っているか。だが悪いな、先手必勝だ」
勝負事において、試合が始まった直後に取る戦法は二つある。様子見をするか、先に仕掛けるか。
相手の実力がわからない場合、様子見をして力を計る。それが、戦いのセオリーだ。
だがこの場においては、先手必勝を優先した。それが有効なのは、先の試合でのコロニアの初手ゴーレムが証明している。
ゆえに、ゴルドーラも使い魔を召喚し、勝負を決めにかかる算段だ。
「ぐっ……そがぁ!」
自暴自棄になった男は、ゴルドーラへと駆けていくが……周りが見えなくなっていたせいか、サラマンドラの尻尾に弾き飛ばされる。
勢いが死ぬことはなく、壁に激突。場外アウトだ。
「どうだ、ガキひとりに負ける気分は……
……聞こえていないか」
周囲では、先ほどの試合同様乱戦が開始されていた。
ある者は魔導士同士の、ある者は使い魔同士の、ある者は……と、様々だ。
そんな中、圧倒的な存在感を本能で理解したのか……サラマンドラに、ゴルドーラに挑んでくる使い魔はいない。
使い魔は本人の力量に応じて、より強大なモンスターが召喚される。大きさイコール強さというわけではないが、
辺りを見ても、サラマンドラを超えるモンスターはいない。
ならば、こちらから仕掛けるか……ゴルドーラが、一歩足を踏み出した瞬間……
「よい、しょお!」
「ゴァ!?」
サラマンドラの顔へと向かって飛びかかり……その頬を、バシンと蹴り上げた、黒髪の少年の姿が目に入った。
見上げるほどの高さのサラマンドラの顔へと飛び上がるジャンプ力、その巨体を後退させるほどの力。
身体強化の魔法を使っているのか……いや、そうだとしても、サラマンドラの皮膚は硬い。蹴り程度で、ダメージが通るはずがない。
しかし、現実は……その認識を改めるように、訴えている。
「よっ、と。
あ、やあ会長さん」
「……」
着地したヨルは、ゴルドーラに向かって邪気のない笑みを向け、手を振っていた。
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