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第五章 魔導大会編

304話 乱戦の中で

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 魔導大会、Aブロックの試合が開始された。
 このブロックに参加している人数は、総勢百名。魔導学園所属者や冒険者、一般の者まで、問わず出場している者たちが、開始の合図と同時に一斉に仕掛ける。

 ……その中で、真っ先に行動を起こした者がいた。

人造人形ゴーレム……!!!」

 瞬間、召喚される複数の土人形。
 地面から、空中から……あらゆる場所から魔術により形成されたゴーレムが、現れる。

 その数、ゆうに十を超える。

「なっ、なんだこりゃ!」

「ゴーレム!? くそ、誰だ! 詠唱は聞こえなかったぞ!」

 突然の参戦者に、一同は驚きを露わにする。中でも、魔導に心得がある者ならこの異様さに顔をしかめる。
 ゴーレムが現れたこと自体に驚きはない。だが、ゴーレムを召喚する土属性の魔術……魔術は、発動するために詠唱が不可欠だ。

 これだけの参加人数だ、魔術を使える魔導士がいても不思議はない。
 だが、詠唱もなしに、魔術を放つなどできるわけもない。
 魔術を使うことも難しいが、無詠唱など不可能とされているのだから。

 あるいは、聞こえないほどの小声で詠唱を唱えたのかもしれない。
 それならそれで、試合開始直後に発動するなど不可能だ。試合開始前から詠唱を唱えることは禁止されている。
 こうして試合が続いている以上、ゴーレムを召喚した魔術は、無詠唱と考えるしかないのだが……

「そんなの、ありえ……ぶへ!」

「やっちゃえー」

 あり得ない、魔術の無詠唱……しかし、それをやってのけた人物がここにいる。
 コロニア・ラニ・ベルザ。ベルザ王国の第一王女で、無詠唱魔術が扱える人物。無詠唱魔術は、あのグレイシア・フィールドでも使えなかったと、エランは驚いたものだ。

 そして、今召喚されているゴーレムは、エランとの訓練時よりも遥かに性能が高い。
 数も、力も、速さも……

「わっ……と」

 その、反射神経も。

「あららー、防がれてしもうたか」

「あ、メリーさんじゃん。やっほー」

「そんなかわいい呼ばれ方するのあんただけですよ」

 コロニアを狙った魔法は、ゴーレムが自らを盾にしたことで防がれる。
 その魔法を撃ったのは、メメメリ・フランバール。生徒会の書記で、狼型の亜人である。

 生徒会長であり、友人でもあるゴルドーラ。彼を接点に、その妹であるコロニアとも顔見知りだ。


『ゴルっちの妹にしてはふわふわした子じゃのう』


 それが、彼女と会った時の第一印象。そしてそれは、間違いではなかった。
 それだけならまだしも、『メリー』なんてあだ名までつけられてしまった。

 こういった、召喚系の魔術等は、術者を倒せば消える。
 なので虚を突いたつもりだったが、届かなかったようだ。

「そのゴーレム、以前見た時より性能がぐんと上がっとりますのう」

「わぁい、ほめられたー」

 周囲ではすでに、ゴーレムと参加者の戦いが始まっている。
 ゴーレムは土人形、脆いと思われがちだが……もちろん、魔力の才ある彼女が、ゴーレムの強度を上げていないはずもない。

 もちろん、メメメリ同様、ゴーレムを手早く倒すために、術者に襲い掛かってくる者もいるが……

「よっ、ほっ」

 ゴーレムが盾になるまでもなく、コロニアは迫る攻撃を、ひょいひょいとかわす。
 後ろから迫られても、まるで背中に目が付いているように、避けていく。

 ……その、もふもふの耳で異変を察知し、危険が迫る前に避けているからだ。

「よぉ利く耳ですのう」

「メリーさんも似たようなもんでしょう」

「がははは、違いない!」

 亜人のメメメリと、獣人のコロニアとでは大きな差がある。
 基本的に、亜人は異種族の姿を成しているために身体能力は、普通の人間よりも高い。
 一方で獣人は、一部分のみ異種族のものへと変化するため、その部位以外は人間と変わらない。

 今、異種族の耳を持っている、という意味では、二人の条件は同じであるが。

「妹さん、なんの獣人でしたっけ?」

「うんとねー……なんだっけ、たぬきだったかな」

「がはは、かわいらしいもんじゃのう」

「メリーさんみたいなかっこいいのも捨てがたいけど、ね!」

 話もそこそこに、コロニアは魔法を放つ。それを、メメメリは受け止め弾き返す。
 連続して放ち、メメメリには反撃の隙を与えない。

 しかし、注意すべきは彼だけではない。
 ゴーレムも周辺を注意しているとはいえ、どこから誰が仕掛けてくるのか……

「せえぇええい!」

「!」

 勇ましい掛け声と共に、煙炎から姿を現すのは、ナタリア・カルメンタール。彼女は魔導の杖を魔力強化し、それを剣のようにしてコロニアへと振り下ろす。
 この会場内には結界が張られており、どんなダメージを受けても死ぬことはない。なので、その勢いに遠慮はない。

 とっさにコロニアも、魔力強化した杖で突撃を受け止めるが……

「ぐぅ……ぅあぁ!?」

 ただ受けるだけのコロニアでは、ナタリアの突進を乗せた斬撃を受け止めきれない。
 後ろに突き飛ばされ、しかし壁に激突する前にゴーレムに受け止められた。

 追撃しようとするナタリアだが、しかしゴーレムに阻まれる。

「ナタールちゃん……」

「その独特的な呼び方、慣れてきている自分が居ることに喜べばいいのかどうか、複雑な自分がいるよ」

 ナタリアはゴーレムを切り伏せるが、その程度ではすぐに再生する。
 これもまた、ゴーレムの厄介な部分であった。少なくとも、相手取る側に立てば。

 ナタリアが、杖に魔力強化をしている理由は、極力魔力の消費を抑えるためだ。再生持ちのゴーレムに攻撃を当て続けても、こちらが消費するだけ。
 エランのように、強大な魔術で一気に消し飛ばせば話は別だが……この状況でそれは、得策ではない。
 というか無理だ。

「ボクもエランくんみたいに、飛びながら魔術撃てたらなぁ」

「おいおい嬢ちゃん、横入りかい?」

 吹っ飛んできたゴーレムが、ナタリアの右横を通過する。
 ゴーレムを投げ飛ばしたメメメリが、パンパン、と手を叩いていた。

「これは乱戦、横取りもなにもないと思いますけど、先輩」

「がはは、その通りじゃ! じゃが、わざわざここに来んでもよかったんじゃないかの?」

「同じクラスとして、コロニアくんとはきちんと手合わせしたいなと思いまして」

 ナタリアは、コロニアがゴーレムを召喚する魔術を使えるとは知らなかった。
 が、兄二人はゴーレムを召喚していた。だから妹である彼女も……という予感はあった。
 もっとも、彼女が無詠唱魔術の使い手だとは、噂で聞いていた。

 ちなみにそれをエランに確認して見たところ……


『え、えー? そそ、それは、ナタリアちゃんでも、い、言えないかなぁ』


 との、素晴らしい答えを貰った。

 無詠唱魔術、なるほど詠唱が必要とされる魔術を無詠唱魔術で放てるとは……とんでもない、いや唯一無二といってもいい技術だ。
 だからこそ、この手で戦ってみたい。

 彼女が無詠唱魔術使いで、且つゴーレムを召喚できるのなら、試合開始直後に仕掛けるとは思っていた。
 同じように考えていた人がいたとは、思わなかったが。

「ふむ、ナタリア・カルメンタール……
 エランの友人で、学園【成績上位者】……且つあの魔導のエキスパート、アルミル・カルメンタールの孫娘か」

「あはは、"そっち"がついでみたいな言い方ですね」

「不満かの?」

「いえ……お爺様は偉大な方ですが、その孫って肩書きよりも……
 エランくんの友人として認識されている方が、百倍は気分がいい!」

 瞬間……瞬く閃光が、メメメリの視界を奪い去った。
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