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第五章 魔導大会編

300話 待ち望んでいた日

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「うぉー! 私は今燃えているよ!」

「朝から元気ですわねぇ」

 朝、目覚めるのと同時に飛び起きた私は、叫ぶ。今日という日を待ち望んでいたからだ。
 ただ、朝から大声を出しすぎたかもしれない。ちょっと反省。

 先に起きていたノマちゃんは、驚いた様子もなくお上品にあくびをしている。まるで、私ならこうすることを予測していたようだ。
 私はそんなにわかりやすいだろうか……んん……

「だって今日から、魔導大会が始まるからね! 楽しみで仕方ないよ」

「楽しみなのはよろしいですが、フィルさん起きてしまいますわよ?」

「はっ!」

 ノマちゃんの指摘に、私は隣を見る。
 私と同じベッドで眠っている、小さな女の子……フィルちゃん。彼女は、気持ちよさそうな寝息を立てながらすやすやと眠っていた。

 そのあどけない表情に、私は自分の中で熱くなっていたものが、落ち着いていくのを感じた。

「……起きてないよね」

「そのようですわ」

 私は布団をフィルちゃんにかけ直してやり、頭を撫でる。少し、嬉しそうに笑っている。
 これが、私の毎朝の癒やしだったりする。

 ……フィルちゃんと初めて会ったあの日。午後の授業を欠席した私は、自分の部屋へと戻った。
 私から離れようとしないこの子を、授業に連れて行くわけにいかないからだ。かといって、このままずっと、フィルちゃんについて欠席するわけにもいかない。

 なので私は、時間を見つけてサテラン先生に事情を話しに行った。クレアちゃんに呼び出してもらってね。
 大まかな事情と、実際に私に引っ付いているフィルちゃんを見て、先生は大きなため息を漏らしながらも納得してくれた。

「それにしても、フィルさんはすっかりフィールドさんに懐いてますわねぇ」

「心当たりがないんだけどね」

 先生の許可を得て、フィルちゃんはこの部屋で預かっていいということになった。
 本当なら、憲兵さんに届けて……っていう流れなんだけど、この子は頑なに私から離れようとしないので仕方なく、こうなった。

 一応、先生たちの間で情報は共有して、フィルちゃんの親を探してくれてはいる。でも、この五日手がかりはなし。
 フィルちゃんに聞いても、ママは私だと言うし、パパはわからないって言うし……どこから来たとか、そんな情報も曖昧だ。

 私から離れたくないとわがままは言うけど、私の言うことは比較的聞いてくれる。なので、困ったことはあまりない。
 あるとすれば……授業中、かな。


『キャー、かわいい!』

『え、え? エランちゃんの妹!?』


 さすがにフィルちゃんを預かっている間、ずっと授業を欠席するわけにもいかない。かといって、フィルちゃんを一人部屋に残すのも心配だ。
 ダメ元で提案したのが……フィルちゃんも授業に、というか教室に連れて行くこと。

 それに対してだめと言われると思ったけど、意外にもオーケーが下りた。ま、ちゃんとおとなしくしてるならって条件付きだけど。
 で、フィルちゃんを教室に連れて行った結果……主に女の子たちからの人気が、すごかった。


『フィルは、ママのこども!』

『そう、エランちゃんのこど……え?』


 こういうやり取りがあり、ごまかすのも面倒な私はクラスのみんなにも、情報を共有した。
 なんでか私がママになってる。何度訂正しても聞かないから、もう諦めた。みんなもそう思ってくれ……と。

 ただ、私のことをママと言った瞬間みんな驚いてはいたけど、その中でも特にダルマスの顔はすごかった。
 あんな顔初めて見たよ。まあクラスメイトに子持ち疑惑が出たらそうもなるだろう。

 授業中のフィルちゃんだけど、おとなしくじっとしていた。一番後ろに用意された席にちょこんと座って、じぃっと。
 授業の内容はわからないだろうに、おとなしいもんだった。私がおとなしくしておいてと言ったからだろう。

 フィルちゃんとは、常に行動を一緒にしている形だ。プライベート、授業中、休憩時間……放課後の、生徒会の仕事まで。
 もちろん、ゴルさんたちは最初渋い顔をしたけど、先生からも言われているし、邪魔をしないならということで特別に生徒会室にいる許可が出た。

「けれど、大丈夫でしょうか。魔導大会中はさすがに……」

「うーん……まあ、クレアちゃんやルリーちゃんに頼めば、大丈夫だと思うけど」

 この五日間で、フィルちゃんはいろんな人と仲良くなった。わりと懐きやすい子なのだ。
 なので、魔導大会中、観戦するクレアちゃんかルリーちゃんに預ければ、問題はないだろう。

 フィルちゃんの親はまだ見つからない。いや、親だけじゃない……身内の類いが見つかったって報告はまだない。
 まるで……それが、かつての自分のことのように、思い出されてしまう。フィルちゃんの場合、記憶喪失ってわけじゃないみたいだけど。

「フィルちゃんのことは他のみんなに任せるよ。だから私は、大会に専念する!」

「ですわね」

 魔導大会が開かれる間は、授業は……というか学園は休みになる。学園からの出場者も多いしね。
 聞いた話だと、先生も何人か出るみたいだ。

 そういえば、大会のスケジュールってどうなってるんだろう。大会が楽しみすぎて、その辺まったく気にしてなかった。

「……ま、いっか」

 なんにせよ、いよいよ魔導大会が始まる!
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