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第四章 魔動乱編

299話 気合いは充分!

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「はぁー、早いもんだねぇ」

 私は、ぽつりとつぶやく。学園の食堂でお昼ご飯を食べている時だ。
 ごくごく、と水を飲み喉を潤していく。んー、ここの料理もおいしいけど、水もおいしいんだよね。

 魔導をうまく使うためには、体調の良し悪しが関係してくる。だから、食事にはより気合いを入れているのが、魔導学園だ。
 空腹だと、魔力をうまく操作できないからね。

「早いって……魔導大会のことかい?」

「うん」

 ナタリアちゃんの言葉に、うなずいて答える。
 そう、魔導大会までもう数えるほどしかない。というか来週だ。

 いろいろと、生徒会の仕事に追われていたり、訓練をしたり付き合ったり……そうこうしているうちに、あっという間に時間は過ぎていく。

「なんか、平和な時間っていいものだなって思うよ」

「……それをエランちゃんが言うの」

 しみじみと、最近の平和について考えていたところへ、クレアちゃんから呆れたようなため息が漏れる。
 それはどういう意味だろう……てのは、考えるまでもないか。

「普通、あんなにバタバタした日常は流れないよ」

「そうね。魔獣騒ぎとか決闘騒ぎとか魔死事件とか……」

「待って、みんな私がトラブルメーカーみたいに言うけど、ほとんど私巻き込まれただけだからね!」

 今クレアちゃんが言ったような、一連の騒ぎのせいで、いかにも私がトラブルメーカーみたいに扱われているけど……
 ゴルさんとの決闘は私から仕掛けたことは否定しないけど、魔獣は向こうからやって来たのを倒しただけだし、コーロランとの試合は向こうから挑まれたんだし……私が発端の騒ぎって実はあんまりないんだよね。

 そう、訴えるんだけど……

「でも生徒会長に決闘を挑む時点で、おつりがくると思うよ」

「しかもその後、生徒会に入ってるし」

「むぅ」

 ただ、周りからすれば私のやらかしたことの規模が大きすぎるみたいだ。おまけに、実際に魔獣を倒したりもしてるのは私だから……
 結果的に、私イコールやべーやつと認識されている。

「フィールドさんがアグレッシブなだけで、本来はあんなに忙しい日々を送ることはないと思いますわ」

 と、ノマちゃんが一口サイズの果物をパクリと食べながら、話す。私アグレッシブかなぁ……アグレッシブなんだろうなぁ。
 まあ……そうだよな。巻き込まれたにしても、特に"魔死事件"の件では結構な労力を使ったような気がする。

 それに、冒険者と行動を共にした件でも……

「まあでも、貴重な体験は出来てると思うよ。うん!」

「エランさんは前向きですね。素敵です」

 私の前向き発言に、ルリーちゃんが目を輝かせている。
 魔獣騒ぎの一件以来すっかり私に懐いてくれたルリーちゃんだけど、最近はいろんな人と交流を深めているようで良かったよ。

 ルリーちゃんの正体はダークエルフ、認識阻害の魔導具でごまかせてはいるけど、正体がバレたら大変なことになる。だから、はじめのうちはおどおどしていたけど。
 最近では、前向きになりつつある。

「結局、クレアちゃんとルリーちゃんは大会には出ないんだねぇ」

「あはは、さすがにエランちゃんや会長たちまで出る大会で勝ち残れるとは思ってないわよ」

「別に勝ち負けにこだわらず、思い出として参加するのもありなんじゃないかな?」

「ですわ」

「うーん……でもやっぱり私は、見る専門かなぁ。って、そう言うナタリアちゃんは勝ち負け考えてないの?」

「無論、勝つつもりだよ」

 魔導大会に出場するのは、この中では私、ノマちゃん、そしてナタリアちゃん。
 一度大会参加者を募集した後、やっぱり出場したいって人もちょいちょい来た。

 まだ大会出場のエントリーには猶予はあるけど、クレアちゃんはこの様子だと出場しない方向でまとまりそうだ。

「わ、私も……」

「あら、ルリーさんは最初、フィールドさんが出るなら自分も出る、とおっしゃってませんでした?」

「うぅん……あの時は、気の迷いと言うか……」

 極力人目に付かない方がいいルリーちゃんが、出場するって言っていた時は大丈夫かとも思っていたけど……
 その後、考えを改めたらしい。

 私としては、そりゃあ出場してほしい気持ちはあったけど……そう簡単にはいかないだろうとは思っていた。
 認識阻害の魔導具があっても、ナタリアちゃんみたいに"魔眼"を持っている人がいるとも限らないし……魔術なんて使ったら、一発でバレそうだもんなぁ。

 いつか、そういうの気にすることのない日が来るといいけど。

「それじゃ、二人の分も張り切っちゃうよ私は!」

「あはは、応援してるわ」

「はい!」

 そういえば……大会の戦い方って、どんな方法なんだろう。なんか勝手に、決闘みたいな一対一だと思ってたけど。
 出場する人数が、かなりいるんだ。そんなことをしていたら日が暮れるどころの騒ぎじゃない。

 やっぱり、総当たり戦みたいな感じなのかな?

「んぐ、ぷはぁ! ちょっとトイレ」

「いってらー」

 水を飲みすぎたせいだろうか、ちょっと催してきた。ので、席を立つ。
 後ろからノマちゃんに「お手洗いですわよ」と、トイレの言い方を注意されたけど、それはさらっと流しておく。

 ……用を済ませてすっきりしたところで、みんなのところに戻ろうと足を進め……ようとしたところで、ふと視線を外へと向けた。
 そして、足を止めた。

「んん?」

 目を凝らしてよく見るけど、そこにある……いや、いる人は見間違いではない。
 外に、白髪の女の子が、いた。きれいな髪だ。
 何歳くらいだろう……小さい。遠目だけど、背が私の腰くらいしかないんじゃないだろうか?

 学園の生徒、じゃないよね。見た目で判断してはいけないってのは、レニア先輩で学んだけど……あの人は同い年かって思っただけで、あの子は完全に子供に見える。そもそも制服着てないし。
 小人族ドワーフではなさそうだし。それに、すごいキョロキョロしているから、やっぱり学園の生徒ではない。なら、関係者?

 この学園広いからなぁ……私も、最初は迷ったものだ。
 ……なんにせよ、ここで見て見ないふりはできないか。そもそも、この学園はセキュリティがしっかりしているから、誰かたまたま迷い込むなんてことはないはずだ。

 学園関係者なのは間違いないよ、

「キミ、どうしたの?」

 私は外に出て、その子に話しかける。膝を折り、目線を合わせる。周囲には人はいない。
 怖がらせないようにしないとな。

 私の問いかけに、その子は首を傾げる。誰かの妹か、子供か……あ、もしかして言葉がわからなかったりするのかな。

「ぁ……」

 私は、その子の顔を……いや"目"を見て、思わず声を漏らしていた。近くで見たことで、気づいた。
 それと同時に女の子は、私の顔を覗き込み……"黒目"の中に映った私の顔は、ひどく間の抜けたものだった。

 そして、女の子はにこりと笑って、予想もしなかった言葉を口にした。

「みつけた、ママ!」

 ……と。

「……う、ん?」

 ……魔導大会開催まで、残り五日。
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