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第四章 魔動乱編

268話 もはや問題児扱い

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「もー、言ってよ私にもー!」

「ご、ごめんね」

 不服を露わに、クレアちゃんが私たちに言う。その頬は膨れていて、不満を全面的に押し出している。
 それに対して申し訳ない表情を浮かべるのは、私とルリーちゃんと、ナタリアちゃんだ。

 これに関しては、ごめんとしか言えない。言い訳もできないよ。

「ま、まあまあアティーアさん。落ち着いて」

「だって、私以外みんなノマちゃんが今日から学園に通うこと知ってたのよ!? 文句も言いたくなるわよ!」

 クレアちゃんがこうも怒っている理由は、ノマちゃんが学園に戻ってくるのを知らなかった、というものだ。
 先生以外で知っている生徒は、同室の私と、生徒会の面々。それに、私がお世話になっていたルリーちゃんとナタリアちゃん。これまで部屋にお邪魔していたのに、次の日からもういいです、となれば理由を聞かれるのは当然だ。

 だから、そういった一部の生徒を除き、当日となった今日ノマちゃんが復帰したことを初めて知ったわけだ。

「そんなの、私だけ仲間外れみたいじゃない」

「そんなつもりは……」

 ぶーぶー、と唇を尖らせているクレアちゃんは、完全に拗ねてしまっている。
 これが、他の生徒と同様に知った、という内容だけならここまで荒れることはなかっただろうけど……よりによって、ルリーちゃんとナタリアちゃんまで知っちゃってたからなぁ。

 それに、絶対隠しておかなきゃいけなかった、ってわけでもないし。

「みなさんはほら、サプライズのつもりで、黙っておられたんですよ。ね?」

 しまいには、ノマちゃんにフォローされてしまうほどだ。

「本当に申し訳ない」

「すみません」

「まったく……」

 三人からの謝罪を受け、クレアちゃんは怒りをおさめる。どうやら、本気の本気で怒っている、というわけでもなかったみたいだけど……
 けれど、思うところはあったみたいだし。ちょっと反省。

 ノマちゃんが再び学園に通うことになり、私たちの日常もいつも通りを取り戻しつつある。
 クラスでは、いきなりノマちゃんが登校してきたからそりゃ驚かれたみたいだ。

 そして、お昼休みの時間。いきなり現れたノマちゃんの姿に、クレアちゃんは大きな口を開けて驚き、先ほどの発言に至ったというわけだ。

「それにしても、クラスのお友達ももっとノマちゃんと話したかったんじゃないの?」

 ノマちゃんは食堂に来て、私たちと話しているわけだけど……クラスで仲の良い子たちは、もっと話したかったのではないだろうか。
 そう気になって、聞いてみると……

「クラスの皆さんとももちろんお話したいですけれど……皆さんとも、ずっとお話したかったですから」

「ノマちゃん……」

「ノマさん……」

「ノマくん……」

 と、実にありがたい言葉をいただいた。少し胸の奥がキュンとしてしまったよ。
 ちなみに、ノマちゃんの身になにが起きたのか……それは、ごく一部以外知らない。

 先生の中でも一部しか知らなかったり、ゴルさんたちも実際にはどこまで生徒会の中で共有しているのか。
 ノマちゃんには今、人以外の……魔の血が流れている。魔と聞いて連想するのが、魔族だろう。

 魔族ってのは、今や絶滅した種族の一つだって話だけど、昔はそりゃ人々に恐怖された存在らしい。扱いはエルフ族みたいだけど、エルフ族とは違って積極的に人々を襲っていたのだとか。

 そんな魔族の血と、同じようなものが流れていると知られたら、どうなってしまうのか……ただでさえ、"魔死事件"で唯一生き残った子なのだ。
 下手な詮索をされないためにも、この情報は一部の人間しか知らない。

「でも、やっぱり人目は集めちゃうわよね」

 お茶を飲んで喉を潤したクレアちゃんは、周囲を見ながらそんなことを言う。
 確かに、いつもより視線を感じると思っていたけど……なるほど、ノマちゃんがいるからか。

 ノマちゃんが事件の被害者だと、全校生徒に大々的に発表されたわけではない。けれど、人の口ってのは簡単には塞がらないものだ。
 話はどんどんいろんな人へと伝わっていき、結局はほとんどの人がノマ・エーテンという子が被害に遭ったのだと知った。

 もっとも、ノマちゃんの名前を知ったからって、顔と名前が一致しなければバレないはずなんだけど……

「みんなノマちゃんのこと知ってるんだね……」

「というか、ある意味では有名人かな」

「ある意味?」

「なんせ、学園新入生の問題児エラン・フィールドと同室の子……嫌でも話のタネになる」

「ふむふむ……んん?」

 私の疑問に、ナタリアちゃんが答えてくれる。なるほど、そういうことか……と思っていたんだけど。
 待って、今なんかとんでもない言葉が聞こえたような気がするんだけど!?

 私の名前、まではまだいいよ! 学園新入生の問題児!?

「ねえ、私の呼び名変じゃない?」

「そんなことないよ。新入時の魔力測定、入学してから数日のうちに魔獣討伐や生徒会長との決闘、王族を顎で使ったり学園の変わり者と仲良くしたり、赴任してきたばかりのエルフ教師に勝負を挑む。
 ただでさえその髪と瞳の色は目立つのに……もはや問題児扱いされても仕方ないとは思うね」

「待って! なんか途中変なの混じってなかった!?」

 なんてことだ……これまでにも、私が悪目立ちする理由として切っても切り離せない魔獣騒ぎや決闘の件は知っていたけど。まさか私の知らないことまでなんか広まってる!
 しかも、エルフの教師……ウーラスト先生との勝負なんて、ついこの間のことなのに! もう話が広がってる!

 どんどん、私の名前が変な方向に走っていってる気がする!

「え、エルフの教師!? 勝負!? どういうことですの!?」

 ほらぁ! あの件を知らない子がここで食いついちゃったよ!
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