268 / 849
第四章 魔動乱編
263話 検査結果は異常なし
しおりを挟む「フィールドさーん!」
「ノマちゃーん! 会いたかったよー!」
お互いに腕を広げて、駆け寄って行く。勢いあまって正面から衝突、なんてこともなく、私とノマちゃんは正面から抱き合った。
ひしっ、とお互いに強く、抱きしめ合う。そのおかげで、ノマちゃんの大きなものがめちゃくちゃ押し付けられてくる。
大きいうえに、や、柔らかい……べ、別に悔しくなんてないんだからね!
「わー、感動の再会ってやつ? 泣けるー」
「なら泣く素振りくらい見せてよ」
「ウケるー」
「なにが!?」
抱きしめ合う私とノマちゃんを見て、パチパチパチ、と手を叩いて拍手をする人物。振り返ったそこにいたのは、コロニアちゃん……コロニア・ラニ・ベルザだ。
この国の第一王女で、ほわほわした王女様。ゴルさんとの決闘の際には、練習相手になってくれたりといろいろお世話になったものだ。
ただ……
「エフィーちゃん、ちょっと泣いてるー?」
「な、泣いてない!」
私のことを『エフィーちゃん』と変わったあだ名で呼ぶ、変わった子だ。
学園再開から二日……今私は、コロニアちゃん同伴の下王城に来ている。
そして、王の間で見事にノマちゃんと再会して、こうして抱きしめ合っているわけだ。
「ノマちゃん、検査の結果はなんともなかったんだね」
「えぇ、ご心配おかけしましたわ」
「マーとしては、異常があった方が安心だったんだけどねぇ……あ、変な意味じゃなくてね」
ぶかぶかの白衣を着て検査結果を伝えてくれるのは、マーチヌルサー・リベリアンさん。通称マーチさん。
彼女に悪気がないのは、わかっている。ノマちゃんの身に起こったことを考えれば、むしろ"異常がないことが異常"とも言える。
だけど……
「さすがに、異常なしの年頃の女の子を、いつまでも押し留めとくわけにいかないからねぇ」
検査をするにも、お金と時間がかかる。それを、異常が見当たらない相手にいつまで費やせられない。
それに、ノマちゃんのことを考えても、このままずっと検査……ってわけにもいかない。
この数日、検査を重ねて、その結果が異常なしだ。
「人と魔の魔力が混ざった状態を、異常なしって判断していいかは議論の余地があるけどね」
「ですがわたくし、元気ですわ!」
「と、本人も言ってるからねぇ」
人と魔の血、その問題を除けば、なんの問題もない。その状態が"魔人"と呼ばれる者だって言うのも、一部しか知らない。
……どうやら、この数日の間に、ノマちゃんにレジーを会わせたらしい。もちろん、檻の柵越しに、監視の人付きで。
ノマちゃんをあんな状態にしたレジー、"魔人"という単語を口にしたのも彼女だ。
自分が殺そうとした相手と会わせたら、なにか反応があるのではないかと思ったみたいだけど……結果は、反応なし。
どうやらレジーは、捕らえられて以降、沈黙を守り続けているらしい。最低限出される食事も、口にしていないのだとか。
「ただ、なにがあるかわからない。少しでも変だと思ったら、すぐに言うんだよ」
「もちろんですわ!」
「私も、これまで以上にノマちゃんのこと見ておくよ! あと、レジーのこと殴りに行ってもいいかな!」
「いいわけないだろう、唐突だな」
ノマちゃんの元気な姿を見ていると、ノマちゃんをあんな目に遭わせたレジーにむかっ腹が立ってきた。
だから、ここに来てついでに殴りに行っていいか聞いたんだけど……王様から、待ったがかかってしまった。
「えー」
「えーじゃない。
……とはいえ、今日キミをここに呼んだのは、彼女に会わせる目的もあったのだがな」
膨れて見せると、王様はあからさまに疲れた表情を見せた。
どうやら、レジーの扱いに参っているらしい。
"魔死事件"についてや、魔獣を操っていたこと……彼女には聞かなければいけないことが、たくさんある。だから、即座に処刑する、なんて判断も出せない。
……それにしても、レジーがルランのことを話していないっぽいのが意外だな。"魔死事件"に関してはルランの冤罪がほとんどなんだから、せめてルランの名前くらい出すのかもと思っていたけど。
それとも、私の魔法で強く命じているから、名前を出さないだけなのかな。
「確か、キミの魔法で彼女は、キミの言うことには逆らえないのだったな」
王様が、確認するように私に聞いてくる。
私はレジーに『絶対服従』の魔法をかけた。それにより、私の意思には逆らえなくなっている。もっとも、これも完全にそうであるわけではないけど。
ただ、『絶対服従』なんて言うとすごく物騒なので、やんわりと伝えている。その内容にあんまり違いはないように聞こえるけど。
「まあ、そうですね。
じゃあ私を呼んだのは、ノマちゃんといち早く会わせてくれるだけじゃなくて……」
「レジーに、なんらかの働きかけをしてほしいと思っていてな。このままではらちが明かない」
ふむ、そういうことか。『絶対服従』の魔法は使用者が近くにいなくても持続するけど、長くその時間が続くか、使用者の魔力が尽きるかすると魔法の効果も切れる。
逆に言えば、定期的に魔法をかけ続けることで、相手の抵抗の意思を奪うことができる。
うーん、今日はこのまま、再会したノマちゃんと学園に帰って、新しく用意されている部屋で、新生活の準備を始めたかったんだけど……
「わかりました。その役目、引き受けましょう!」
ノマちゃんといち早く会わせてくれたその心遣いには、報いないと!
それに、レジーを殴るのは二割冗談だけど、その後が気になっていたのも事実だしね。
10
お気に入りに追加
189
あなたにおすすめの小説

こちらの異世界で頑張ります
kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で
魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。
様々の事が起こり解決していく

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~
Ss侍
ファンタジー
"私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。
動けない、何もできない、そもそも身体がない。
自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。
ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。
それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

公爵令嬢はアホ係から卒業する
依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」
婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。
そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。
いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?
何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。
エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。
彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。
*『小説家になろう』でも公開しています。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
最初から最強ぼっちの俺は英雄になります
総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる