上 下
263 / 781
第四章 魔動乱編

258話 人もエルフも分け隔てなく

しおりを挟む


 あらすじ。昼食中にウーラスト・ジル・フィールド先生が現れた。

「あ、どうぞどうぞ」

 突然のウーラスト先生にみんな驚く中で、ナタリアちゃんだけはニコニコ笑いながら、隣の席を引いた。
 先生は、「悪いね」と声をかけてから、ナタリアちゃんの隣に座る。

「なんだか注目浴びちゃってどこも座りにくくてね」

「ならなんでわざわざ女の子だらけのところに来たんですか。そもそも教員は教員用の食堂があるでしょう」

「あ、教育実習の身で教員の食堂は使えないよー、とか?」

「あはは、そんなことはないけれど。生徒との交流を深めようと思って」

 けれど、いざ食堂に来てみれば、思っていた以上に注目を浴びてしまって、立ち往生していた……とのこと。
 そりゃあ、学園どころか国のどこにもいないエルフが現れたんだから、みんな驚くよ。

 人によっては、エルフという特徴は知っていてもエルフを直接見るのは初めてじゃないだろうか。
 というか、初めての人が多いんじゃないかと思う。

「……ぁ」

 そんなことを考えていた。ふと視線をさまよわせ、ルリーちゃんを見た時。自然と声が漏れてしまった。誰にも聞こえてませんように。
 ルリーちゃんは、ウーラスト先生から視線を外すようにして、いつもより深めにフードを被っている。その理由は……すぐにわかった。

 エルフには"魔眼"という目があり、それは人の体内に流れる魔力が見えるのだという。そして、魔力は種族ごとに違うとも。
 実際、"魔眼"を持っているナタリアちゃんは、その力でルリーちゃんがダークエルフだと見抜いた。

 つまり……エルフ相手には、いくら顔を隠そうがルリーちゃんの魔力までは隠せないため、ダークエルフだとバレてしまうということ。
 それがわかったから、ルリーちゃんは……

「る……」

 私は、なんて声をかけたらいいのだろう。ここにルリーちゃんを留まらせるのはよくないと思うけど、あからさまに逃がすのも不思議に思われる。
 そもそも、ルリーちゃんの姿を見られたら終わりだ。ルリーちゃんが席を立てば、反射的にそちらを見てしまう。

 あるいは。ルリーちゃんが被っている、フード……認識阻害の魔導具の効果が、エルフの"魔眼"にも通用する、というのを、願うしか
 ……いや、それだとそもそもナタリアちゃんにバレることはなかったよな。

 そんな私の気持ちが伝わったのか、ルリーちゃんは問題ない、とジェスチャーを送ってきた。

「ところで、先生はウーラスト・ジル・フィールド……でしたよね」

「そうだよ。というかというか、先生はくすぐったいんだけどな」

「生徒からしたら教育実習生でも先生みたいなものですよ」

 わりと積極的に、ウーラスト先生に話しかけているナタリアちゃん。新しい先生に興味がある……というよりは。
 先生がエルフだから、話しかけているって感じかな。

 ナタリアちゃんは、とあるエルフに命を救ってもらい、そのときに"魔眼"を受け取った。あ、"魔眼"をもらったから助かったんだったか。
 だから、エルフ族に対しては親しみのようなものを覚えているのかもしれない。

「まあまあ、好きに呼んだらいいけどね。
 で、オレオレの名前がどうしたって?」

「どうした、と言うほどでもないですが。
 フィールドはわかるんです、グレイシアさんの弟子だと言うなら。けれど、"ジル"は?」

 ナタリアちゃんの疑問、それは私も正直気になっていたところだ。
 人の名前っていうのは、基本平民、貴族に分けられる。例えばルリーは平民、クレア・アティーアは貴族、といった感じだ。

 それ以外だと、ゴルドーラ・ラニ・ベルザみたいに王族の人に、真ん中に名前が入っている。
 ラニっていうのは、この国の一番最初の王族だとかなんとか。

 で、そういう長い名前だってことは……

「もしかして、先生も王族?」

「はは、違う違う」

 笑って否定された。どうやら王族ではなかったらしい。
 先生は、自分のご飯を食べながら、うーんと首をひねっていた。

「ジルってのは、昔世話になった人にもらった名前というか……いやいや、違うか。
 オレオレが世話になって、尊敬してた人の名前を、使わせてもらってんの」

「……尊敬してた人? 師匠じゃなく?」

「グレイ師匠はもちろん、一番尊敬してるよ。エルフの中でね。
 けど、ジルは……人間だよ」

 お肉を食べていくウーラスト先生は、懐かしいものを思い出すように、目を細めていた。
 その言葉の内容に、驚いてばかりだ。尊敬してたエルフはともかく、人間でそういう人がいたなんて。

 じゃあ、ジルは人の名前、フィールドは師匠の名前……ということだよな。
 それも、師匠と同じくらいに尊敬している人の、名前。

「へぇ、なんだか興味深い話ですね」

「お世話になった人だよ。もう何十年も前のことだけどさ。ま、今でもちょいちょい会ってるけど。
 平民だったけど芯が強くて、エルフであるオレオレにも分け隔てなく接してくれてさ」

 だから、自分も人間を深く知りたくなってここに来たのだ……と、ウーラスト先生は言う。そして、理由は他にもあるけどね……と。
 エルフにも分け隔てなく接して……か。そういう人は、案外どこにでもいるのかもしれない。

 こうして、楽しいお昼休みの時間は、あっという間に過ぎていく。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

目覚めれば異世界!ところ変われば!

秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。 ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま! 目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。 公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。 命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。 身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

処理中です...