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第四章 魔動乱編

254話 魔力に長けた種族

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「魔法の威力を上げれば、オレオレの魔法殺しの壁は突破できる。
 けれど、それだけじゃあダメダメだ。力押しじゃ、オレオレには通用しないよ」

 私の放った魔法は、いつもよりも威力が上がっていたおかげか、先ほどのように魔力に変換され消えてしまうことはなかった。
 だけど、魔法の起動を変えられた。エルフに一直線だったはずの魔法を。

 放った魔法は基本、放った本人以外が操作するなんてことはできない。それができるとすれば、よほど魔力というものに精通している人物か……

「さすがはエルフってことか」

 魔法は魔力の塊……だから、魔力の扱いがうまいと言われているエルフなら、他人の魔法を操作できても不思議じゃないってことだ。
 師匠も、同じことをしていた。私の魔法を、まるで自分のものみたいに扱ってたっけ。

 たくさんの火の玉を放ったら、それをお手玉みたいにしてかわされたのは今はいい思い出だ。
 ……それと、だ。

「魔法殺しの壁……?」

 今、この男すごい物騒なことを言った気がするんだけど。なんだよ、魔法殺しって。
 ただまあ、そのニュアンスはなんとなく、わかる。

「そそ、キミ不思議がってたでしょ。オレオレに届く前に、魔法が消えちゃう現象。それはオレオレが、自分の一定距離に入り込んだ魔法を、魔力に分解する壁みたいなのを展開してるから。
 ネーミングは適当につけただけだから、気にしないでよ」

「……わざわざ教えてくれるんだ?」

「察しはついてたっしょ。それに、わかったからって簡単に対処できるもんでもない。
 分解する魔法も、魔力が一定以上あれば効果は受けないけど、その場合は今みたいに弾けばいいだけだしね」

 ご丁寧にネタバラシをしてくれるけど……エルフの言う通り、答えを聞いたところで対処が思いつくわけではない。
 半端な魔法は、あの壁の前に防がれる。威力を上げて壁を突破しても、魔法を操作されて当たらない。

 なるほど、魔導士にとってはこれ以上やりにくい相手はいないだろう。

「面白い……!」

「!」

 エルフとの勝負。これまでの、魔導のぶつかり合いとはまた違った勝負。
 これまで、魔導について知識を深めてきたし、技術だって磨いてきた。それが、まったく意味をなさない相手。

 なのに、どうしてこうも、ワクワクが止まらないのだろうか!

「この状況で笑うとか……キミもずいぶん変わり者みたいだねぇ」

「そりゃどう、も!」

 私はもう一度、魔力で身体強化をして、エルフの懐に突っ込む。ただし、今回は全身ではなく、足のみの強化だ。
 どうせある程度近づけば、魔力を剥がされてしまうのなら……全身纏うよりも、足だけにしておいたほうがいい。

 また私が突進してくるとは思ってなかったのか、エルフは驚いた様子だ。
 予想通り、ある程度近づけば身体強化の魔法は解除されてしまうが……それは、折り込み済みだ。

「へぇ、また突っ込んでくるとは。いったい今度はなにを……」

「どせぇえええい!」

「うぉお!?」

 余裕を浮かべたその面に、思い切り拳を振り抜く。けれど、今度は寸前に避けられてしまった。
 くそ、あと少しだったのに。わずかばかり警戒していたってことか。

「おいおいおいおい、またそれかよ。女の子なんだからそんな野蛮なことは……」

「いっぱしの魔導士は体も鍛えてこそ! 師匠の教えだよ!」

 拳はかわされたけど、構わず追撃をする。拳を、蹴りを、エルフの顔面目掛けて打ち放っていく。
 魔力で強化はできないけど、それでも結構素早く攻撃できているはずだ。

「っ、確かにこれなら、オレオレの魔法殺しの壁も意味なし。考えたね」

「魔法が使えないなら、拳だよ!」

「悪くないが……やっぱり、まだまだ!」

 繰り出した拳を寸前でかわされ、逆に掴まれて……背負投げの要領で、ぶん投げられてしまう。
 空中にぶん投げられた私は、身動きがとれない。だけど、エルフが私に向けて杖を構えているのが見えた。

 エルフが魔法を放っても、私にはエルフの魔法を防ぐ術はない。
 ……だったら。

「……の……を永久とこしえに……」

「……っ、魔術の詠唱か! いつの間に!」

 投げられた直後に、めっちゃ早口で、だよ!

永久凍結エターナルブリザード!!!」

 杖をかざし、魔術の詠唱を終える。杖の先端が淡く光り、魔術が放たれる。
 強烈な冷気を纏ったそれは、あの魔獣も凍らせたほど強力なものだ。いくらなんでも、これをくらっては無事ではいられないだろう。

 それに、これはただ単純に弾けばいいという問題でもない。強烈な冷気だ、近づいただけでもただでは済まない。
 さあ、どうする……

「これが、例の魔術を倒したという魔術か! それも、火属性と水属性の魔術を合わせた複合魔術……素晴らしい! さすがグレイ師匠の弟子を名乗るだけはあるな!」

 なぜか、嬉しそうに瞳を輝かせている。ただでさえきれいな緑色の瞳が、よりいっそうの輝きを持つ。
 魔術の腕を褒められるのは嬉しいけど、ずいぶんと余裕な態度で……

「"キャンセル"」

「……はっ?」

 次の瞬間……放たれた冷気が、弾かれたように消えた。先ほどの魔法と同様……いや、少し違う。
 先ほどの魔法は、近づいただけで消えていたけど……今回は、なにか言葉を言っていた。

 いったい、なにを……したんだ?

「ん~、魔法も魔術も、魔導の腕はなかなかだ。けど、それだけじゃあ足りない、足りないねぇ」

 実に腹の立つ顔で、笑っていた。
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