257 / 796
第四章 魔動乱編
252話 いざ勝負のとき!
しおりを挟む時刻は、昼休み前。私としてはすぐにでも勝負したかったけど、いろいろと準備するために、時間が必要だったみたいだ。
会場は、私とダルマスが決闘をしたときにも使った訓練場。
観戦しているのは、クラスのみんなだ。先生は審判として、中心に立っている。
これから勝負する、私と……私の目の前に立っている、エルフの男の間に。
「では、これより練習試合を始める」
「私としては決闘でもいいんだけど」
「そういうわけにはいかんと言ったろう」
もうなにを言ってもだめだ、というように、先生は呆れた表情を浮かべている。
それに対して、エルフの男は涼し気な顔を浮かべて、私を見ていた。
「なに」
「いやぁ、オレオレとしても楽しみではあったんだよ。噂のとんでも新入生が、どんな力を持っているのか……なんとか手合わせしたいってね。
まさか、そちらから申し出があるとは、思わなかったけどね」
私と、この男も戦いたかった……ってことか。私の噂ってのが、なんかめちゃくちゃなことになっているのは、訂正したいところだけど。
そういうことなら、話が早い!
「私が勝ったら、みんなに謝ってよね」
「おいフィールド、そういう要求は決闘でなければ……」
「いんやいんや、いいよ。オレオレが負けたら、その要求を呑もうじゃん。
オレオレは負けないからさ」
……随分自信満々だなこいつ……
「じゃあ、あなたが勝った時は、私は……」
「いいっていいって、ヒルヤセンセも言ってたでしょ、そういう賭け事は決闘のみなの。
オレオレは、別に勝ったからってキミにあれしろこれしろなんて言わないよ」
「……後悔しますよ」
「そら楽しみ」
その自信の表れは、どこから来るのか……やっぱり、自分の腕に自信を持っているのか。
それならそれで、面白い。相手は教師候補で、エルフで、師匠の弟子かもしれない男だ!
私としても、ゴルさんとの決闘以降、自分の力がどこまで進化したのか、確かめる機会が欲しかった。
「これは練習試合だが、致命傷になるダメージは結界により吸収される。ここまで来たらもう、思いっきりやれ」
確認するように、先生が言う。練習試合や決闘には、自分や対戦相手が致命傷を負わないよう、結界が張られている。また、その結界は周囲に結界内の余波をこぼさない。
結界内でどれだけ暴れても、相手は致命傷は負わないし、周囲に被害も出ないってことだ。
他にも、ダルマスとの決闘時は武器一つのみ持ち込み可能とかルールが設けられたけど、今回はそんなものはない。なにをするにも自由だ。まあ、あのときは決闘は決闘でも、授業の一環だったんだけどね。
見たところ、相手は魔導の杖以外は武器を持っていない。私と同じだ。
私は、対面する男に杖を向ける。
「グレイシア・フィールドの一番弟子、エラン・フィールド」
「おっ、いいねぇそういうの。じゃあオレオレも。
グレイシア・フィールドの一番弟子、ウーラスト・ジル・フィールド」
……この野郎、わざと挑発して見せたのに、全然気にしていない。
それどころか、私と同じように名乗り返してきた、だと。
いいよそういうの、嫌いじゃないよ。
「始め!」
そして……試合開始の合図が、轟いた。
それと同時に、私は杖を構えて……予め頭の中にイメージしていた、氷の槍を展開。五本のそれが、一斉にエルフに向かって放たれる。
さあ、まずはお手並み拝見だ……!
「……」
だけど、エルフはその場に立ったまま、微動だにしない。私の攻撃を、避けるつもりがないのだろうか?
そのまま、五本もの氷の槍がエルフの体を突き刺す……かと思われた。
本来ならば。
「え……」
私は、思わぬ光景に思わず声を漏らした。氷の槍が、エルフの体を突き刺すその直前、消えたのだ。五本すべて。
消えた……というよりは、砕けた、という表現が正しいかもしれない。氷の槍が砕け、魔力の粒子となって消滅した。
魔法、魔術……魔導で放ったものは、イメージしたものを魔力として変換し、形にするもの。だから、その魔導のすべては魔力の塊のようなものだ。
だから、氷の槍が魔力の粒子になった、ということは……ただ消されたってわけじゃなくて。
「私の魔法を、魔力に戻した?」
試しに、もう一度氷の槍を放つ。今度は三本、だけど先ほどよりも大きなものだ。
それも、先ほどと同じように、エルフに触れる前に……いや、エルフの立っている場所から一定の距離に入った途端、魔力の粒子へと変わった。
……そういえば、以前師匠が言ってたっけ。魔法や魔術は、魔力の塊。魔力が魔法や魔術に変換されるってことは、その逆も然りだ、と。
「おいおいおいおい、どうしたどうした? 熱いのは威勢だけか?」
「……!」
落ち着け私……挑発に乗って、熱くなるな。
あのエルフが、私の魔法を魔力に変換しているというのなら、いくら魔法を撃ったところで攻撃は当たらない。魔術も同じだ。
「攻撃魔法も、魔力に戻してしまえば怖くない、ってわけか。なら……!」
魔法を撃っても、それが通用しないのはわかった。なら、魔力を撃つのではなく、自分の体に纏わせて強化する!
身体強化の魔法、これならばいけるはずだ!
全身を魔力で強化して、正面から突っ込む。相手は構えてもいないし、なにかしようものならそれより先に動く!
「へぇへぇ、その年でそれだけの魔力を……身体強化魔法は、シンプルゆえにその人の魔力練度がよく見て取れる。
なるほどなるほど、よく訓練してるね」
「そりゃどう、も!」
「でもね……」
構えもしないエルフ、完全に取った!
飛びかかり、振りかぶった拳を振り抜く……その瞬間。エルフとの距離がある程度の距離になった、その瞬間だ。
身体に纏っていた魔力が、消えた。
「!」
マジか……身体強化の魔力も、引き剥がされちゃうのかよ!
10
お気に入りに追加
174
あなたにおすすめの小説
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
出来損ない王女(5歳)が、問題児部隊の隊長に就任しました
瑠美るみ子
ファンタジー
魔法至上主義のグラスター王国にて。
レクティタは王族にも関わらず魔力が無かったため、実の父である国王から虐げられていた。
そんな中、彼女は国境の王国魔法軍第七特殊部隊の隊長に任命される。
そこは、実力はあるものの、異教徒や平民の魔法使いばかり集まった部隊で、最近巷で有名になっている集団であった。
王国魔法のみが正当な魔法と信じる国王は、国民から英雄視される第七部隊が目障りだった。そのため、褒美としてレクティタを隊長に就任させ、彼女を生贄に部隊を潰そうとした……のだが。
「隊長~勉強頑張っているか~?」
「ひひひ……差し入れのお菓子です」
「あ、クッキー!!」
「この時間にお菓子をあげると夕飯が入らなくなるからやめなさいといつも言っているでしょう! 隊長もこっそり食べない! せめて一枚だけにしないさい!」
第七部隊の面々は、国王の思惑とは反対に、レクティタと交流していきどんどん仲良くなっていく。
そして、レクティタ自身もまた、変人だが魔法使いのエリートである彼らに囲まれて、英才教育を受けていくうちに己の才能を開花していく。
ほのぼのとコメディ七割、戦闘とシリアス三割ぐらいの、第七部隊の日常物語。
*小説家になろう・カクヨム様にても掲載しています。
公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)
音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。
魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。
だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。
見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。
「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。
転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
辺境伯令嬢に転生しました。
織田智子
ファンタジー
ある世界の管理者(神)を名乗る人(?)の願いを叶えるために転生しました。
アラフィフ?日本人女性が赤ちゃんからやり直し。
書き直したものですが、中身がどんどん変わっていってる状態です。
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました
土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。
神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。
追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。
居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。
小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。
【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる