上 下
256 / 778
第四章 魔動乱編

251話 とんでもない女の子

しおりを挟む


 生徒と教師の練習試合。それはクラス内で宣言され、混乱を防ぐために他のクラスへの他言無用を言い渡された。
 さすがに、学園が再開したばかりで、今日から教育実習に来たエルフの先生に勝負を挑んだ……というのは、いろいろと情報過多で、むやみに言い触らさないようにどのことだ。

 私は試合じゃなくて、もう決闘のつもりだけどね! ただ、学園の仕様的にしょうがないみたいだけど。

「もー、エランちゃん! なんでこうなっちゃうの!」

「なんでと言われても……」

 ホームルームが終わり、先生たちがいなくなった後で、私はクレアちゃんに詰め寄られていた。
 いや、周囲には他の子の姿もある。みんな、なにを言いたいのか、それはだいたい同じようだ。

 クレアちゃんに肩を揺らされ、私は「あー」と声を漏らしてみた。

「もう、ふざけないの!」

「ごめんなさい」

 普通に怒られてしまった。

「はぁ、もう……まあ、エランちゃんだから仕方ないか」

「そうですね……」

「あぁ、フィールドだもんな」

「しゃあないしゃあない」

 みんな、呆れたような言葉を漏らしている。
 あれ、私への評価おかしくない? 私が、誰にでも決闘挑んでもおかしくないように認識されてない?

 私がこれまで、自分から決闘を挑んだのは、ゴルさんだけだよ! まったく!

「まあ、それはもういいけど……本当なのかしら、あのエルフが、グレイシア様の弟子なんて」

 やっぱり、私だけじゃない。他にも、あのエルフが師匠の弟子なのか、疑っている子はいるみたいだ。
 そりゃ、いきなり現れて、グレイシア・フィールドの弟子ですなんて言っても、いきなり信じられるわけは……

 ……あれ、なんか私も似たようなシチュエーションだった気もするな。よくもまあ、みんな信じてくれたものだよな。

「名を騙るだけなら、誰でもできますわ」

「でも、いくらなんでもあんな堂々と言うかな」

「証拠なんてなにもないだろ」

「……私が言うのもなんだけど、私も別に師匠の弟子だって証拠はないのに、よくみんな信じてくれたね」

 あのエルフは師匠の弟子なのかそうではないのか……そう口々に話しているみんなは、私のことはすんなりと信じてくれたと思う。
 師匠と同じフィールドって名前だけじゃ、ただ偽ったと思われてもおかしくないのに。

 するとみんなは、一斉に私を見つめて……

「……魔力測定の魔導具ぶっ壊すとんでもない魔力してたし」

「実際にダルマス様との決闘でも力の大きさは伝わってきたし」

「不思議と、嘘だとは感じられなかったのよね。多分、エランちゃんがア……素直な子だから、かな」

 まるで当時のことを思い出すように、語り始めた。
 思い出すのはやっぱり、印象深いことばかりだよな。私としては、魔導具壊しちゃった件は忘れてもらいたいんだけど。

 それに、私が心のきれいな正直者だから、みんなに信じてもらえたってことらしいね! なんか言い直したように感じたけど、いや気のせいだよね!

「その後は、魔獣を倒したりあのゴルドーラ様と決闘したり……あぁこの子、なんかとんでもないんだなって思って」

「それに、強さだけじゃなくて性格も不思議というか。なんで、生徒会長と決闘したあの流れで、生徒会に入ることになってんだよ」

「それはまあ、いろいろとね」

 思い返せば、いろんなことをしているんだなぁ私。これが自分のことでないのなら、面白おかしく見ることができるんだけどなぁ。

 私が生徒会に入ったのは、生徒会に誘われたからだ。そして誘われたのは、ゴルさんが私の実力を認めてくれてのこと。
 あの決闘で、私は敗けた……わけだけど、ゴルさんは自分が敗けたと思っているみたい。そんな複雑な感情、他の人にはわからない。

「まあ、今言ったように、エランちゃんの実力はもちろん、エランちゃんがとんでもないことをやらかす子だって言うのは、みんなもうわかってるの」

「おぉう……」

「その上で、まさかこんな展開になるとは思ってなかったわ」

 なんか、みんなに私という人間を理解されてるのは嬉しいけど、同時にちょっと物申したい気分だなぁ。
 いやまあ、みんなの気持ちもわかるんだけどさ。

「うん、わかった。みんなが私をどう思ってるかはわかったから、もうその辺にして」

「……で、お前、あの教員……実際には教育実習生か。が、グレイシア・フィールドの弟子だと聞いて、頭に血が上って勝負を挑んだわけだ」

「……やめてって言ったのにぃ」

 私の言葉など無視するように、ダルマスが的確な言葉を投げかけてくる。その的確な言葉が的確すぎて、返す言葉も見つからない。
 でも、待ってほしい。

「それだけが理由じゃないよ! みんなのこと、魔法で拘束したから、かっとなって……」

「あー、あの魔法はすごかったですわ。声も出せない、指一本も動かせませんでした」

「うん、すごかった」

 あの魔法を直に受けた身としては、とにかくすごかった、ということらしい。
 あれがすごい魔法だってのは、私にもわかった。魔力を感じただけでも。

「そんなすごいエルフに、お前は勝負を挑んだ。それも、練習試合じゃない……決闘のつもりで。つまり、勝てる自信があると?」

「……わかんない、けど。勝ちたいし、戦いたいと思ったのは確かだよ」

 師匠の弟子、みんなへかけた魔法、そしてエルフ……様々な要因から、戦ってみたいと思った。
 そして、戦うからには勝つ! それが私の考えだ!

 みんなにはとんでもないことだと言われたけど、私はもう、引き返すつもりはない。

「本当なら、エルフを教員に連れてきた理由や、やけにサテラン先生と親しい理由を聞きたかったけど、それも後回しになっちゃいましたね」

「それは本当に申し訳ない」

 いろいろ気になることがあるのに、私が勝負を挑んだからそれが吹っ飛んでしまった。申し訳ない。
 勝負が終わったら、聞くことにしよう。今は、目の前の勝負だ!

 やがて、約束の時間が迫り、私たちは勝負をするための会場へと向かっていく。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!

naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』 シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。 そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─ 「うふふ、計画通りですわ♪」 いなかった。 これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である! 最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。 神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。 追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。 居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。 小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

処理中です...