254 / 778
第四章 魔動乱編
249話 師匠の弟子と師匠の弟子
しおりを挟むいきなり現れた、謎のエルフ。多分先生が連れてきたらしいエルフの男。
まあ、それはいい。それはいいよ。エルフが世間からどんな存在で見られてるとか、先生とどんな関係なのかとか、気になることはあるけどまあいいよ。
問題は、このエルフが……グレイシア・フィールドの……師匠の、弟子だと言い放ったことだ。
しかも、一番弟子だと?
「そんなわけで、よろしくぅ!」
師匠と同じエルフ……それに、いろんな場所でいろんな影響力を残している師匠だ。確かに私以外にも、弟子がいてもおかしくはないのかもしれない。
でも……それが、こんな……いかにもふざけた感じの男……? しかも、一番弟子……?
「あんたが、師匠の弟子……?」
「んん?」
気づけば、私は立ち上がり、エルフの男を睨みつけていた。
他のみんなとは違って、私は体を拘束されていないから、自由に動かせる。
「お、おいフィールド……」
「先生は黙っててください」
「……」
先生が、居心地悪そうに私に声をかけてくるけど、私はそれを切り捨てる。肩をすくめて、先生は額に手を当てた。
なるほど、さっきから先生が私をチラチラ見ていたのは、このためか。
師匠の一番弟子、私の前に、師匠の一番弟子を名乗る謎のエルフが姿を現す。それを想像して、気が気でない状態だったんだろう。
「えぇとえぇと、キミは?」
「……エラン・フィールド。グレイシア・フィールド師匠の一番で……」
「あぁあぁ、エラン! 話には聞いてるよ! 黒髪黒目の珍しい人間が、グレイ師匠の弟子を名乗ってるんだって!」
私が、自己紹介を……師匠の一番弟子だと言い切る前に、エルフの男は手を叩いた。思い出した、とでもいうように。
そして、言うのだ……師匠の弟子を名乗る人間がいる、と。
それは……私に対する挑戦かなにかだろうか? それに……
「ぐ、グレイ、師匠……?」
「ん? あぁ、グレイシア師匠だと長いから、まあまあ愛称みたいなもんだよ。もちろんもちろん、師匠公認だよ」
まるで、自分と師匠の仲の良さを見せつけるように、師匠を愛称で呼んだ。
グレイ、師匠……なんだよその愛称、ちょっとかっこいいじゃんか……! くっ……!
だけど、なんだこのモヤモヤ感……!
「で、キミがグレイ師匠のなんだって? さっきなんかなんか、言いかけてたけど?」
「……グレイシア師匠の、一番弟子」
「へぇ、一番弟子と来たか」
一番弟子だと言い放った私を見るエルフ男の目は、まるで私を値踏みするように細められている。あのきれいな瞳に見つめられたら、嬉しくなっちゃうはずなのに……
なんだろう、この寒気は。
私の知っているエルフとは、違う。もしかして、レジーみたいに、何者かがエルフに化けているんじゃないか?
そう思ってしまう。それとと同時に、直感があった……この人は間違いなく、エルフだと。
矛盾した思いが、自分の中で回っている。
「そう。私より前に弟子がいたなんて聞いたことない。私が師匠の一番で、唯一の弟子」
「そういう思い込みはよくないなぁ。弟子がいなかったってのも、それはそれは"人間の"って意味だろう」
「エルフの弟子がいたなら、そう言っているはず」
「人間の小娘に自分のすべてを話す義理があると?」
「……」
「……」
私とエルフの男は、睨み合う。その間、誰も言葉を発しない……いや、発せない。
言葉の自由を縛られていない先生も、なにを話せばいいのかわからないんだろう。筋肉男は、知らない。
この人が本当に師匠の弟子なのか、わからない。でも、証拠がない。名乗るだけなら誰だってできる。
「師匠のことだから、弟子入りしたいって人は何人もいたんだと思う。私以外に弟子はいないっていうのも、人間のって意味ならまあ理解はできるよ。
師匠、そういうの抜けてるとこあるし」
そう、考えてみれば師匠は、結構抜けている。私に世間の常識ってやつを教えてくれたけど、それでも知らないことは多い。
人間とエルフの確執なんか、その最たるものだ。師匠もエルフだから話しにくかったのかもしれないけど、せめてちょっとは教えてほしかったなー。
だから、私以外の弟子の存在はまあ、認めてもいい。ただ……
「あなたみたいな、チャラチャラしたやつが師匠の弟子なわけない!」
師匠の弟子だというのなら、もうちょっとシャキッとした人のはずだ! 私のように! そう、私のように!
でもこの人は、全然そんなことない。言葉遣いも、雰囲気も。
それに、話を聞かせるためだからって、みんなの体の自由を操るのは……どう考えても、やりすぎだ。
「ほぉほぉー……じゃあなにかい? あんたが師匠の弟子だなんて私は認めない……ってやつかい?」
「そ……まあ、そうなる、かな」
「オレオレは別にキミに認められなくても問題ないんだけどねぇー……認められないと、どうなるんだ?」
ぐぬぬ……こいつ、やっぱりチャラい! 私こいつ嫌い!
私が認めないとどうなるか、だって……?
「師匠の品位を貶めるようなことは、許さない!」
「許さない、ね」
「そうよ!」
「オレオレは、自分の態度を改めるつもりなんてさらさらさらさらない」
頑なに、この態度を変えようとしないエルフの男。
くそっ、変な喋り方しやがってぇ! こんなんで師匠の弟子を名乗るなんて! もう我慢できん!
「第一、今のって全部ブーメランだよね。キミがグレイ師匠の弟子だってのも、キミが勝手に言ってるだけってことも……」
「だったら……」
「! お、おいフィールド……」
「だったら、私と勝負しなさい!」
我慢できなくなった私は、感情に任せたままに、杖を抜き杖をエルフの男に向け……勝負しろと、叫んだ。
10
お気に入りに追加
169
あなたにおすすめの小説
【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました
土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。
神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。
追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。
居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。
小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
公爵令嬢はアホ係から卒業する
依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」
婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。
そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。
いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?
何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。
エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。
彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。
*『小説家になろう』でも公開しています。
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる