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第四章 魔動乱編

242話 ご褒美の話

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 レジーを引き渡し、それではいさよならとはならず。
 王都を混乱させた人物を捕らえ、魔獣を倒したということで、私たちは王の間に引き止められていた。

 レジーは兵士さんたちに連れていかれ、地下牢に入れられるようだ。もう下手な抵抗はできないし、地下ならたとえ暴れてもすぐに対処できるだろう。
 さて、私たちが残された、その理由だけど……

「改めて、例を言う。魔獣を倒し、それを操っていた者を捕らえた事実。
 なにかしら、褒美を与えねばな」

「ご褒美」

「本来ならば、もっと盛大に労うべきなのだろうが……」

「いえ、このような状況ですし。それに、そこまでしていただくほどのものでも」

 はぁー、なんか難しいこと言っててよくわかんないけど、要はレジーを捕らえた功績と、魔獣を倒した功績を称えて、ご褒美をくれるってことだ。
 別にお礼が欲しくてやったわけじゃないけど……ま、まあ? くれるって言うんなら、もらうけどさ?

 どうやら、魔獣を倒すってのは褒章がもらえるくらいに栄誉あることらしい。王都に現れたそれを人的被害なしに倒した、となればなおさらだ。
 今回は、目撃者も多い。ゴルさんと先生が魔獣を倒したことは、たくさんの兵士さんや国民が証明している。

 で、その邪悪な魔獣を召喚した術者を捕らえた私も、その褒章をもらえる対象になったってことだ。
 いやあ、レジーの相手してたのはほぼルランなのに、なんか悪いですなぁ。

「ありがたい申し出ですが、私は辞退させていただきます」

「ほう」

 そんな中、膝をつき頭を下げて、王様の申し出を辞退する、と言い出す声があった。先生だ。
 え、王様の申し出を辞退するとか、大丈夫なの? やっちゃっていいの?

 そんな私の気持ちは伝わるはずもなく、先生は続ける。

「私は学園の一教師です。そのような身で、褒美をもらうことはできません」

「ふむ……しかしなぁ、教師であろうと誰であろうと、活躍を見せた者は均等に労わねば」

 そうだそうだ、教師とか関係ないよ。ご褒美もらおうよ。
 それとも、学園の教師はご褒美もらっちゃだめって決まりでもあるのかな。それだと、仕方ない……いや、それなら王様は最初から、ご褒美をあげようとはしないか。

 つまり、先生は自分の立場で、ご褒美をもらうわけにはいかないと考えているんだ。

「それに、結果的に魔獣を倒したとはいえ、目覚めるのがもっと早ければ、被害を防げました。であるのに、活躍などと言われるのは」

「……ヒルヤ・サテラン教諭、だったか。話には聞いていたが、頑固な性格のようだな」

「自覚しております」

 ……二人の間に、ちょっと柔らかい空気が流れている。あ、これ怒られないやつだ。よかった。
 王様も先生もちょっと微笑んでいるし、とりあえずそういう方向で話はついたってことか。

「であれば、私も辞退します」

「!」

「ほぅ」

 つぎに、まさかゴルさんまでご褒美辞退を言い出した。
 な、なんでだよぉ!?

「おいゴルドーラ、私は別にそういうつもりでは……」

 それに困惑した様子の先生、それはそうだろう。だって、先生は理由の一つで『目覚めるのがもっと早ければ被害を防げた』ってので、ご褒美を辞退したんだ。
 一緒に眠っていたのは、ゴルさんも一緒。先生の理由だと、ゴルさんも当てはまってしまう。

 けれどゴルさんは、首を振る。

「わかっています。ですが、私が辞退する理由もまた、別にあります」

「ほう。それは?」

「私は第一王子という立場。国民を守るのは当然の義務です」

「……お前も、昔から頑固なのは変わらんなぁ」

 なんで、なんでだ。別に立場とか関係ないじゃん! ご褒美もらえるんならもらえばいいじゃん! そりゃ、なんか立場的に難しいのかもしれないけど……あれじゃん!
 と、心の中で叫んでも届くはずもなくて。結局、二人はご褒美は貰わないことになった。

 ……なんか、二人が辞退したんなら、私だけご褒美をもらうっていうのも、気が引けるなぁ。

「じゃあ、私も辞退……」

「いや、お前はもらっておけフィールド」

「そうだ、お前はその資格がある」

 えぇ……辞退しようと思ったら、二人に止められちゃったよ?
 そりゃあ、私だってご褒美はほしいけどさぁ……なんか、さぁ。ちょっと気まずいじゃん?

 だけど、二人は私を見たまま、口を動かしていく。

「お前は、魔獣を召喚した術者を捕らえた……それは、充分に評価されるべきだ」

「あぁ。もし逃がしていたら、また別の場所で……あるいはまた王都を襲い、被害が出ていた可能性があった」

 暴れていた魔獣よりも、その魔獣を召喚した人間を捕らえたことのほうが、功績としては高い……そういうことらしい。
 まあ、確かにあのままレジーを逃がしていたら、どうなっていたことか。オミクロン以外にも魔獣はいたことだろうし、また被害は出ていた。

 そう考えれば、私が一番ご褒美されるべき人間……ってこと!?

「で、でもぉ……魔獣を倒したのは二人だし、私はこいつ捕まえただけだし……」

「それが評価に値すると言っている。魔獣討伐よりも遥かにな」

「魔獣を召喚する者がいる……それが判明しただけでも、手柄とするには充分だ。それに、あれだけの被害をもたらした下手人を捕まえた者を労わないとなると、王家の威信に関わる」

 関わるんならゴルさんたちもご褒美受け取ってくれよ……とは、やっぱり言えない。
 気のせいかもしれないけど、示し合わせたように私だけにご褒美与えようとしてくるなぁ。

 これは後で知った話なんだけど、魔導学園の教員や第一王子よりも、学園の一般生徒である私が事態を収束させたって発表したほうが、なんかインパクト的なアレがアレしてアレらしい。
 そんなわけで、私だけご褒美をもらうことになった。
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