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第四章 魔動乱編

238話 魔獣を操る存在

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 首に浮かんだ紫色の光は、輝きを増し……レジーは、苦しそうな表情を浮かべている。その理由は、一つ……レジーが、術者わたしの意にそぐわないことをしたから。
 それは、私の質問に答えない、というものだ。

 『絶対服従』の魔法をかけられた者の首には、紫色の首輪が浮かぶ。それは実際にハメられているわけではなく、首輪のようなもの、という表現が正しいかも。
 それは、術者の意に従わない者に、激痛を与える効果を持つ。

 それも、ただ痛みを与えるってわけじゃない。

「それは、肉体じゃなく精神への痛みが主だって、師匠は言ってた。
 だから、そのままだと……死んじゃうかもよ?」

「!」

 師匠が手本に見せてくれたとき。モンスターは師匠に『絶対服従』の状態となり、師匠の言葉に従うことになった。でも、いくら人に近いとはいえモンスターはモンスター……あまり複雑な内容は理解できない。
 だから、理解できない命令に従えず……首輪からの激痛にもだえ苦しみ……

 最後には、死んでしまった。

「まあ、術者わたしが痛み出すのやめろって思えば、痛みは流れなくなるみたいだけどね」

「っ、はぁ、はぁ……!」

「で、どう? 言う気になった?」

 あんまりこういう、拷問みたいなことはしたくないんだよね……私、人の苦しむ顔見て喜ぶような趣味は持ってないし。
 ただ、レジーの場合は強情だから、強硬手段を取るしかないわけで。

「っ、てめえ、頭おかしいんじゃねえか……!?」

「たくさんの人を殺したあんたには言われたくないな」

 殺人鬼に、頭がおかしいと言われるなんて、心外だなぁ。もう一回痛みを流すぞこら。
 けど、あの様子だと本気で、死をも覚悟してる感じだったよなぁ……

 ……本当なら時間をかけてやりたいところだけど、そろそろ、か。

「このままここにいたら見つかっちゃう。だから、ルランはここから逃げた方がいいよ」

「! なんだと」

 ゴルさんや先生は、魔獣の後始末を兵士さんたちに任せて、本格的に私を捜しているみたいだ。私の魔力を辿れば、ここまで来るのも時間の問題だ。
 そうじゃなくても、『絶対服従』の魔法を使った影響で、この辺りには変な魔力の気配が残っている。いつ、誰が来てもおかしくない。

 だから、ダークエルフであるルランは早くこの場から離れた方がいいと思う。

「ここを捜しに来た人に捕まりたいんなら、止めはしないけど」

「! 誰が……!」

 よかった、私もルランが捕まったらまずいしね。ルランとルリーちゃんはよく似ているから、ルランの顔を見たゴルさんや先生からルリーちゃんへとたどり着かれるかもしれない。
 まあ、ダークエルフは特徴が似ているから、そういうものだと力説すれば押し通せなくはない気もするけど。

 だとしても、ルリーちゃんがルランを「お兄ちゃん」なんて呼んだらおしまいだもんな。

「だが、俺もこいつにまだ用が……」

「わかってる……ルランがまたこいつになにか聞きに来れるように配慮するし、なんなら私がルランの代わりに聞いといてあげるから」

 このままレジーを捕まえれば、ルランが来るのは難しくなる。そして、私がルランのためにできることがあるかも、実際のところはわからない。
 でも、こうするしかないんだ。

 私を経由して聞きたいことを聞きだせば、ルランとしても私にだけ会いに来ればいいから、手間が省けるだろうし。

「だが……大丈夫、なのか。こいつは……」

「安心していいよ。『絶対服従』の魔法は、一度かけたら永続的に効果は続く。効果を切るには、術者わたしが魔法を解除するか、魔法をかけられた者が死ぬか……
 レジーには、もう変なことはできないよ」

「……そうか」

 ただ捕まえても、レジーなら簡単に抜け出してしまうかもしれない。そうさせないための、『絶対服従』の魔法。
 この魔法をかけられている限り、私の命令には逆らえない。だから「なにもするな」とか「反抗するな」とか命令しておけば、レジーはもうなにもできない。

 もちろん、自死もさせない。

「なら……一旦、お前に預ける」

「あり、もうちょい引き下がるかと思ったのに」

「……なにされるかわかったもんじゃないからな、おっかない」

 私に背を向けて、ルランは笑うように言う。人をおっかないなんて、ひどいこと言うもんだ。
 それからすぐに、ルランは屋上から飛び降りていった。そして、その直後だ。

「エラン!」

「フィールド!」

 私を呼ぶ二人の声が、聞こえてきたのは。屋上の扉が開いて、ゴルさんと先生が姿を現す。
 二人とも、目立った怪我はない……よかった、あの距離からじゃ怪我の具合までは見えなかったから。

「あ、二人とも~」

「あ、二人とも~、じゃない! どこ行ってたんだ!」

「ここだよ?」

「そうじゃなくて……はぁ?」

 目つきの鋭くなった先生は、なぜか頭を抱えていた。元から目つきがキツイので、怒っていてもあまり変わらないように見える。
 その隣のゴルさんは、私を軽く睨みつけたあと……私の隣で、拘束されているレジーを見る。

「その女は?」

「さっきの魔獣を、操っていた人だよ」

「そうか、魔獣をあや……!?」

 私以外に、見知らぬ人がいる……だから、誰だと聞くのは当然だ。その正体を、正直に答えると。
 ゴルさんも先生も、言葉を失って固まっていた。

 ……まあ、魔獣を操る、なんていう時点で、驚きを超えちゃうよね。

「ま、魔獣を……あや、つって……? どういう……」

 魔獣は、魔物が魔石を取り込みさらに凶暴化したもの……それを操る存在なんて、考えもしないだろう。
 というか、操れるなんて発想にすら至らないだろう。私だって、なにかの間違いかと思ったんだし。

 でも、今回のことといい、ルリーちゃんの過去の話といい……魔獣を操る人間がいる。それは、確かなことだ。
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