上 下
239 / 741
第四章 魔動乱編

234話 事件の真実

しおりを挟む


 五十年も、姿が変わっていないというエレガとジュラ。見た目の良く似た別人……という話でもなさそうだ。レジーとルランの反応から察するに。
 だけど、人間が五十年も同じ姿のまま……年を取らないなんて、あり得ない。エルフならいざしらず。

 ……もしそれが、黒髪黒目の特徴を人物だからだ、としたら。レジーが私を見ていろいろ言っていたのも、私が同じ特徴を持っているからだとしたら?

「私、も……?」

 もしかしたら、私も……五十年も年を取らないような、体質なのかもしれない。もしかしたら、十年以上前の記憶がないのは、その体質が関係しているのかもしれない。
 もしそうだとしたら……なんだか急に、自分がとてつもないものに、感じた。

 今まで、自分の生き方や……記憶のない、過去のことはあまり気にしたことがなかった。でも、それは間違いだったのかもしれない。
 自分が知らない、自分の部分が……なんだか、怖い。

「おい、どうした急に黙り込んで」

「あ……なんでも、ない」

 いけないいけない。考えても仕方ないことを考えても、仕方ない。だから、記憶がない頃のことは考えないと、決めていたじゃないか。そもそも、師匠のところで暮らしている間、私は成長していたんだし。
 私が何者でも、関係ない。少なくとも、今の私はグレイシア・フィールドの弟子、エラン・フィールドなのだから。

 黒髪黒目のこととか、そんなことを深く考えて自分が怖くなるくらいなら、もうなんにも知らない方が……

「いやぁ、しかし……アタシはダークエルフを探すためにダークエルフの恰好をしたり、魔獣を呼び出したりして……アンタは、アタシらを誘き出すために、あんなまわりくどい事件なんか起こしてたのか?」

「……人間は等しく嫌いなんでな」

 私が考え事をしている間にも、二人の話は続く。ケラケラと笑うレジーは、ルランの行動をあざ笑っているよう。
 ルランの起こした事件とは、"魔死事件"だ。それは、ルランが人間を嫌いだから……という理由以外にも、レジーたちを探すという理由でもあったらしい。

 人間が嫌いとはいえ、わざわざ自分たちを滅ぼした相手の真似をするのはなんでだろうと思っていたけど……そういうことか。
 結果的に、お互いがお互いのやり方を使って相手を探していたわけだ。今となっては、どうでもいいことだけど。

「けど、その事件もぱったりとやんだじゃないか。どうしてだよ」

「お前には、関係ない」

「……そこの人間と知り合いみたいだったな。
 もしかして、一度会ったときにそいつに感化されて、やめたのか」

 ルランの起こした"魔死事件"も、一度はぱったりとやんだ。それが、私と会ったからだって保証はないけど……少なくとも、あのとき会ってから起こらなくなった、のは確かだ。
 私としては、リーサの影響だとは思っているけど。

「けどま、アタシとしてはアンタが事件を起こしてくれてよかったけどな。
 おかげで、アタシが個人的に事件を起こそうが、疑いは全部アンタに向く」

「……え?」

「まだ犯人がダークエルフとは知れてないみたいだけど、世間の嫌われ者が犯人……疑う奴なんていない」

 捕まっていても余裕な表情を見せるレジーだけど……え、ちょっと待って? 今、すごく引っかかることがあった……
 アタシが事件を起こそうが、疑いはアンタに向く……だって?

 それって、ルランが起こしたのとは別に、レジーが起こした事件もあるってことだよね。
 そして、それは今の話し方から察するに……ルランが、事件を起こすのをやめた後。

 その後起こった事件は……私の知っているのだと、二件。ダンジョン内で起こった事件と、もう一つ……

「しっかし、惜しいなぁ。せっかく死なずに生き延びた奴が出てきたのに、そいつを回収する前に捕まっちまうとは」

「……!」

 その言葉を聞いた瞬間、私はレジーに掴みかかっていた。
 今まで、二人を傍観するように少し離れて立っていた……そんな私が、いきなりレジーに掴みかかり、ルランは驚いているようだった。

 ただ、掴みかかられたレジー本人は、うっすらと笑みを浮かべるばかり。

「お、おい、いきなりなにを……」

「……え、か……?」

「……」

「ノマちゃんをあんな目に遭わせたのは、お前か!?」

 私は、自分でも信じられないくらいに、大きな声を出して……頭に、血がのぼっていた。
 レジー……こいつの話を整理すると、ルランの起こした"魔死事件"の後に、新たに事件を起こした。そして、その中で死ななかった被害者がいる。

 "魔死事件"の被害者は、体の中で魔力が暴走し、ぐちゃぐちゃになって死んでいる。全員がだ……生き残りなんて、いない。
 ただ、一人を除いて。

 ルランの起こした"魔死事件"の後だろうと前だろうと、"魔死事件"の生き残りは一人だけ。その子と、私はついさっき会ってきた。

「答えろ! ノマちゃんを殺そうとしたのか!?」

 部屋に戻ると、血を流して倒れていたノマちゃん……"魔死事件"の被害に遭ったのだとわかり、私の頭には最悪の事態がよぎった。結果として、ノマちゃんは生きていてくれた。
 検査の結果、ノマちゃんの体に異常は見られなかった……それこそが、異常だった。血を流していたあの時は、確かに体の中がぐちゃぐちゃだったのに。

 ただ一つ、明確におかしなところを挙げるとするなら。人間族であるノマちゃんの体内には、なぜか魔族の血が流れているという。いや正確には、魔の血。
 これは、ノマちゃんの体内に魔石が入り込んだことで、人の血を魔の血が混ざりあった結果、だと思っているけど。

 そんな細かい話は、どうでもいい。問題は、こいつがノマちゃんを……

「あぁ、そうさ」

「!」

「アタシは、ノマ・エーテンに魔石を食わせて、殺そうとした。
 その結果、"魔人"として生き延びたのは嬉しい誤算だったけどな」

 あっさりと……自分がノマちゃんを殺そうとしたと、言い放った。
 その上で、"魔人"だ誤算だなどと、訳の分からないことを加えて。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

異世界でチート能力貰えるそうなので、のんびり牧場生活(+α)でも楽しみます

ユーリ
ファンタジー
仕事帰り。毎日のように続く多忙ぶりにフラフラしていたら突然訪れる衝撃。 何が起こったのか分からないうちに意識を失くし、聞き覚えのない声に起こされた。 生命を司るという女神に、自分が死んだことを聞かされ、別の世界での過ごし方を聞かれ、それに答える そして気がつけば、広大な牧場を経営していた ※不定期更新。1話ずつ完成したら更新して行きます。 7/5誤字脱字確認中。気づいた箇所あればお知らせください。 5/11 お気に入り登録100人!ありがとうございます! 8/1 お気に入り登録200人!ありがとうございます!

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活

mio
ファンタジー
 なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。  こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。  なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。  自分の中に眠る力とは何なのか。  その答えを知った時少女は、ある決断をする。 長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!

1000年生きてる気功の達人異世界に行って神になる

まったりー
ファンタジー
主人公は気功を極め人間の限界を超えた強さを持っていた、更に大気中の気を集め若返ることも出来た、それによって1000年以上の月日を過ごし普通にひっそりと暮らしていた。 そんなある時、教師として新任で向かった学校のクラスが異世界召喚され、別の世界に行ってしまった、そこで主人公が色々します。

スキル「プロアクションマジリプレイ」が凄すぎて異世界で最強無敵なのにニートやってます。

昆布海胆
ファンタジー
神様が異世界ツクールってゲームで作った世界に行った達也はチートスキル「プロアクションマジリプレイ」を得た。 ありえないとんでもスキルのおかげでニート生活を満喫する。 2017.05.21 完結しました。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈 
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

処理中です...