史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

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第四章 魔動乱編

229話 エルフ族を甘く見るな

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 魔獣に群がっているのは、岩で作られた人型のモンスター……ゴーレムだ。それも一体や二体じゃない。
 体格差にはかなりの差があるけど、ゴーレムは魔獣の足を集中して攻撃し、魔獣の動きを鈍くしている。

 それに、魔獣を相手取るのはゴーレムだけではない。

「はぁっ!」

 魔獣の周りを、なにかが飛んでいる。同時に、空中からなにかが放たれている。
 目を凝らして見ると、飛んでいるなにかは人だ。それに、その人が攻撃を魔獣へと、四方八方から撃ち込んでいる。

 あれは飛ぶというよりは、空中を走っているように見える。
 地面のゴーレム、空中の攻撃。それらを行っているのは、他でもない……

「ゴルさん、先生……!」

 私のよく知る、二人の人物だった。
 たくさんのゴーレムは、私との決闘で使っていたゴルさんのもの。空中を移動しながら攻撃しているのは、先生のものだ。

 ランノーン……いやレジーによって眠らされた二人だけど、ちゃんと起きたみたいだ。よかった!
 ゴルさんのゴーレムは、再生力が高く魔獣に壊されてもすぐに復活する。先生は、あれは空中に足場を作って飛んでいるのか……私の使う浮遊魔法とはまた違った飛び方だ。

 なんにしても、あの二人が魔獣の相手をしてくれるなら……

「ちょっと、じっと固まっちゃって、どうし……おぉっと?」

「ちぇっ!」

 大丈夫……そう判断した私は、一気にレジーへと詰め寄り、下から打ち上げる形で拳を放つ。
 完全に虚をついたと思ったけど、拳は避けられてしまった。

 やっぱり、避けるのがうまい……ルランの連続の剣撃も、隙をついても、ことごとくかわされてしまう。
 まるで、身体中どこにも目がついているみたいだ。

「あっぶな。なにさ、魔獣は放置しておくっての?」

「あの二人になら、任せておいて大丈夫だから」

 ゴルさんと先生なら、魔獣相手でも不覚は取らないはずだ。先生は一度魔獣と対峙したことがあるし、ゴルさんの実力は決闘した私がよく知っている。
 だから、こう言っちゃなんだけど……王国の兵士さんたちより、ずっと信頼できる!

「へぇ……ずいぶんと、余裕なこって」

「あなたには言われたくないかなー」

 果たして、どちらが余裕なのか。まあいいさ、すぐにその余裕の表情を崩してやる。
 どこから攻撃しても避けられるなら、まずは動きを封じるべきか。となると、狙いは足……

 足を集中的に狙うか。それとも、絡め取って動きを鈍くするか。方法を、考えていた……
 そのときだ。

「全てを包み込みし、漆黒の闇よ……
 その者を、永久なる常闇に覆い隠せ!」

 聞こえてきたのは、さっきまで叫んでばかりだった男の、落ち着いた声……なにかを詠唱する、その言葉は。
 魔術を使うための、ものだ。膨大な魔力が、ルランの周囲に集まっている。

 私と同じく、それに気づいたレジーは、舌を打ち詠唱をやめさせるべく、飛びかかろうとする。
 レジーであっても、魔術は脅威だと感じているのか。

 でも、ルランの詠唱は早い。気づいたときには、もう……

闇幕ダークネスカーテン……!」

 ルランの口から、詠唱は唱え終わり……魔術の呪文が、紡がれていた。
 その魔術は、一度は私を助けてくれた、ルリーちゃんが使ったのと同じもの。そして、ルリーちゃんとルランのお母さんが、子供たちを逃がすために使ったのと同じもの。

 それが、放たれた。その効果は、私も良く知っている。

「っ、目が……!?」

 ルランの持つ杖から放たれた、黒いモヤ。それはレジーの体を包み込むようにして、彼女の視界を中心に塞ぐ。
 闇の魔術。これは、相手の視界を奪うためのもの。邪精霊に好かれるという、ダークエルフにしか使えない魔術。

 視界が塞がれたレジーは、足を止める。真っ暗な中、むやみに動くのは危険だと判断したのだろうか。

「余裕ぶっこいてるからだ」

「っ!」

 もしも、さっきのような膠着状態が続けば、レジーはルランに魔術を撃たせる隙は作らなかっただろう。
 けれど、私が混ざり、かつ魔獣の方へ行くか……やっぱやめた、というやり取りに気を取られたことで、レジーの方に隙が生まれた。

 私は、闇の魔術がどんなものか、使えないからわからないけど……以前ルリーちゃんが魔獣に使ったものを思い返せば、強力な効果であることは確かだ。

「はっ、アンタこそ余裕こいてんじゃねぇぞ。たいそうな魔術かと思えば、視界を塞ぐだけか。
 こんなもん、なんの脅威にも……っ!?」

 いきなり視界を封じられて動揺していたレジーは、しかしすぐに冷静さを取り戻す。この魔術には、欠点があるというように。
 レジーの言うように、これは視界を封じるだけの魔術だ。逆に言えば、視界以外で相手を感知する方法があれば、脅威にはならない。

 現に、あのときの魔獣は視界が封じられても、周囲の魔力を感じ取って攻撃してきた。まあ魔力があちこちにあったので、ただ暴れているだけだったけど。
 だから、魔力を感知する手段がある自分には効果がない……そう言うようなレジーの体は、横向きに吹っ飛んでいた。

 他ならぬ、ルランの手に……いや、足によって。

「いっつ……なんだ、蹴られたのか? ダークエルフか、それともエランか!
 いや、どっちにしろ魔力を感じないっ……」

「エルフ族を甘く見ないことだな」

 激昂するレジーは、またもぶん殴られる。今度はグーパンで、顔面を。
 ものすごく痛そうだけど、同情はしない。

 魔力を感知できるレジーが、ああもルランの接近を許したわけは……いったいどういうわけだろう。
 私も試しに、ルランの魔力を感じてみようと意識を集中するけど……なにも、感じない?

 人もエルフも、生まれながらに魔力を持っている。ダークエルフだって例外ではないはずだ。現に、さっきまではちゃんと魔力を感じられた。魔力のない人物なんて、ありえない。
 ならば、ルランから今、魔力を感じないのは……

「ダークエルフ……いや、エルフ族特有の能力、ってことか」

 ルランのセリフからも考えて。エルフ族には、自分の魔力を感知させなくするような、能力があるのだろう。
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