228 / 741
第四章 魔動乱編
224話 間違えた選択肢
しおりを挟むダークエルフに化けていた黒髪黒目の人間、そいつが操っている魔獣、そして……本物のダークエルフまで、現れた。
ルラン……ルリーちゃんのお兄ちゃんで、"魔死事件"を起こした張本人。あれだけのことをしておきながら、事件の犯人の尻尾さえも掴めていなかった。
そんな人物が……自分から、ここに現れた。
「ひゅー、怖い怖い。物騒なもんまで持って……おっと」
「ちっ!」
目の前にダークエルフが現れても、余裕そうなランノーン……そりゃそうだ、ダークエルフをおびき出すために、魔獣を呼び出したんだから。
ルランは、手に剣のようなものを持っている。それで斬りかかったけど、ランノーンに避けられた。
……ようなもの、という言い方なのは、それが本当に剣なのか確信が持てないからだ。
右手に握るのは、剣の鞘だろう。でも、その先から伸びている刀身は……なんか、黒色のような紫色のような、色をしている。
しかも、刀身がなんか……ビーム状に伸びている。
「なんだあれ、魔導具かな」
わからないけど、魔導具か……それとも、そういう魔法か。
ダークエルフにしか使えないような魔術も、あるんだし。
……なんにせよ、ランノーンはルランに任せておけば大丈夫か。まったく意図してないけど、そういう形になった。
ランノーンは周囲に被害を及ぼしそうだけど、ルランはランノーンのみ狙っているみたいだし。まあルランまで町を壊し始めたら、さすがに対処するけど。
ということは、私が今集中すべきは……
「お前か」
「ギュオオォオオオオ!!」
さっきから、私が張ったバリアを割ろうとしているようで中で暴れている。奇声と、バリアを殴りつける音がうるさい。
それも、もうすぐ終わりそうだけど。だって、バリアにヒビ入ってるんだもん。
……よし!
「ギルルルルゥ!」
「なんて鳴き声だよ、っと!」
バリアが割れる。その瞬間を見計らい、私は溜めていた魔力を形として、魔導のエネルギー波を放つ。魔獣はそれを避けることなく……いや避ける隙がなかったのか、もろにぶつかった。
やはり、気持ちの悪い雄たけびを上げているけど、それだけに効いているのだろうとわかる。
大丈夫、通用している。以前、学園に現れた魔獣には、魔法じゃ通じなかった。今回は、魔法でも通じる!
それは、魔獣があのときのものより弱いのか……私の魔力が、強くなったのか。
どちらにしても、魔法だけで倒せるならそれに越したことはない! 魔術は強力だけど、詠唱中は隙が大きくなる。
たくさんの目があるあの魔獣から目を離せない以上、魔術を使うのは……あんまり、好ましい展開ではない。
まあ、方法がないわけじゃない。以前、ゴルさんとの決闘でやった、分身魔法。それを使って、二人のうち片方が魔獣の気を引き、片方が詠唱するやり方もあるけど……
「あれ、すごい疲れるからあんまりやりたくないんだよね」
やるとしたら、それはもう最後の手段くらいに考えておこう。
「そりゃそりゃそりゃ!」
私は、魔獣に狙いをつけられないように走る。魔獣の周りを移動するようにしながら、その間も魔法を撃ち続ける。
的がでかいおかげか、攻撃はことごとく当たる。確かに効いている。
でも……致命傷ではない。
「それに……傷も、ついてないし」
でかいからかはわからないけど、魔法は当たってもその箇所に傷がつくことはない。目が涙を流したり、奇声悲鳴を上げているから、攻撃が効いていると思っていたけど……
ホントに効いてるのか? これ。
相手が獣だから、いまいちわからない。表情があればまだわかるんだろうけど、あるのはたくさんの目だけ。あんなのじゃ判断できない。
「げ!」
私に攻撃を撃たせ続けてくれるわけもなく、魔獣の反撃。いくつかのビームが私に迫るので、私は魔力強化した杖で弾いていく。
それと同時に、ついに他の場所にもビームが放たれようとしている。目が光っているから、わかりやすい。
なので私は、その目の部分へと、集中的に魔法をぶつける。ビームを弾くよりも、ビームを出されるより前に対処してしまえば良い。
「思ったより対処しやすい、けど……!」
ダメージがイッているかわからない以上、らちが明かないなこのままじゃ。
「オォオオオオンンン!!」
「!」
次なる奇声。魔獣は、まるで駄々をこねるみたいに手を振り回し、暴れ始めた。
あいつ、ビームが出せないからって今度は物理的にものを破壊するつもりか!
当然、周辺にある建物は魔獣の腕が当たり、破壊されていく。すでに、建物被害がすごい。
……建物被害だけなら、まだマジだ。
「キャアアア!」
落ちていく瓦礫、その下には逃げ遅れた人がいる。子供を抱きしめている、母親だろう。子供を守るために、必死に自分の内側に入れている。
でも、だめだ。あんな大きなの瓦礫が落ちてきたら、二人ともぺちゃんこだ。
「だめ!」
私は、魔力を足のみに集中して纏わせ、瓦礫が落ちてくる先に移動。足のみに集中したおかげか、自分でも驚くくらいの速度で、たどり着くことができた。
そのまま、二人を抱えて脱出。直後、そこに瓦礫がおちる。
よかった、なんとか間に合った……
「あ、ありがとうございます!」
「お姉ちゃんありがとう!」
「ううん。それより、早くここから離れ……」
ドォン……と、音がした。それに反射的に、振り返る。
魔獣の目から放たれたビームが、あちこちにぶつかっている。そのせいで、建物が崩れいろんなところから悲鳴が上がっている。
私が……一瞬、この親子を助けるために意識をそらしたせいで……!
「っ、くそ!」
選択肢を、間違えたのか? あのまま魔獣を捉えたまま、この親子は見殺しにすればよかったのか?
いや、そんなことない。そんなこと考えちゃだめだ!
まだ、まだ間に合う! 人に被害が出ない今なら、まだ間に合う……!
10
お気に入りに追加
164
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢はアホ係から卒業する
依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」
婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。
そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。
いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?
何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。
エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。
彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。
*『小説家になろう』でも公開しています。
異世界でトラック運送屋を始めました! ◆お手紙ひとつからベヒーモスまで、なんでもどこにでも安全に運びます! 多分!◆
八神 凪
ファンタジー
日野 玖虎(ひの ひさとら)は長距離トラック運転手で生計を立てる26歳。
そんな彼の学生時代は荒れており、父の居ない家庭でテンプレのように母親に苦労ばかりかけていたことがあった。
しかし母親が心労と働きづめで倒れてからは真面目になり、高校に通いながらバイトをして家計を助けると誓う。
高校を卒業後は母に償いをするため、自分に出来ることと言えば族時代にならした運転くらいだと長距離トラック運転手として仕事に励む。
確実かつ時間通りに荷物を届け、ミスをしない奇跡の配達員として異名を馳せるようになり、かつての荒れていた玖虎はもうどこにも居なかった。
だがある日、彼が夜の町を走っていると若者が飛び出してきたのだ。
まずいと思いブレーキを踏むが間に合わず、トラックは若者を跳ね飛ばす。
――はずだったが、気づけば見知らぬ森に囲まれた場所に、居た。
先ほどまで住宅街を走っていたはずなのにと困惑する中、備え付けのカーナビが光り出して画面にはとてつもない美人が映し出される。
そして女性は信じられないことを口にする。
ここはあなたの居た世界ではない、と――
かくして、異世界への扉を叩く羽目になった玖虎は気を取り直して異世界で生きていくことを決意。
そして今日も彼はトラックのアクセルを踏むのだった。
異世界でチート能力貰えるそうなので、のんびり牧場生活(+α)でも楽しみます
ユーリ
ファンタジー
仕事帰り。毎日のように続く多忙ぶりにフラフラしていたら突然訪れる衝撃。
何が起こったのか分からないうちに意識を失くし、聞き覚えのない声に起こされた。
生命を司るという女神に、自分が死んだことを聞かされ、別の世界での過ごし方を聞かれ、それに答える
そして気がつけば、広大な牧場を経営していた
※不定期更新。1話ずつ完成したら更新して行きます。
7/5誤字脱字確認中。気づいた箇所あればお知らせください。
5/11 お気に入り登録100人!ありがとうございます!
8/1 お気に入り登録200人!ありがとうございます!
魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m
あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活
mio
ファンタジー
なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。
こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。
なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。
自分の中に眠る力とは何なのか。
その答えを知った時少女は、ある決断をする。
長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシャリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる