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第四章 魔動乱編

223話 激化する戦場

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 氷の槍を放ち、それが魔獣の体に突き刺さっていく。魔獣の皮膚は硬く、氷の槍は触れても砕けていく。
 だけど、目は柔らかいのか、普通に氷の槍は突き刺さる。ダメージはイッているようだ。

 ただ、槍が突き刺さる度に奇声を上げるのは、勘弁してほしいけど。

「でも、これなら……」

 私はこれまで、魔獣を一人で相手した経験はない。まあ、魔獣なんてそうそう出くわすものでもないんだろうけど。
 師匠と二人だったときは、危なげなく対処できた。その後、魔導学園に現れた魔獣は、ルリーちゃんと先生のフォローがなければどうなっていたかわからない。

 でも、今は本当に私一人しかいない。ちゃんと対処できるのか……わからないけど、やるしかないんだ。
 皮膚は硬くても、目には刺さる。しかも、目は体中にある。攻撃は当てやすい。

 これなら私一人でも……

「オォオオオオン!!」

「っ!?」

 まるで怨念の塊のような奇声……それが響いた瞬間、魔獣の体に変化が訪れる。
 無数の目が……すべてではないけど、涙を流し始めたのだ。それが涙かは議論の余地があるかもしれないけど、そこが目で、目からなにか流れている以上、それは涙と言うしかない。

 もしかして、痛くて悲しんでる? 魔獣にそんな感覚があるのか分からないけど、痛くて泣いているというのがしっくりくる。
 でも、涙を見せられたところで、私は攻撃の手を緩めるわけには……

「……へ?」

 私の心の中に、ちょっとだけ「こいつどうしよう」感が生まれてしまった。けど、それはすぐに間違いだったと思い知ることになる。
 なぜなら、目の前で、目を疑うような光景が起こったから。

 魔獣が流した涙……それは重力に逆らうことなく、体を流れ、やがては地面に到達したわけだけど。
 涙の触れた地面が、じゅわっ……と音を立てて、溶け始めたのだ。

「いや……いやいやいや!?」

 それを見て私は、焦りを覚える。複数の目から流れる涙は、結構な量だ。それが、地面へと流れ、溶かしている。
 信じられない光景だけど、信じるしかない。そして、このまま見ているわけにもいかない。

 まずは、涙を流している目を潰す! そのために、氷の槍を生成し、一斉に放った。
 目を突き刺し、今度は開かなくなるまで深く突き刺す。そうすれば、涙も流れないはずだ。

 けれど、そううまくはいかない。放たれた氷の槍は、目から放たれたビームにより砕かれてしまう。

「泣いてる目からも出せるのかあれ……!」

 このままビームをあちこちに撃たれても、涙が流れても、被害は大きくなる一方だ。
 だったら……ちょっと、試してみるか。

「ぬぬぬ……」

 自分の魔力を高めていく。魔導を使うため、イメージする。自分がやりたいことを、頭の中でイメージしていく。
 魔獣の目が光っている。急げ。でも焦るな。

 イメージするのは、魔獣を閉じ込める……檻のようなもの。魔獣の攻撃を閉じ込める、もの!

「せいや!」

 こんな使い方を、したことはない。それでも私は必死にイメージして、杖を振るう。
 直後、魔獣を囲うようにしてドーム状のバリアが張られる。魔獣のビームは、バリアに阻まれ外へ出ない。

 あの涙の被害も、今以上には広がらないはずだ。

「へー、魔導ってそんな使い方もできるんだね」

 感心したように声を漏らすのは、魔獣を呼んだ張本人。ランノーン。
 こいつ、魔獣に加勢することもできただろうに、わざと手出ししなかったな? どういうつもりだ。

 そんな私の疑問を知ってか知らずか、ランノーンは続ける。

「いやぁ面白いよ! たった一人で魔獣をどうやって相手するのか、興味がある!」

 ワクワクした表情で、言った。その姿だけ見るなら、まるでおもちゃを買ってもらった子供のよう。
 この野郎、これを遊びがなにかと勘違いしてないか?

「魔獣は封じた! 次はあんただよ!」

「封じたぁ? おいおい、まさかこの程度で、オミクロンを仕留めたと思ってるんじゃ……」

「死ね!」

 余裕のあるランノーンに、私は杖を向ける。それでもランノーンは表情を崩すどころか、得意げに笑うけど……
 そこに、誰かの声が、した。それは、明確な殺意にあふれたもの。

 殺意の乗った刃が、ランノーンへと振り下ろされる。ランノーンは、それをかわして、後ろに下がりつつ自分を襲った人物を見る。
 それは……

「っ、はは! まさか本当に、ダークエルフが釣れるとはな!」

「! る、ルラン!?」

 そこにいたのは、銀色の髪を揺らし、緑色の瞳を殺意で鋭くしたダークエルフ……ルランの姿だった。
 私は思わず、周囲を確認する。周囲は、魔獣から逃げる人々ばかりで、こちらに気を向けている人はいない。

 ダークエルフが現れたと、バレてはいないんだろうけど……

「な、なんで……」

 思わず聞いてしまったけど、そもそもこれはダークエルフをおびき出すためのものだ。
 ダークエルフの故郷を襲った、白い魔獣。それと同系統のものを暴れさせれば、ダークエルフが出てくるんじゃないか、というもの。

 おまけに、魔獣を操っているのは……

「黒髪黒目……貴様、奴らの仲間か!」

 魔獣と同じくダークエルフの故郷を襲った、黒髪黒目を持つ人間と、同じ特徴の人間だったのだから。
 ルランは、人間を恨んでいる。だから、無差別に"魔死事件"を起こしていた。

 でも、一番許せないのは……

「そうだ、って言ったら?」

「殺す!」

 自分たちから故郷を、仲間を奪った、その相手だ。
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