上 下
226 / 781
第四章 魔動乱編

222話 現るる魔獣

しおりを挟む


 地中から地上へと出てきたのは……巨大で強大な存在。
 オミクロンと呼ばれたそれは、間違いなく魔獣だ。見てわかる……あんなのモンスターの範疇で収まるものじゃない。

 こんな場所に、魔獣が出てくるなんて誰も予想していない。地鳴りに悲鳴を上げていた人たちは、その矛先を魔獣へと変える。

「な、なにあれぇええ!?」

「モンスター……いや、魔物か!?」

「逃げろ、逃げろぉおおお!」

 騒ぎはいっそうに、大きくなる。私とランノーンのただの喧嘩だったのが、魔獣が出てくる事態にまで発展したのだ。
 この場は一気に騒然となり、魔獣から離れるように人々は逃げていく。体は動くようになったみたいだ。

 白い巨体……大きな建物くらいの巨体だ。コーロランのゴーレムと、どっちが大きいかな。
 手足がある、腰のくびれもある、巨大な胴体だけでシルエットは人だ……首より上がないことを除けば。

 巨体に顔と思われる箇所はない。首もないため、首から上を切り落とされたんじゃないかという印象を受ける。
 もちろん、そんなはずもないけど。

「はははぁ! 逃げろ逃げろぉ! そして出てこいダークエルフ!
 てめえらの故郷を滅ぼしたのと同系統の、魔獣がここにいるぞ!」

 逃げ惑う人々を見て、ランノーンは愉快げに笑っている。こんなところに魔獣が出てくれば、こうなるとわかっていただろうに……
 いや、わかっているからこそ、笑っているのか。

 それに、こいつ……ダークエルフを、おびき出そうとしている。あのときの魔獣と、同系統だって。
 悪趣味……!

「思い通りにはさせないよ!」

 なんにせよ、このまま魔獣を放置しておくわけにもいかない。どういう理由か知らないけど、ランノーンが魔獣を操っているってことだ。
 どっちだ……ランノーンを止めるか、魔獣を止めるか……?

 私は素早く、太ももに差していた魔導の杖を抜き、考えた末に魔獣に向けて構える……

「……!?」

 その瞬間……ギョロリと、無数の目が、視線が、私の体を突き刺した。
 魔獣の胴体、腕、足……全身から、目のようなものが開いた。いや、気持ち悪!

 学園に出てきた魔獣は、首から触手出てたりお腹が口みたいに開いたりしたけど、魔獣ってみんなこうなの!?

「って……ちょ……ちょちょちょ!?」

 魔獣の気持ち悪さに唖然としていたが、なんかヤバい雰囲気を感じる。なんでかって? だってヤバいから!
 私を見ている無数の目が、一斉に光りだしたんだもん。なにあれ、なんで目が光ってるの! そもそもあれ目なの!?

 まばたき一つもできない状況……変化は突然だった。カッと光ったかと思えば、目からビームのようなものが放たれる。
 それも、無数の目から放たれるので、無数のビームだ。それが、一斉に私を狙っている。

「うわぁ!?」

 とっさに身体強化の魔法で、脚を魔力強化。その場から飛び退き……直後、ビームが当たる。
 私の立っていた場所は、抉れてしまっていた。焼けたのだろうか、周辺が焦げている。

 焼けて抉れるって、どんな威力だよ……!

「いーい反射神経だねぇ。
 でも……これなら、どうかな?」

「! え、ちょっと……待ってよ……」

 ケラケラと笑うランノーンは、指を鳴らす。すると、魔獣の無数の目は、それぞれに視線を動かしていく。
 その先には、いろんなものがある。空があったり、建物があったり、逃げ惑う人々がいたり。

 さっき、あの目からビームが出た。それは、目線の先にいるものに向けて放たれるのだろう。
 今、無数の目はあちこちに向いている。一つの場所しか見れないなんてことはなく、一つ一つの目がそれぞれ別の場所を見ている。

 ということは……目線の先に、あちこちにビームが放たれるってこと!?

「ちょっ、やめてよ! やめさせてよ! 無差別にあんなビームを撃ったら……」

「たくさん、死ぬかもなぁ。面白いだろ!?」

 だめだ、聞く耳を持たない! かといって、さすがにあちこちに撃たれるビーム全部を対処なんてできない!
 だけど、やるしかない……!

「はっ!」

 私は、助走をつけてその場からジャンプをして……浮遊魔法で、一気に空を駆ける。あえて、魔獣の真ん前に。
 私の存在を、魔獣に釘付けにする。他の場所に目移りなんてしまいように!

「ひゅう。へぇ、飛べんのか」

「せいや!」

 いくつかの目がこっちへ向いたのを確認して、私は無数の氷の槍を創造。それを、魔獣の無数の目へと放つ。
 無差別に、だけど狙いは確実に。全部が全部当たったわけじゃないけど、それでもいくつかの氷の槍は魔獣の目を突き刺す。

 ぶすり、と嫌な音が聞こえ、それが魔獣のものだとわかっていても目に槍が突き刺さるのは痛い光景だ……

「ギィアァアアアアアアアアアア!!」

「……っ!?」

 その直後、耳をつんざくほどの悲鳴……いや、奇声が響く。その声とも音ともわからないものに、手にしていた杖を落としそうになる。
 なんとか耐えて、耳を塞ぐけど……まったく、効果がない。

 うる、さっ……なに、これ……!
 あの魔獣の奇声だよね……いや、でもどっから声出てるの。首から上はないし、学園に現れた魔獣みたいにお腹に口があるわけでもないし。

 目に槍が刺さって痛がっている……ということなんだろうけど。ちゃんと効いているってことなんだろうけど……

「って、やば……!」

 気づいたときには、複数の目が私を捉えていた。私に注意を向けることには成功したけど、まさかこんな状態なんて……!
 光る目、それに注意して私は、地面……じゃなくて空中を蹴って飛ぶ。直後に、無数のビームが放たれた。

 こうして飛んだのは、魔獣に気づかれやすくするため。そして、空中ならば被害が少なくなると考えたからだ。飛べば、自由に動けるしね。

「っ、せりゃ!」

 ビームを避け、弾き……攻撃が効くなら好都合だと考えて、私はさらに氷の槍を撃ち込んでいく。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

森だった 確かに自宅近くで犬のお散歩してたのに。。ここ  どこーーーー

ポチ
ファンタジー
何か 私的には好きな場所だけど 安全が確保されてたらの話だよそれは 犬のお散歩してたはずなのに 何故か寝ていた。。おばちゃんはどうすれば良いのか。。 何だか10歳になったっぽいし あらら 初めて書くので拙いですがよろしくお願いします あと、こうだったら良いなー だらけなので、ご都合主義でしかありません。。

処理中です...