上 下
205 / 739
第四章 魔動乱編

201話 信じてもらうということ

しおりを挟む


「……行っちゃったね」

「……はい」

 この場からリーサが去り、残されたのは私とルリーちゃんのみ。
 結界を張ったリーサがいなくなったってことは、もう人払いの効果もなくなったってことだし。休校になったとはいえ、誰か通るだろう。

 まあ、人払いしてたのは、ダークエルフであるリーサが他の人に見つからないために、だけど……

「って、ルリーちゃんはなんでここに?」

 そういえば、ルリーちゃんはどうしてここに来たんだろう。おかげで、リーサと再会できたわけだけど。
 するとルリーちゃんは、少し頬を膨らませた。

「もう、なんで、じゃないですよ。エランさんが戻ってくるのが遅かったから、心配していたんじゃないですか」

「そ、それで迎えに……あはは、ごめんね」

 あちゃー、心配させちゃってたのか。
 朝一で理事長室に呼ばれた私は、理事長室まで行って……その用件は終わったけど、すぐに帰るのもなんなので中庭を散歩していた。

 そうしていたら……

「……まさか、リーサちゃんと会っているなんて、思いませんでした」

 私もびっくりしたよ。いきなり、リーサが現れたんだもん。
 けど、会えてよかった。私としても、ルリーちゃんとしても……

 きっと、リーサとしても。

「それにしても、エランさん……本当に、リーサちゃんとは初めて会ったんですか?」

「へ? ど、どうして?」

「いえ、なんだか仲良さそうに見えたので……」

 私とリーサの関係を、疑われている……さっきのリーサの説明だと、私とリーサはさっき初めて会ったようになっているもんね。
 実際は、以前もう一回会っているけど。それを説明すると、またややこしいことになるからな。

 なんて説明しようか、考えていると……

「……そういえば、以前私、"魔死事件"の犯人がダークエルフじゃないか、って言いましたよね」

「へ? う、うん」

「その後、エランさんは言いましたよね。犯人に会った、ダークエルフだったって。
 誰かは教えてくれませんでしたが」

「うん、言っ……ん?」

「それって……もしかして、リー……」

「わ、ち、違う違う!」

 むむ、とあごに手を当てて考えるルリーちゃんは、独自の推理を立てて……とんでもない結論を出そうとした。
 私が以前会ったことがあるダークエルフが、"魔死事件"の犯人……これらの要素から、"魔死事件"の犯人がリーサではないか、と考えたのだ。

 私はそれを、焦って否定する。それは誤った推測だよと。
 それはとんでもない濡れ衣だよぉ!

「そ、そうですか……
 ……それもそうですよね。あんなひどい事件を起こした犯人と、エランさんが親し気に話しているわけないですもん」

「あははは……そ、そうだよー」

 ルリーちゃんは納得してくれたみたいだけど……私の心中は複雑だった。
 ルリーちゃんにとっては、やっぱり"魔死事件"は許せない事件なんだ。人間にひどいことされても、人間に歩み寄ろうとしているルリーちゃんらしい。

 思いがけず、リーサがルリーちゃんの中で犯人にされちゃうところだったけど……それはなくなった。
 ただ、その『許せない事件』を起こしているのが実のお兄ちゃんだと知った時、この子は……

「許せませんよね。たくさんの人を殺して、今度はノマさんまで……!」

「あ……それなんだけど、どうにもこれまでの"魔死事件"と、ノマちゃんを襲った犯人は、別人みたいで」

「え、そうなんですか?」

 きょとんとしているルリーちゃん……そうだよな。なにも知らない人からしてみれば、これまでの"魔死事件"も今回の"魔死事件"も、同じ犯人が起こしたと思うだろう。今のルリーちゃんみたいに。
 なんせ、犯行の手口ってやつが同じなんだから。

 私だって、リーサと話をしなかったら、ルランを完全に疑いから外せなかった。

「でも、すごいです! エランさん、そんなことまでわかっているなんて!」

 どうやらルリーちゃんは、私の言葉を信じたようだ。すごいすごいと連呼されるのは、少し恥ずかしい。
 ただ……

「えっと信じる、の?」

 これは、リーサとの会話で確信を得たとはいえ、ルリーちゃんにとっては確証のない情報だ。
 それを、疑いもせずに信じている。

「え、だってエランさんが言ったことですし」

「……」

 それに対して返ってきたのは、私が言ったことだから無条件で信じる、という類いのものだった。
 なんて純粋な瞳で、なんてことを言うんだこの子は……

 私は、この感情をどう表現していいのかわからず、ルリーちゃんの頭を撫でる。もちろんフード越しに。

「わっ……ど、どうしたんですか?」

「いや……嬉しい。嬉しいんだけど……私の言うことだからって、無条件で信じるのは、やめたほうがいいかな。私だって、間違えることはあるんだし」

 自分のことを信じてもらえるというのは、嬉しい。だけど、そこに無条件の信用がつくというのは、ちょっと危うい。
 私だって、人間だから間違えることもある。それを、信じられてその結果として悪い方向に物事が進んじゃったら……

 そうならないためにも、ルリーちゃんにはちゃんと、私の言葉を判断した上で、自分の中で結論を出してほしいな。

「……そろそろ、戻ろっか」

「はい! ナタリアさんも、心配していますよ!」

 いつまでも立ち話しているのも疲れちゃうし。ルリーちゃんが心配してくれたってことは、ナタリアちゃんも待ってくれているかもしれない。
 誰もいない中庭、周囲をざっと見てから……私は、ルリーちゃんと共に女子寮へと、戻っていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

異世界に転生した俺は農業指導員だった知識と魔法を使い弱小貴族から気が付けば大陸1の農業王国を興していた。

黒ハット
ファンタジー
 前世では日本で農業指導員として暮らしていたが国際協力員として後進国で農業の指導をしている時に、反政府の武装組織に拳銃で撃たれて35歳で殺されたが、魔法のある異世界に転生し、15歳の時に記憶がよみがえり、前世の農業指導員の知識と魔法を使い弱小貴族から成りあがり、乱世の世を戦い抜き大陸1の農業王国を興す。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...