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第四章 魔動乱編

198話 信頼してくれた理由

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 リーサとの会話で、今回の"魔死事件"の件は犯人がルランではないことが、確信できた。
 それは、ルリーちゃんのお兄ちゃんが私の友達に手を出してなくてよかった……と思うと同時に、犯人への手掛かりもなくなったことを意味していた。

 あんな殺し方、誰にでもできるものじゃない。先生たちが言うには、今回の事件もこれまでの"魔死者"と同じ現象が起こっていた、と言っていた。
 ノマちゃんの場合、その後死ぬことはなく生きていた……という違いはあるけど。それに、ぐちゃぐちゃになった体の中も、元に戻っていたと。

 たまたま、"魔死事件"と同じ方法で殺すなんてできるわけがない。だからこれは、魔石を人の体内に入れたら魔力が暴走する、と知っている人の犯行だ。
 その上で、学園に侵入できた人物……

「ねえ、エランちゃん……ルリーちゃんから、どこまで聞いた?」

「ん?」

 考え事をしていたところに、隣に座っていたリーサが話しかけてくる。
 ルリーちゃんから、どこまで聞いたか、とは……ルリーちゃんの、いやみんなの過去をってことだろう。

 あのあと、私ならルリーちゃんから話を聞くと、わかっていたのかな。

「仲のいい六人がいつも一緒だったこと、ダークエルフの中にエルフが混ざって生活を始めたこと、ある日人間が攻めてきたこと……
 ……その人間に、ルリーちゃんの大切な人が殺されちゃったこと」

「……そっか」

 ルリーちゃんの過去を聞いて、ルリーちゃんのすごさがよくわかった。
 ただでさえ、ダークエルフはいろんな人たちに嫌われているらしい。そして、ルリーちゃんは人間に大切な人を殺された……

 人間を恨んでも、おかしくない。いや、恨まないほうがおかしい。なのに、ルリーちゃんは自分から、人間に近寄ろうとしている。
 もしかしたら、憎しみを内に秘めているのかもしれない……そんな考えが及ばないほど、ルリーちゃんはまっすぐで、良い子だ。

 ……しかも……

「あの子は、ラティーアさんが好きだった。でも、あの人は目の前で殺されてて……それを見て、あの子は気を失った。
 でも、あそこで気を失って、あの子は良かったんだと思う」

「……?」

 意味深につぶやくリーサ。あそこで気絶しておいて、よかった?
 それはつまり……あの光景より、さらにむごいことが、あの場で起こったってことだろう。

 ……そういえば、ダークエルフを襲った二人の人間。確かエレガとジェラ、って名前だったっけ。あの二人も、"魔死事件"と同じ方法で被害者を作り出していた。
 いや、逆か。あれが"魔死事件"と同じなんじゃない。"魔死事件"が、あの経験を元にルランが真似したものだ。

 ってことは……その二人こそ、"魔死事件"の原点とも言える。ルラン以外にも、"魔死者"を生み出せる者が……
 いやいや、無理だろう。その二人は人間だもん。ルリーちゃんの過去がどれくらい昔か正確には聞いてないけど、さすがにもう死んでるか、でなければお年寄りになってるよ。

「どうかした?」

「へ、あぁ……
 ……あ、そういえば私、夢に見たんだ。ルリーちゃんから聞いた話の、その先を……」

「……話の、先?」

 これも、気になっていたことだ。ルリーちゃんから聞いていないはずの話が、夢の中に出てきた。あれがただの夢と判断するのは、難しい。やけにリアルだったから……
 ありえないと思うだろうけど、確かなことだ。

「ルリーちゃんは気を失ったから、ルリーちゃんから聞いていない話。でも、夢に見たのは……
 リーサとルラン、ジェラが対峙しているところに……小さな、女の子が現れたんじゃない? ジェラたちと同じ、黒髪黒目の」

「! ……えぇ、そうよ」

 半信半疑だったリーサは、私の指摘を受けて真剣な表情になる。
 これは、ルリーちゃんが知りえないはずの情報だ。わざわざ、その後リーサたちが教えるとも思えないし、ルリーちゃんが気を失っている間の出来事は、ルリーちゃん本人は知らないし、誰にも話せない。

 その内容を、私が知っている。それだけで、夢の証明をするには充分で……
 これが夢ではなく、本当にあった出来事だということも、証明された。

「ただ、私が見たのは、その女の子が出てきたところまでなんだけどね」

「……そう」

 その先が、気にならないと言えば嘘になる。でも、リーサがこう言うってことは、絶対にいい結末には終わっていない。
 それを聞き出す勇気も、リーサが話してくれる義理もない。それに、そこからの話にルリーちゃんは絡んでいない。

 ルリーちゃんが絡んでいない話なら、私がわざわざ積極的に聞く必要はない。
 ……私は、ルリーちゃんのことならもっと知りたい。でも、彼女の過去を聞いてから、気になっていたことがある。

「ルリーちゃん、なんで私と、仲良くしてくれるんだろ」

「え?」

 ルリーちゃんは人間を恨んでいても仕方がない。しかも、私はルリーちゃんの大切な人を殺した、この世界で珍しい黒髪黒目の特徴をしている。
 別に、特徴が同じだからって、私がそいつらの仲間ってわけじゃない。わけじゃないけど……
 見ていて、いい気分ではないはずだ。

 なのに、ルリーちゃんは私に心を許してくれるし、自分の過去まで話してくれた。
 初めて会ったとき、私が助けたから……とは、本人も言っていたけど。

「……エルフ族には、その人の体内に流れる魔力の流れが見える。これは、知ってるわよね」

「! うん。"魔眼"、だっけ」

 リーサがつぶやく。リーサが言っていることに、私は心当たりがあった。
 師匠がそういうことを言っていた気がするし、なによりエルフの魔眼を持っているナタリアちゃんから直接聞いた。

 エルフ族の目は、体内の魔力の流れが見える。魔力には種族ごとに微妙に違っていて、だからナタリアちゃんはルリーちゃんがダークエルフだとすぐにわかった。

「見えた魔力はね、その人の心によって質が違うの」

「……こころ?」

「心が汚い人は、魔力は濁って見える。そして、心が綺麗な人は、とっても澄んだ魔力をしている……
 ルリーちゃんが、あなたを信頼している理由は、ソレ、かな」

 魔力の流れは、その人の心の様子できれいか、濁っているか変わる……それは、初めて聞いたな。
 その上で、理由はソレ……と言われた。それは、つまり……

 私の心がきれいだったから、ルリーちゃんは私を信頼してくれた……ってこと、なのかな。
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