上 下
191 / 778
第四章 魔動乱編

187話 二人の再会

しおりを挟む


「ふぅー、食べた食べた。お腹いっぱい」

 なんかいつもと違った気持ちになったりしたけど、注文した料理を食べているうちにすっかり忘れてしまった。
 さすが人に勧めるだけあって、おいしい料理のお店だった。

「満足してもらえたようなら、なによりだ」

「まさか、こんないいお店もあるなんてねー」

 これまでも、いろいろ王都を回ってきたつもりだったけど、まだ知らないところがたくさんあるってことだな。
 ご飯はおいしかったし、大満足! ただ……

「なんか悪いね、全部払ってもらっちゃって」

「礼だと言ったろ、気にするな」

 ダルマスは、自分の分どころか私が頼んだ分も、まとめて全部払ってくれた。
 確かに、お礼にお店に連れて行かれ料理をごちそうされたわけだけど、なんだか悪いなぁという気もしてくる。

 だって、訓練に付き合ったといっても、私はまだ軽いアドバイスしかしてないわけだし。

「このまま帰るってのも、ただ奢らせただけでなんか悪いしな……」

「? どうした」

 ただ、ここで私がご飯のお返しをする、って話になったら、今回のお礼が意味なくなっちゃうしなぁ。
 となると……うーん……

「このあと、なんか予定ある?」

「! いや、特には」

「じゃ、適当にブラブラしようよ」

 このまま帰るのはさすがに良心が痛むし、せっかくおしゃれしてきたんだからもうちょっとブラブラしていくことにしよう。
 私の言葉に、ダルマスは驚いた様子で、でもうなずいた。

 ……あれこれ、私からこのあと誘った形になっちゃったのか?
 ダルマスは、元々食事の後はどうするつもりだったんだろう。

 そんなわけで、適当にブラブラすることにしたわけだけど……会話が、続かない。
 そもそもお互いの趣味とか知らないから、どういう話題を振れば相手が乗ってくれるのか、いまいちわからないしなぁ。

「ダルマスってさ……趣味とか、あるの?」

「まあ……体を動かすこと、か。あまり考え事を溜め込むよりも、体を動かしていたほうがスッキリする」

「ふぅん……」

 ……終わっちゃったよ! 全然会話続かないよ!
 ていうかなんだよ趣味はって! お見合いかよ!

 うーん、私から誘っておいて、これは不甲斐ないなぁ。くそう、なにも考えずにこのあとも誘うんじゃなかったよ!

「あれ、お姉ちゃんだ!」

「……ん?」

 ふと、知った声が聞こえた。とはいえ、いつも聞いている声ではない……最近聞いた声だ。
 ただ、それが私を指しているものかはわからない。なんせ、『お姉ちゃん』と呼んでいるのだから。

 ……ただ、もしそれが私のことを指しているのなら。私をお姉ちゃんと呼ぶ人物に、一人だけ心当たりがある。

「ビジーちゃん?」

「わーっ、お姉ちゃーん!」

 声の主を探すと、私のところに駆けてくる人影が一つ。それは、小さな子供のもの。
 ビジーちゃんが、私に向かってダイブしてきた。

「わっ、とと」

 私は、それを落とさないように受け止めた。
 うん、間違いなくビジーちゃんだ。でもなんでこんなところに……

 ふと隣を見ると、ダルマスが驚いたように固まっていた。

「……知り合い、か?」

「この間、ちょっとね。この子がガラの悪い奴に絡まれてたのを助けたの」

「……そうか」

 この子、ビジーちゃんとは王都で会った。そのときは、変な冒険者に変な因縁をつけられていたため、私が助けに入ったのだ。
 その説明を受けて、ダルマスは複雑そうな表情を浮かべている。どうしたのか。

 ……もしかして、私と初めて会ったときを思い出しているのか。あのとき、ダルマスはルリーちゃんをいじめていた。本人は、それがルリーちゃんという個人でなくダークエルフだから、いじめていたようだけど。
 ちなみに、そのダークエルフが学園に入学しているルリーちゃんだとは知らない。会ってもない。

 そう考えれば、なんか似たような出会いなんだな。加害者と被害者って違いはあるけど。

「……珍しい髪の色をしているんだな」

「うん、そうなんだよ」

 私に抱きついているビジーちゃん、その髪の色は黒だ。私と同じで、この国では珍しい色だ。
 小さな子供という以上に、同じ髪の色だから、気にかけているというのもあるのかもしれない。

 私の胸元に、ぎゅっと頭を押し付けていたビジーちゃんは、顔を離して……私と、その後ろにいるダルマスとを交互に見て……

「お姉ちゃんのカレシさん?」

 なんてことを、言った。彼氏だなんて、そんな言葉をどこで覚えたのだろう。
 というか、言葉の意味をわかっているのだろうか。

「なっ……か、彼氏、などと……」

「いやー、ないない。この男の子はただのクラスメイト」

「くらすめいと?」

「そ」

「……」

 まったく、彼氏だなんてませちゃってからに。このまま間違った認識でいてもらっても困るし、ちゃんと訂正しておく。
 ダルマスも、彼氏なんかじゃない、って言おうとしてくれていたみたいだしね。

 なんか、変な顔になってるけど。

「ビジーちゃん、あのあとどう? なんか不便なことない?」

 ダルマスはなんか固まっちゃってるし、私はビジーちゃんに話を聞く。ビジーちゃんを、冒険者から助けたあと、住むところがないというのでペチュニアを紹介した。
 とりあえずお金はあったようだし、信頼できる宿屋だからそこで一時的に暮らすようにとは勧めたんだけど。

 その後、どうなったのか気になっていた。

「えっとねー、私、住み込みで働くことになったの!」

「……マージで?」

「うん、マージで」

 返ってきたのは、予想もしていない言葉だった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

白雪姫の継母の夫に転生したっぽいんだが妻も娘も好きすぎるんで、愛しい家族を守るためにハッピーエンドを目指します

めぐめぐ
ファンタジー
※完結保証※ エクペリオン王国の国王レオンは、頭を打った拍子に前世の記憶――自分が井上拓真という人間であり、女神の八つ当たりで死んだ詫びとして、今世では王族として生まれ、さらにチート能力を一つ授けて貰う約束をして転生したこと――を思い出した。 同時に、可愛すぎる娘が【白雪姫】と呼ばれていること、冷え切った関係である後妻が、夜な夜な鏡に【世界で一番美しい人間】を問うている噂があることから、この世界が白雪姫の世界ではないかと気付いたレオンは、愛する家族を守るために、破滅に突き進む妻を救うため、まずは元凶である魔法の鏡をぶっ壊すことを決意する。 しかし元凶である鏡から、レオン自身が魔法の鏡に成りすまし、妻が破滅しないように助言すればいいのでは? と提案され、鏡越しに対峙した妻は、 「あぁ……陛下……今日も素敵過ぎます……」 彼の知る姿とはかけ離れていた―― 妻は何故破滅を目指すのか。 その謎を解き明かし、愛する家族とのハッピーエンドと、ラブラブな夫婦関係を目指す夫のお話。 何か色々と設定を入れまくった、混ぜるな危険恋愛ファンタジー ※勢いだけで進んでます! 頭からっぽでお楽しみください。 ※あくまで白雪姫っぽい世界観ですので、「本来の白雪姫は~」というツッコミは心の中で。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。 神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。 追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。 居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。 小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

処理中です...