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第四章 魔動乱編

175話 連絡先を交換しよう

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「はい、今日はここまで!」

「はぁ、ふぅ……!」

 放課後の稽古時間、二人だけの時間を取るにはこのタイミングしかないけど、放課後から訓練場を自由に使える時間はそんなに長くはない。せいぜい二時間ってところか。
 そんな中で、初日となる今日はまずダルマスが今、どのくらい魔導を扱えるかを見ていた。

 予想していた通り、ダルマスは魔導の扱いがうまい。今日までの間に練習していたおかげもあってか、以前はできなかった全身強化を、すでにできるようになっている。

「お疲れ様、思っていたよりずっといいよ」

「だが……っ、まだ、全身強化のまま、こいつを持って戦う段階は、遠いな」

 息切れをしているダルマスは、自分が持っている剣を見つめる。その手が、カタカタと震えているのはまだ感覚が慣れないのだろう。
 魔力による部分強化から全身強化。魔力を全身に纏わせながら戦う動きを体に馴染ませる。

 ダルマスの場合、それで終わりではない。剣を使い、魔力と剣両方を使いこなせるようにする。
 さらにその先……魔力強化だけでなく、魔法も難なく使えるようにする。それができてこそ、真に魔導剣士に近づける。

「こんなに、疲れるもの、なのか……」

「今まで部分強化で止めてたから、全身に回す魔力の量は今までの比じゃないからね。
 でも、今日までの練習は無駄じゃないよ。その程度の脱力感で済んでるなら」

「こ、これで、その程度か……」

 魔力による身体強化は基礎の基礎。だけど、基礎ゆえにその先まで極めようとする人はいない。
 シンプルなものほど、極めれば強力だ。私は、早いうちからそれを師匠に教えられた。

 全身強化をやり始めた頃は、脱力感がすごかった。でも、それを繰り返すことで体を慣らしていくのだ。

「身体強化だけに練習を絞ればもっと時間を短縮できるけど、そうもいかなかっただろうしね」

 魔導学園の授業では、いろんな授業がある。魔導の使い方、その種類。身体強化だけに集中するわけにもいかない。
 それに、ダルマスはそれ以外にも剣の練習もあっただろうし。

 ただ、この子はわりと真面目だ。物覚えもいいし、魔導を真剣に学ぼうってのがわかる。教える私も、やりがいがあるってもんよ!
 まあ、今日は魔力強化を全身に、って指示しかしてないわけだけど。

「……お前は、この状態で俺と、戦って……あんなにも、自在に動けていたのか」

「まあ、年季が違うってもんよ」

 全身強化をして、さらに魔法も放つ。それさえできれば、魔導士としてのレベルはぐんと上がる。
 簡単なようで、意外と難しい。でも、必ずできる。

 うーん、人に教えるのってどうなんだろうと思っていたけど、案外悪くないもんだな。

「……俺から頼んでおいてこんなことを言うのも変だが、お前はいいのか?」

「うん?」

「俺に教えることで、自分の練習がおろそかになるんじゃないか」

 少し、申し訳無さそうな表情を浮かべているダルマス。その理由は、自分のせいで私の練習時間が減ってしまうことを気にしているかららしい。
 私も同じく大会に出るのだから、私の時間を奪うのを申し訳なく思ってると……

 なんていうか、驚いたな。

「そういう気遣いできるんだ」

「んっ……お前は、俺をなんだと思っているんだ」

 私の素直な言葉に、ダルマスは心外そうな顔をしている。さすがに素直に言い過ぎたかもしれない。
 でも、素直な感想なんだから仕方ないじゃないか。

「心配いらないよ。私は私で、ちゃんとやってるから」

「……そうか」

 私の言葉を、本心と受け取ったかそれとも気遣いと受け取ったか。私は本心を言ったけど、これをどう受け取ったかはわからない。
 ただ、ダルマスがありがたそうに思ってくれているのは、なんとなくわかった。

 とにかく、今日の稽古は終わりということで。ダルマスも少し回復してきたみたいなので、私は帰りの準備をする。
 今日から大会までの間、ダルマスに稽古をつけることになったことは……誰にも言わないほうが、いいのかも。本人もできるだけ内緒にしておきたいらしいし。

「今日は助かった。いや……これからも、世話になる」

「なんのなんのー。
 ……あ、でも、さすがに毎日ってのは厳しいかもしれない」

「あぁ、もちろん。というか、お前は生徒会の仕事もあるだろう。
 用事があるときは、さすがにそちらを優先してくれ」

 学校が終わった放課後、とはいっても、いつも暇な訳ではない。クラスメイトにお茶会に誘われることだってあるだろうし、生徒会の仕事が入るかもしれない。
 考えてみれば、今日暇だったのは運が良かったのかもしれないな。

 私の問題もあるし、ダルマス自身にだって予定があるときはあるだろう。
 お互いに暇な放課後……このタイミングが、二人きりの稽古の時間になる、というわけだ。

「一緒に見れないから、一応コツとかは教えといたけど……」

「ああ、助かる」

 直接指導できるなら、その場で口を出せる。良いところは褒めたらいいし、悪いところは注意する。直接見てわかることだってある。
 でも、そういうわけにもいかない。だから、私と一緒でないときもちゃんとした練習ができるように、アドバイスをしておく。

 これだけでも、だいぶ違うはずだ。ダルマスなら、私の言葉をちゃんと実践できるはず。

「あ、連絡先交換しておこうよ。あんまり、話しているの見られるの嫌なんでしょ?」

「嫌というわけでも……
 いやまあ、そうだな……連絡先は、知っておいたほうがいいな」

 いつ暇でいつ忙しいのか。今日は稽古できるのかできないのかという問答を、いちいち人目を気にして話すというのも面倒だ。
 私は、学園から支給された端末を取り出す。構造はよくわかんないけど、これに相手の連絡先を登録しておけば、その相手と気軽に連絡できるらしい。

 長方形の手のひらサイズ。持ちやすいし、いやぁ便利だね!
 というわけで、早速連絡先を交換、と。

 ……そういえば、ゴルさんたち生徒会メンバーを除けば、男の子の連絡先入れるの初めてだなぁ。
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