史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

文字の大きさ
上 下
178 / 835
第四章 魔動乱編

174話 いざ稽古の日々へ!

しおりを挟む
 
 神殺しの剣テュルファングと出会って以降、地味に呪い関連の事案が絡んでくる機会が増えた気がする。
 ルーシーによれば「わたしの魔力の波長に反応しているのかも」とのこと。
 ほら、幽霊とかって視える人のところに寄ってくるって話を聞いたことない?
 自分のことが視えているのならば、きっと話も聞いてくれるだろうと、すがる想いにて、うらめしやー。
 わたしを取り巻く状況は、どうやらそれに近いものらしい。
 いくら健康スキルの恩恵にて、呪いなんてへっちゃらな体質の女とはいえ、なんて迷惑な! ノットガルドにはネクロマンサーがいるんだから、そっちへ行けよ! こっち来んな!
 それでもって、今回はコレだよ。
 井戸の底から聞こえてくるのは「ピチピチギャルとデートしてえ」とか「おっぱいの大きな未亡人に囲われてえ」とかいうふざけた台詞。
 そんなもの、わたしだって囲われたいよ! そして膝マクラにて存分に甘やかしておくれ!

 井戸の底にはロープを括りつけたルーシーさんに行ってもらった。
 だってわたしだと、その辺にロープを括りつけて降りることになる。そして引き上げてもらえないので、自力でよじ登ることになる。しかも荷物をかついで。
 作業効率を考えた結果が、この配役である。
 ゆっくりとルーシーが吊るされたロープを下ろしていく。
 ある程度いったところでロープが向こうからクイクイと反応。
 すぐさま引き上げたところ、ルーシーの手には小さな石のコケシみたいなのが握られてあった。井戸の底が横に掘られており、一番奥の祭壇にて飾られてあったという。
 五百ミリリットルのステンレスケトルぐらいの大きさ。重さもちょうどそれぐらい。
 その石のコケシがお天道さまの下に出たとたんに「夏の太陽は嫌いだ。あとビーチのカップルども、うぜー。全員爆ぜろ。もしくはモゲろ」と言った。

「これがアルチャージルに災いをもたらす……、邪悪?」

 わたしが首をかしげるとルーシーも「たぶん」と自信なさげに首をかしげた。
 だが当の石のこけしはやたらと自信に満ち充ちていた。

「おうとも、オレさまがその気になれば、リゾートだのバカンスだのと浮かれているバカどもなんぞ、あっという間に不幸のどん底へと叩きおとしてやるわ」

 ちょろちょろ漏れる呪染だけで、いろいろと災いを招いているところからも、実力はある。まんざら大言壮語というわけでもないのかもしれない。
 だからとっとと叩き壊そうとしたら、ルーシーに止められた。

「いけません、リンネさま。この手のトラップは迂闊に手を出すと爆発すると相場が決まっているので」
「なら埋めるか? コンクリートでがっちりと固めて」
「おそらくですが、それとても一時しのぎでしょう。どうやら封印されている間に、身に染みついた呪いが薄まるどころか、ますます熟成されて濃くなっている様子。ヘタに埋めて放置していたら、次はとんでもないことになるかもしれません」
「えー、めんどくせー。でもそうしたらどうすればいいのよ」
「そうですね……。当人にきいてみるのが手っ取り早いかと」
「?」
「呪いというモノは強い想いの残滓。その想いを成就してやれば、呪いも自然と霧散するというもの」
「なるほど、そういうことか。よし、わかった。じゃあ、とりあえず石のコケシにたずねてみよう」

「コケシさん、コケシさん、どうすれば穏便に逝ってくれますか? 教えてください」

 主従してめっちゃへりくだって教えを請うたら、「しょうがねえなぁ」とコケシ。「そうだな、オレさまデートがしたい」とか言い出した。
 これにはさしものルーシーの青い目も点となる。あまりにもしょうもない願いだったからだ。
 だがわたしには彼の気持ちがちょっぴりわかる。
 いや、いささか見栄を張った。悲しいことに、むしろガッツリわかってしまう。
「カップル爆ぜろ」とか「リア充くたばれ」とか悪態をついてる人ほど、じつは内心でとっても彼らをうらやましがっている。
 自分の殻に閉じこもり、斜にかまえることで、夏をやり過ごし聖なる夜に息を潜め、どうにか己のちっぽけな自尊心を守っているにすぎないのだ。
 その殻とて、ほぼほぼ紙装甲。
 だからやさしくしてちょうだい。すぐに破けちゃうから。
 自分もイチャコラしたい。でも出来ない。相手がいない。ならば自分から動け。そんな真似が出来れば誰も苦労してねえよ! スズメ並みのチキンハートを舐めんな! 
 あー、自分から行く意気地なんてないし、誰か告白してくれないかなぁ。
 いまならフリーよ。浮気もギャンブルも酒もタバコもしない。暴力なんてもってのほか。こう見えてマジメで一途な優良物件だよ。早い者がちだよ。ウエルカム、ラバー!
 しかし、現実はどこまでもしょっぱい塩対応。
 基本的に棚からボタ餅は降ってこない。大口を開けてバッチこーいと待っていても、口の中がカラカラに乾燥し、ノドがいがらっぽくなるだけ。
 この石像を彫っていた古代の勇者も、はじめのうちは怨念を込めるかのようにして彫り進めていたのであろうけれども、歳月が経つうちに、そこに憧れやうらやましいという気持ちが上塗りされていったと。
 誰かに愛されたい。
 誰かに必要とされたい。
 そして誰かを愛したい。

「デートがしたい」

 石のコケシの、しようもない願いに込められた、切実なる心情。
 これをくみ取ったわたしはひと肌ぬぐことにした。

「しようがないね。そういうことなら、このピッチピチのわたしが相手をしてやるよ」

 報われない野郎の魂を鎮めるために、いま乙女が立ちあがる!
 だというのに、石のコケシは「えー、オレは胸の大きな子が好みなんだけど」とかぬかしやがったから、すかさずスコーピオン断罪トゥーキック。
 つい反射的に蹴飛ばしてしまい、森の奥へと飛んでいく石のコケシ。
 おかげで探す手間が増えた。
 だがこの一撃が功を奏す。

「へへっ、オレは気の強い女も嫌いじゃないぜ。ツンデレ、いいじゃないか」だってさ。

 どうやらコイツを彫った男は、かなり守備範囲が広いらしい。
 それから石のコケシが阿呆で助かった。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

王太子妃が我慢しなさい ~姉妹差別を受けていた姉がもっとひどい兄弟差別を受けていた王太子に嫁ぎました~

玄未マオ
ファンタジー
メディア王家に伝わる古い呪いで第一王子は家族からも畏怖されていた。 その王子の元に姉妹差別を受けていたメルが嫁ぐことになるが、その事情とは? ヒロインは姉妹差別され育っていますが、言いたいことはきっちりいう子です。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

処理中です...