史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

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第四章 魔動乱編

164話 ルリーの過去⑪ 【狂乱】

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 クリスマス前のこの時期、駆け込みのプレゼント目当てのお客様が多いのは毎年のことだ。
 彼女はうんざりしていた。
 もちろん、お客様には喜んでもらいたいし、嬉しそうな顔を見るのは販売員冥利に尽きる。
 だが。


(初手で光り物をプレゼントするような男は滅びろ)


 リア充爆発しろ、とまでは言わない。カップルで来るのはまだいい。彼女の意見を聞いて買い物をしている。
 問題は、相手の好みも知らないのに光り物をプレゼントしようとする男だ。
 そんな男にアドバイスする方の身にもなってくれ、と切実に思う。結局は無難なデザインのものしか提案できないのだ。
 彼女はニコニコと営業用のスマイルを装備しながら仕事をこなすしかない。
 そんな中である。


(……あれ?)


 今日は、様子が違う客が紛れていた。
 若い。どう見ても高校生くらいの二人組。しかも男子。
 黒髪美人と、茶髪王子さま。
 お互いの彼女へのプレゼント選びだろうか。不思議に思って声をかけたら茶髪王子にかわされた。その左手薬指に光る、プラチナの指輪。


(おおっ!?)


 俄然興味が出てきて気付かれないようにチラチラ見ていると、黒髪美人が顎に当てた左手薬指にもお揃いに見える指輪が光る。


(もしやこれは……っ!)


 いわゆる、禁断の恋、というやつではないだろうか。しかも既に両思い。
 チェーンタイプのネックレスコーナーを見ているところから察するに、学校では指輪が出来ないけど肌身離さずいたいからネックレスを探している、といったところか。


(やだ、ぜひ協力したい……!)


 そう彼女が思ったことに気付いているのかいないのか。茶髪王子に呼ばれていそいそとそちらへ向かう。


「これって長さどれくらいなんですか?」


 そう聞いてきたのは黒髪美人。


「ほぼ45cmです。少し長めがお好きでしたら50cmの方が良いかと」


 さり気なく、50cmの方がいいよ、アピール。45cmだと当然女性用の物が多いからだ。


「んー……」


 ちょっと考える黒髪美人に、彼女はアドバイスのつもりで続ける。


「お色は、ゴールドとホワイトゴールドがあります」
「ホワイトゴールド?」
「プラチナと同じお色に加工したものです」
「へぇ」
「プラチナの50cmのものも少数ですがございますよ」
「えっ」


 ホワイトゴールドに興味を示したのは、指輪はやはりプラチナなのだろう。提案してみたら、思いの外食い付いたから微笑ましくなる。確か、在庫はあったはずだ。


「今お持ちしますね」


 そう言って、慌てて在庫を確認にバックヤードに戻った。商談開始と判断した同僚が、彼らにコーヒーを持っていく。
 その間に大急ぎで在庫が二本ある50cmのプラチナ素材のネックレスをジュエリートレーに並べた。
 やはり定番ばかりで種類は少ないが、これは仕方がない。


「お待たせいたしました」


 差し出したジュエリートレー。気に入るものはあるだろうかとドキドキする。そんな中で茶髪王子は彼女のオススメしたかったスクリューチェーンを手に取った。シンプルなのに華やかさがあるので、女性にも人気がある。ひょいと持ち上げて、黒髪美人の首元に当てる。
 彼女は手慣れた様子で、すぐに鏡を用意して黒髪美人にもその様子が見えるようにした。


「ちょ、円」
「これくらい良いでしょ。お、これ綺麗」
「良かったら、実際に着けてみますか?」
「え」
「いいんですか?」
「もちろんです。どうぞ」


 促せば、茶髪王子は黒髪美人の首にネックレスを着けてやる。


(黒髪美人受け……!)


 ネックレスは彼のシャツの隙間から少し覗く程度。長くも短くもない、ちょうどいい長さだった。


(めちゃイイ! 私、グッジョブ!)

「どう、かな?」
「うん、綺麗」
「着け心地もすごくいい」
「じゃあ、それにする?」
「うん」
「すみません。これ、同じものもうひとつありますか?」


 もちろんある。確認してから持ってきたのだから。


「ございますよ。そちらでよろしいですか?」
「はい」
「今お持ちしますね。そちら、そのままお着けになって行かれますか?」
「え? あ、これは……」
「いえ。プレゼント用に包んでもらえますか?」
「かしこまりました。ではそちらもお預かりしますね」


 黒髪美人が着けていたチェーンを預かり、彼女はそのまま作業台でラッピング作業に入る。


(幸せだなぁー!)


 幸せカップルにあんな笑顔を見せられて、ほっこりしないはずがない。
 今までにないほど丁寧に、そして迅速にラッピングを済ませて商品を渡す。会計を済ませると、二人ともがこちらに笑顔を向けてくれて、彼女は久しぶりにこの仕事やってて良かったと心から思った。

 そしてその日、かつてないほどのやる気を見せた彼女は、今までにないほどの好評価をお客様から得ることになったのはまた別の話だ。
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