史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

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第四章 魔動乱編

158話 ルリーの過去⑤ 【対立】

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 目覚めたエルフ……しかし、彼あるいは彼女が発した言葉の中には、確かに恐怖があった。
 すぐに起き上がり、立ち上がろうともするが……転んでしまう。

 それでも、必死に体を動かして、座り込みながらも、後ずさりをしていく。
 その姿に、ルリーも、リーサも、ルランも……一様に、黙っていた。
 初対面であるエルフに、怯えられる覚えなどない。なにせ、エルフと会うのはこれが初めてなのだから。

 ……いや、心当たり自体なら、ある。

「リーサ! ルリー、ルラン!」

「! ラティ兄!」

 緊迫した場に、聞きなれた声が響いた。その声に、ルリーは嬉しそうな表情で振り返る。
 そこにいたのは、こちらに向かって走ってくるラティーアの姿。彼を案内するようにネルが先導し、その後ろをアード、マイソンが走る。

 ネルたちが呼んできた大人、それがラティーアだ。
 その姿にほっとする三人……対して、エルフの表情は強張る。

「! エルフ……本当に……」

「ね、言ったとおりでしょ」

 この森にいるはずのないエルフ……その姿を認め、ラティーアは足を止めた。
 エルフにとっては、新たなダークエルフが四人も増え、いよいよ体の震えが止まらなくなっていた。

 その姿に気付いてか気付かずか、エルフに近づいていくのはネルだ。

「あ、ネル……」

「大丈夫?」

 制止の声も聞かず、ネルはエルフの前に立ち……手を、差し伸べた。
 本当ならばエルフの方が長身だろうが、座り込んでいるため、両者の視線は同じくらいの高さだ。

 初めて見るエルフ……誰しもが混乱の最中にいるところ、ネルだけがいつも通りだ。
 倒れているエルフを最初に見つけたのはネルだ。表情には出さずとも、きっと心配しているのだろう。

 自分に伸ばされた手を、エルフは戸惑いがちに見つめる。なんとも、小さな手だ。
 その手に、恐る恐ると、自分の手を伸ばしていって……

「近寄らないで!」

 その手を、はたいた。

「ぁ……」

「! お前……!」

 エルフを心配して伸ばされたネルの手は、他ならぬエルフに弾き返された。
 その光景に、アードが声を荒げる。こちらが心配しているのに、その態度はなんだというのか。

 自分よりも、小さな子供の剣幕。それを受け、しかしエルフは「ひっ」と体を丸める。
 それでもアードの気持ちが収まることはない……だが。

「アード、落ち着いて」

「っ、けど、ラティー兄!」

 アードの肩を掴み、彼の動きを止めるのはラティーアだ。
 納得いかないとばかりにもがくアードだが、その手をネルが掴む。

「大丈夫、わたしは気にしてないから」

「……そうかよ」

 手を払われたネル本人が、気にしていないと言えば、もうアードはなにも言えない。とはいえ、それで納得できるわけでもない。
 そんなアードの頭を、ネルはポンポンと撫でた。

「でも、ありがとね」

「べ、別に……」

 他のみんなも、ネルの心配を無下にされたことに思うところ、言いたいことはあっただろう。しかし、今のやり取りを見てそれぞれ、言葉を抑えた。
 それを確認し、今度はラティーアがエルフに近づいていく。

 その姿を見上げ、エルフは肩を震わせた。

「な、なによ……」

「なぜ、エルフがこんなところにいるんだ」

 ラティーアの表情は、ルリーの位置からは見えない。
 けれど、その声は……口調こそいつもと同じなのに、なんだかいつもと違うような気がした。

 ルリーは、昔両親から聞いた話を思い出していた。
 その昔、ダークエルフの先祖が、闇の魔術を使い他の種族を滅ぼした。それが原因で、生き残った人間族などからは嫌われ、今では数少ない同胞だけで人目につかない場所で暮らしているのだと。
 そして、同じ『エルフ族』という括りのせいで、エルフまで人々から迫害されることとなった。

 だから、エルフがダークエルフを嫌う理由は、正直理解できる。
 だが……このエルフの挙動は、嫌悪などではなく、どちらかと言えば怯えだ。いや、怯えが勝っている、ということだろうか。

「答える必要、ない……」

「ここは我々が暮らしている森だ。無断で立ち入っておいて、その言いようは通用しない」

「ダークエルフの……
 だから、全然精霊の気配がないのか……」

 ラティーアの言葉に、エルフは憎々し気に舌を打つ。
 ここはダークエルフの住まう森。つまり、ダークエルフを好く邪精霊が好く場所ということでもある。
 邪精霊が好くということは、精霊は好まない場所ということだ。

 ここでは、エルフはいっさいの魔術は使えない。
 魔法ならば使えるが、対するダークエルフは七人……内六人が子供とはいえ、魔導の扱いに長けたエルフ族にとって年齢の差などたいした問題ではない。しかもここは、ダークエルフの住む森だ。

 ……ここで騒ぎを起こせば、たとえこの場を切り抜けられても他のダークエルフに捕まるだろう。
 下手な抵抗は、逆効果だ。今のところ、ダークエルフに敵意は見られない。

「……住んでいた里が、人間に襲われて。みんな、死んで……なんとか、逃げてきた。
 でも、夢中で走ってたから、どこをどう走ってきたのかもわからなくて……」

「……なるほど」

 先ほどに比べれば落ち着いたエルフの言葉を、一同は黙って聞いていた。
 住んでいた場所を、人間に滅ぼされた……それは、聞いただけで背筋が寒くなってしまう内容だ。

 人間族。当然、ルリーたちは見たことがない。
 聞いた話では、この世界には始まりの四種族がいた。竜族、鬼族、魔族、そして今のエルフ族であるめい族。命族は、残る三種族を滅ぼしたとされているが……

 人間族とは、いったいいつ、どこから出てきたのだろうか。

「ラティ兄、このエルフどうするの?」

「追い出すのか?」

 今の話が本当ならば、このエルフも被害者だ。ルリーは、ラティーアへと選択を迫る。それに続いて、マイソンが聞く。ラティーアの答えを待っている。
 それは、他のみんなも同様だ。

 子供たちからの視線を受け、ラティーアは……

「とりあえず、おさのところに連れて行こう」

「いいの?」

「あぁ。さすがに俺が勝手に決めるわけにもいかないし……
 このエルフに敵意があるなら別の道を考えたけどね」

 すでに、エルフに敵意は感じられない。それは、ある程度落ち着いたことを示しているのだろうか。
 それでも、まだ怯えが見て取れるが。

 ここで追い出すとか選択肢を取らないラティーアを、優しくてらしいな、とルリーは思っていた。
 と同時に、こうも思った。エルフは、ダークエルフに敵意を向けるが……逆に、ダークエルフがエルフに敵意を向ける理由は、ないのだと。
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