史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

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第四章 魔動乱編

156話 ルリーの過去③ 【遭遇】

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 ……エルフとダークエルフ。一括りにエルフ族という種族ではあっても、もちろん両者には違いがある。
 煌めく金髪を持ち、日焼けもしたことがないほどと思わせる白い肌を持つエルフ。対して、輝く銀髪を持ち、健康的に思える褐色な肌を持つダークエルフ。
 見た目は違うところはあれ、共通している部分もある。人には見られない尖った耳、そして宝石のようにきれいな緑色の瞳だ。

 両者の違いは、なにも見た目だけではない。根本のところであれば、精霊に好かれるか邪精霊に好かれるか、だ。
 要点だけを纏めるならば、エルフは精霊に好かれ、ダークエルフは邪精霊に好かれる。というか、基本的に邪精霊と心を通わせることができるのは、ダークエルフしかいない。

 その代わりというべきなのかはわからないが、邪精霊に好かれるダークエルフは精霊には好かれない。
 精霊とはすなわち人が魔術を使うために、なくてはならない存在。その精霊に好かれないということは、ダークエルフは一般的な魔術が使えないということだ。

 一方で、邪精霊に好かれるダークエルフにしか使えない魔術も存在する。それが、闇の魔術だ。
 ダークエルフは、本来精霊と心を通わせれば使えるはずの魔術は使えず、闇の魔術のみを使うことが許されている。
 そしてその闇の魔術こそが、ダークエルフが、そしてエルフが人々から迫害されるようになった理由である……

「って、聞いたことはあるけどよー。わっかんねえよな」

「そもそも、エルフなんてのがいるのかどうかも眉唾だね」

「エルフどころか、人族ってのも見たことがねえしなー」

 ある日の昼下がり。ルリーたちいつもの六人は、話に花を咲かせていた。
 誰が言い出したのか、昔大人から聞いた、エルフという存在について……それを話しているうち、すっかり夢中になってしまったようだ。

 多少大きくなったとはいえ、六人はまだまだ子供。
 森の外に出たことがなければ、他の種族を見たこともない。自分たちダークエルフ以外に見る存在なんて、せいぜいが森に迷い込んできたモンスターだ。

 六人は、まだ魔術というものを使ったことがない。魔導の練習として魔法を使うことは多々あるが、魔術はまだだ。
 精霊……いや邪精霊と心を通わせるには、並大抵のことではないらしい。それでも、古来より自然と触れ合うことの多いエルフは、精霊と心を通わせやすいのだという。
 それはダークエルフも同義で、邪精霊と心を通わせやすい種族だ。まあ、この場合ダークエルフ、邪精霊それぞれとしか、心を通わせることはできないのだが。

 ゆえに、六人もその気になれば、邪精霊と心を通わせることはできる……のかもしれない。
 しかし、子供だからかはたまた別の理由か。未だに、邪精霊との対話は許されていない。

「ラティーアさんが言うには、闇の魔術は危険だから、もっと心身が成長してから、ってことだけど」

「心身ねぇ……そもそも、本当に魔術なんてあんのかよ。
 村の誰も、使ってるところ見たことねぇぞ」

 リーサの言葉に、しかしアードは疑って魔術の存在を認めようとしない。
 ラティーアの言うことが正しいなら、少なくとも大人たちは魔術を使えるはずだ。だが、魔術を使っているところを見たことがない。

 ……ダークエルフは、闇の魔術以外は使えない。精霊と心を通わせることができないからだ。
 なので、闇の魔術を見たことがなければ当然、他の属性魔術も見たことがない。闇以外の魔術の存在すら、あやふやなのだ。

「……でも、ラティ兄が嘘つくはずないもん」

 疑いの言葉に、しかし反対の意見を述べるのはルリーだ。
 ぷくーっと頬を膨らませた彼女の姿に、リーサはニタニタと笑みを浮かべていた。

 そして、彼女とネルの手を引き……

「ちょーっと、私たち席を外すわね」

「どこ行くんだよ」

「女の子にそういうこと聞くの、デリカシー、よ」

 べ、と意地悪げに舌を出し、リーサは二人の手を引いて森の奥へと消えていく。
 女の子だけで用事があるのだろう、ならば追いかけるわけにはいかないと、ルランたちはその場で男同士、暇をつぶすことにした。

 ……ルランたちから離れたところで、リーサは足を止める。

「ど、どうしたのリーサちゃん」

「どうしたの、じゃないわよルリー。
 アンタってばホントわかりやすいわね」

「わかり……?」

「ラティーアさんのこと」

「!」

 びしっ、と指を突きつけられ、指摘された内容……というか名前に、ルリーは肩を震わせる。
 その顔が赤くなっているのをごまかすため、ふいっと顔を背けるが……残念ながら、長い耳まで赤に染まっているため、全然隠せていない。

 その様子を、ネルはその辺に生えていた葉っぱを千切って舐めながら、見つめていた。このあたりに生えている葉っぱには、味がついているのだ。
 これはちょいしょっぱい。

「ななな、なんのこと……」

「ごまかしてもムダ。ラティーアさんのことになると、すぐ顔色変わるんだから。
 好きなんでしょ?」

「うっ……」

 そんなの、なんの証拠もない……と突っぱねようかとも考えるが、リーサの目はもはや真実を射抜いている。

 これはもうごまかしようもない、と感じてか、ルリーの耳がぺたんと垂れる。昔から、隠し事が苦手だと言われている。
 それはなんともかわいらしい姿だ……思わず抱きしめてしまいたくなると見つめるリーサ。同時に彼女はウキウキを隠しきれない。

「まあでも、ルリーとラティーアさんって、結構お似合いな気がするわ」

「え、そ、そう?」

 先ほどまでこの場から逃げたくなるほどに羞恥を感じていたルリーであるが、リーサの言葉にパァッと表情を明るくさせる。
 満更でもないルリーである。

「そうよ。ねぇ、ネルもそう思うでしょ?」

「あたし、ラティーア兄さんはルランくんと相性がいいと思うの」

「あーーー…………うん、そうね!」

 両手を頬に当て、うっとりとした表情を浮かべるネルを見て、リーサは考えるのをやめた。
 ルリーとはまた違った方向でかわいらしい子なのに、どうしてこんなことに……そう思っても、本人が満足そうならいいかと、リーサは若干諦めている。

 ネルからの同意は得られなかったが、それはともかくとしてリーサはルリーの背後から抱きついた。

「きゃ!? り、リーサちゃん!?」

「ホントもー、ルリーがその気になれば、誰だって落とせると思うわよ?
 この胸とかさぁ、使えば男なんてイチコロなんじゃない?」

「ひゃあ!? 触らないでぇ!」

「ほれほれー、ここがええのんかー」

 背後から抱きつくに飽き足らず、リーサはルリーの身体をまさぐっていく。じゃれ合いと言ってしまえばそれまでだが、そこには若干の嫉妬も込められている。
 自分よりも年下だというのに、自分よりも発育がよろしい……そんなルリーの身体に、少しくらい意地悪してもいいよねとリーサが考えるのは、必然でもあった。

 二人の少女のじゃれ合いをのんきに見つめていたネルは、おもむろに自分の胸元をペタペタと触る。
 ……ペタペタと、触る。

 そんなときだった。

「……あれ?」

「ね、ネルちゃん! 見てないで助けて……」

「あそこ、誰か倒れてる? というかついさっき倒れた」

「へ?」

 ぼんやりとしたネルの言葉に、ルリーとルリーの胸をもてあそぶリーサは動きを止めた。そして、ネルの視線を追う。
 とはいっても、ここは森の中だ。今は昼とはいえ、この場所は薄暗い。

 いくらエルフ族は目がいいとはいっても、この条件下では……

「あっち? 行きましょ」

 しかしリーサは、ルリーの身体をもてあそんでいた先ほどのおっさんみたいな態度とは一変して、ネルの指差す方向へと足を向けた。
 それに続くように、ルリーとネルもついていく。

 エルフ族の"魔眼"は、目がいい以外にも魔力の流れを見ることができる。が、それもルリーたち子供にはまだあまりよくは見えない。しかし、ネルは秀でて目がいいのだ。
 ルリーやリーサには見えない、感じ取れないなにかを見つけたのだとしても、不思議はなかった。

 やがて、三人が足を止める。どこに、倒れている誰かがいるのか……
 それを確認する必要は、なかった。なぜなら、すでに彼女たちの足元に、その人物はいたからだ。

「ホントだ、倒れてる……」

「い、生きてる、よね……?」

 不安がるルリー、彼女を安心させるように頭を撫でつつ、リーサは屈んだ。
 うつ伏せに倒れているため、顔は見えない。しかし、きれいな金髪だ……サラサラだし、女性だろうか?

 そうして、リーサはその人物を仰向けにしようとして……彼女の耳が、目に入った。

「……私たちと、同じ?」

 その耳は、尖っていた。無意識に、リーサは自分の耳に触れていた。
 自分たちと、同じ耳……その特徴に合致する種族は、一つだけだ。だが、自分たちとは違って金髪で、白い肌だ。

 ……その印象を持つ種族の話を、先ほどしたばかりだった。
 この人物は、ダークエルフ……ではない。ダークエルフと、とてもよく似た種族……

「まさか……エルフ?」

 リーサたちにとって、初めて見る自分たち以外の種族、エルフが……ダークエルフの森に足を踏み入れ、倒れていた。
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