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第四章 魔動乱編

153話 ルリーの告白

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「あ、ルリーちゃーん」

「エランさん!」

 放課後になり、私は一人、ルリーちゃんのいる「ラルフ」クラスへと向かった。
 教室内にひょっこりと顔を出して、ルリーちゃんを呼ぶ。窓側の席にいたため、すぐに見つけられた。

 どうせ一度自分の部屋に帰るんだから、わざわざルリーちゃんを迎えに来る必要はないんだけど……なんだか、こういうの一回やってみたかったんだよね。

「じゃ、行こっかルリーちゃん」

「はい」

「あ、エランじゃん。おーい!」

「ぺっ。
 じゃ、行こっかルリーちゃん」

 なんか、私を呼ぶ不審者の声がしたけど、無視だ。
 ルリーちゃんと共に廊下を歩いて、そのまま玄関へ……といきたいところだけど、まずは購買へ。それから下駄箱だ。
 校舎から出れば、向かう先は女子寮だ。

 初めてのお泊まり会。そして秘密の話。いろんな意味で私、ドキドキしている。

「じゃ、準備したらすぐに行くからね」

「はい!」

 一旦、ルリーちゃんと別れた私は自分の部屋へ。
 さて、必要なものを準備しないと……えっと、着替えとあとから……

 こういうのは初めてだから、手探り状態で準備を終え、自分の部屋を出る。ノマちゃんは、まだ帰ってきていなかった。

「ルリーちゃーん、来たよー」

「いらっしゃい、エランくん」

 ルリーちゃんの部屋の前まで行き、扉をノック。扉が開き私を迎えてくれたのは、ナタリアちゃんだ。
 私は「おじゃまします」と声をかけてから、部屋の中へと入る。

 以前来た時も思ったけど、部屋の中綺麗にしてるよねー。それに、部屋の構造は同じなのに、置いてあるものが違うだけでこうも、私の部屋と印象が変わるものなのか。

「いらっしゃい、エランさん」

「今日はお世話になりまーす」

 私は適当に座らせてもらう。荷物も置いてと……購買で買ってきた食事を、机の上に置く。
 今回は、お互いの話が長くなりそうだったので……部屋で、食事をしようという話になり、購買で先に買っておいたのだ。

 さてさて、と。このお泊まり会の目的は、私と、それからルリーちゃんの話のためだ。
 うーん、さっそく本題から話していいものか……と考える。

「はい、どうぞエランくん」

「あ、ありがとー」

 うーんと考えていたところへ、ナタリアちゃんがお茶を持ってきてくれる。ありがたい。
 私はコップを受け取り、それをごくっと飲んでいく。うーん、冷たいお茶が喉を潤していく。

 お茶を飲み干し、私はほっと息をつく。なんか、気持ちが落ち着いた気分だよ。

「えっと……私の話は、多分長くなるとは思うんだけど……」

 まあ、私の話というか、ルリーちゃんに聞きたいこと……だから正確にはルリーちゃんの話である気もするんだけどね。
 ナタリアちゃんはベッドに腰掛け、ルリーちゃんは座布団の上で正座をしている。

 本人としても、真剣な話をするつもりなのだろう。だからって、もう少し姿勢を楽にしてもいいとは、思うんだけど。

「では、私から。
 ……あの、覚えてますよね。ダンジョンで見た"魔死者"」

「え、うん」

 ルリーちゃんが、緊張した面持ちで話し始める……それは、私の予想していないものだった。
 部屋に、ルームメイトのナタリアちゃん以外には私しかいない状況だ。てっきり、エルフについての話をされると思ったんだけど。

 それが、あのダンジョンでの"魔死者"のことなんて。いったいなんの……

「あの、"魔死者"……いえ、事件の犯人。
 私と同じ、ダークエルフかもしれません」

「!」

 話をされるのか……そう思っていたところへ、いきなり横からぶん殴られたような衝撃を受けた。
 あの、ダンジョンの……いや、そもそも"魔死事件"の。その犯人が、自分と同じダークエルフかもしれないと。

 今、ルリーちゃんはフードを取っている。なので、彼女の銀髪と尖った耳は露わになっている。
 膝に置いた手は、若干震えていて……緑色に輝く瞳は、私をしっかりと見つめている。

「あのとき、"魔眼"で見えたのは、死んでいた人の魔力の流れだけ。体内の流れが、めちゃくちゃになっていたこと。
 でも……なんだか、よく、わからないんですけど……感じたんです。この事件には、エルフが……ダークエルフが、関わっているんじゃないかって」

「……」

 その告白は、声が少し震えていた。
 それは、根拠もなにもない……いわば、勘だ。結果的に、この事件の犯人はダークエルフだ。だから正解ではある。

 勘……本能で、感じたものだろう。たとえ見えなくても、自分の同族が、この事件に関わっていると。
 ルリーちゃんが抱えていたのは、これか……この痛ましい事件に、まさか同族が関わっているなんて。それも、証拠もなしにそう感じた。
 それを話してくれる時点で、私をすごく信頼してくれているってのは、わかる。

「いきなり、なに言ってるんだって思います。でも、私……」

「ルリーちゃん」

 なんとか、信じてもらおうと言葉を選んでいるルリーちゃん。その言葉を、私は遮る。
 不安に揺れた瞳からは、涙が流れてしまうんじゃないかというくらい、儚げで。

「私、事件の犯人に会ったんだ」

「……え?」

「本当かい?」

 だから私は、話そうと思った。事件の犯人が、ルリーちゃんのお兄さん……というところまで話していいかは、まだわからないけれど。
 せめて……ルリーちゃんが正直に話してくれたんだ。その答えくらいは、教えてあげないといけない。

「うん。だから、結論から言うよ……
 ダークエルフ、だった。事件を起こしたのは」

「!」

 その瞬間、ルリーちゃんは口を押さえる。驚きの声を我慢しているのか、それとも吐き気を我慢しているのか。
 自分と同族が犯人、というだけで、この反応だ。やっぱり、そのダークエルフの正体までは伏せておいた方がいいのかもしれない。

 少なくとも……

「ルリーちゃん。私からの話……ううん、お願いがあるの」

「……おね、がい?」

「教えてほしいの、ルリーちゃんのこと……ルリーちゃんに、いったいなにがあったのか。
 ダークエルフに、なにがあったのか」

 ダークエルフのことをなにも知らないまま、ただ犯人を述べるのはよくない気がする。
 それに……


『あいつは、オレのことを死んでいる、と思っているからな』


 ルリーちゃんの過去に、なにがあったのか……
 それを知らないと、私はこの事件と、ルランと、ちゃんと向き合えない気がするから。
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