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第四章 魔動乱編

148話 再び事件現場へ

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 理事長に集められた私たちは、解散となった。
 とはいえ、私とお姉さん……レーレアント・ブライデントさんは。この後憲兵さんからいろいろと話を聞かれるらしいから、お暇になるわけじゃないんだけど。
 "魔死事件"を調べるために来る憲兵さん……いわば、事情聴取のようなものだ。

 被害者のお姉さんであるレーレアント・ブライデントさん。そして、わりと早い段階で死体を発見した私。
 私が含まれているってことは、第一発見者の生徒である、被害者の恋人さんも呼ばれている可能性が高い。

「では、申し訳ありませんがお二人共。もう少し、お時間を頂きます」

「もちろんです」

「はい」

 憲兵さんが着いた、という報告を受けて、理事長は先行して部屋を出る。私とレーレアント・ブライデントさんも、それに続く。
 向かう先は、当然事件現場だ。

 ふと隣を歩くレーレアント・ブライデントさんを見ると、さっきまで凛としていたその顔色は……少し、悪くなっているように感じた。

「あの……」

「ん?」

「大丈夫ですか? レーレアント先輩」

 私に話しかけられたのが意外だったのか、レーレアント・ブライデントさんは若干驚いたように目を丸くしていた。
 けれどすぐに、笑みを浮かべる。……まるで、私を安心させるために作ったような、笑顔だった。

「あぁ、すまない、大丈夫だ。
 エラン・フィールドちゃんだったか……私のことは、レーレでいい。気軽に呼んでくれ」

「わかりました、ならレーレさん。
 私も、エランでいいですよ」

 ……ちゃん付けって、凛とした見た目からは想像できないな。なんかちょっと、ギャップ萌え。

 大丈夫……と微笑んでいるのは、私にいらぬ心配をかけないようにしているのだろう。
 ……大丈夫なわけない。弟が、殺されたのだ。そして、これからその現場に向かう。

 どうせなら、憲兵さんのほうから会いに来てくれたらいいのに。気が利かないなぁ。
 なんて思っていると、まるで私の心を読んだかのように理事長が「お二人には申し訳ないですが、現場でしかわからないこともあるので」と話してくれた。

 そんなこんなで、昨日の事件現場へと、たどり着く。そこには、数人の教師と、そして憲兵さんがいた。なんか、あの服どっかで見たことあるな。

「憲兵の皆さん、お疲れ様です。
 魔導学園理事長の、フラジアント・ロメルローランドです」

「! これは、お忙しいところを申し訳ありません。
 私はベネリッタ・タイトンと申します」

 その場の責任者らしき憲兵さんに、理事長は話しかける。お互いの自己紹介が終わったところで、私たちも軽くお辞儀をする。
 ふぅむ、年季の入ったおじさんって感じだ。なんていうか、ダンディ? ……なんか言葉の使い方がおかしな気もする。

 現場は、基本的には昨日と同じだった。もちろん、まったく同じとはいかないけど……
 それでも、できる限り変わらないように保存されていた。……死体を含めて。

 壁に寄りかかるように倒れていた死体には、ブルーシートがかけられていた。その下には、"魔死者"という痛々しい姿になった被害者が眠っている。
 死体は、魔法により冷凍保存されていた。死体が腐らないようにだ。

「そちらが、例の?」

「えぇ。被害者の姉と、被害者の第二発見者です」

 私たちはそれぞれ名を名乗り、各々話を聞かれた。とはいえ、レーレさんの場合は身内として話を聞いただけで、当然事件についての話は……
 私に、集中することになる。

「おそらく、昨日聞かれたのと同じようなことを質問してしまうことになるが……」

「構いません、なんでも聞いてください」

 それからは、質問攻撃だ。死体を発見したきっかけ、当時の状況、死体の状況……そういったことを、できるだけ覚えている範囲で答えてくれと、聞かれたので答えた。
 私は、覚えていることは話した。……ルランのことは、省いて。

 死体を見つけた経緯は、悲鳴を聞いたから。当時の状況に変わったところはなく、死体は全身の穴から血を流した状態であったこと。

「キミは、生徒会活動の一環でダンジョンに行っていたらしいね。
 そこでも、"魔死者"を発見したとか……」

「はい。なので、同じ死因だっていうのは、すぐにわかりました」

 最近話題になっている"魔死事件"。それについては、聞いた話でしかなかった……"魔死者"に関しても、どういうものかこの目で見たことはなかった。
 その日の午前に、まったく同じ死体を見ていたから……私は、"魔死者"だとすぐに判断できたのだ。

 憲兵さんが言うには、最近"魔死事件"は増えている……けれど、一日に二人が犠牲になるのは前例がないらしい。
 今回の件、その日のうちに二人が犠牲になったとは限らない……けど、考えればわかることだ。学園の生徒である被害者は、事件が起こった日はちゃんと居たことを、クラスメイトたちが証言している。
 そしてダンジョンでの被害者は、そもそもダンジョンが出現したのが一昨日だ。その日のうちに……というのは考えにくい。だから、昨日なんらかの方法で殺害されダンジョンに放り込まれた……もしくは逆。

 つまり、一日のうちに二人が、犠牲になったことになる。どうして、そんなことを……

「あれ? キミは……」

 話を終えて、憲兵さんは一旦席を外した。私は、近くのベンチに座って休んでいたところに……声をかけられた。
 誰だろう。声がした方へと、私は顔を向ける。

 ……そこには、一人の男の人がいた。うぅん……なんか、見覚えがあるような……うぅん?
 うーーーん……

「あ、門番のおじさん!」

「はは、久しぶり」

 思い出した! この国に来たとき、国内に入るために門の前で止められたんだ。そのときに私を止めたのが、門番としてそこに立っていたこのおじさんだ!
 うわぁ、懐かしい! そうか、道理で憲兵さんの服に見覚えがあると思ったら、門番のおじさんの服を思い出したからなんだな。

 懐かしい気持ちと、同時に疑問が湧いてくる。

「でもなんで、門番のおじさんがここにいるの? 門番クビになったの?」

「久しぶりの再会でとんでもないこと言うねキミ。
 門番は、業務の一つだよ。本来の仕事は憲兵……その業務の一つに、門番が含まれているんだ」

「なるほど」

 じゃあ、このおじさんはたまたまあの日門番をしてて、たまたま今日ここに来て……そのどちらとも、たまたま私と会ったのか。
 なんか、運命的なものを感じるなぁ。

 それにしても……

「おじさん、私のこと覚えてたんだ?」

 たった一回会っただけ……それも、何時間も話していたわけでもない。その上、門番ってのは日々何人もの人と接する。
 それなのに、私のことを覚えて、声かけてきてくれるなんて。

 もしかして物覚えがすごくいいんだろうか。そう思っていた……

「そりゃ、盗賊を連れた黒髪黒目の子なんて、忘れようにも忘れられないよ」

 ……ただ私が印象的だっただけ、か。
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