上 下
151 / 778
第四章 魔動乱編

147話 信用に値する四人

しおりを挟む


 ここに呼ばれた私たち四人の生徒は、理事長からの信用をもらっている、と認識していいようだ。
 生徒会長であるゴルさんはもちろん、被害者の姉であるお姉さん。彼女が身内を手に掛けるような人物でないのは、この数分で私でもわかる。もしあれが演技なら、そりゃ大したもんだ。
 で、私は"魔死者"を今朝も目撃したから……あれこれ、信用されてるのと関係あるのか? まあいっか。

 で、だ。この場によくわかんないのが、一人。

「あのー……なんでこいつは、ここにいるんです?」

「ようやくエランの興味が向いてくれたと思ったらこいつ呼ばわり!?」

 ヨル……いくら【成績上位者】って言っても、なんでこんなストーカー野郎が理事長のお眼鏡にかかったんだか、まったく理解できない……」

「ちょっ、聞こえてる! 後半から聞こえてるから!」

 と、焦ったヨルの声が聞こえた。あらま、口に出しちゃってたか私。
 ただ、だからといって訂正することはしない。だって事実だし。

 一連の流れを見て、理事長はこほんと咳払いをした。

「エラン・フィールドさん、そしてヨルさん。初めて会ったとき、お二人は信用に値する人物だと、判断したのですよ」

「初めて会ったとき?」

 にっこりと笑いながら言う理事長。初めて会ったのは、魔導学園の合否発表の直後だ。
 そこで、【成績上位者】である私とヨルが呼ばれた。同じ立場のナタリアちゃんが呼ばれなかったのは、曰く知識に偏りがあったためだ。

 うーん、こうやって対面で会ったのはそのときだけだし。それだけで、私たちのことを信用に足ると、判断してくれたのか。
 なぜぇ?

「年の功ってやつ?」

「っ、おいエラン、もう少しオブラートに……」

「ふふ、いいのですよ」

 手を上げて質問した私に、ゴルさんが苦々しい表情を浮かべる。
 けれど、気にしなくていいと言ってくれたのは理事長だ。

 彼女は微笑みを浮かべたまま……

「ある意味、年の功と言ってもいいかもしれないわね。
 私は、どうやら他の人よりも精霊の姿がはっきりと見えるようなのです」

「精霊の姿?」

「そう。
 あなたたち二人には、私がこれまで見てきた中でも特に、精霊に好かれている。精霊が好いているということは、それだけで身の潔白を証明するのに余りあるわ」

 自分が、精霊が他の人よりも見える……それを教えてくれた。
 精霊っていうのは、普通は目に見えないもの。魔力の流れを感じて、集中すればその姿はぼんやりと見えるけど……
 どうやら理事長の場合、それは平常時からのようだ。

 精霊に好かれている……そう太鼓判を押してくれるのは嬉しいな。確か師匠も、そんなこと言ってたっけ。
 またヨルと同じってのが、気に要らないけど。

 実際には、精霊に好かれている人ってのは、私たち以外にもいるとは思う。
 けれど、理事長と以前直接会ったことが、私とヨルが精霊に好かれているって確信を持てたってことか。

「このこと、他の生徒には……」

「できるだけ内密に。しかし、あなた方が真に信頼できる相手になら、協力を求めてもいいでしょう。
 そこは、各判断に任せます」

 理事長はこう言ってるけど、わざわざ四人しか呼ばなかったところを見ると、できるだけ話は大きくしたくはないんだろうな。
 それがわかっているから、私たちもあまり口外するようなことはしない。

 ここにいるのは、狙ったのかはわからないけど三年生、二年生、そして一年生。見事に全学年が揃っている。
 私とヨルは入学したばかりだし、ゴルさんやお姉さんに比べれば、学園にも慣れていないから、観察人数が増えるのはまあわかる。

 ただ、いくら学園に慣れていてもゴルさんやお姉さんが、一人で同学年全員を観察しろ、というのは厳しい話だ。
 もしかしたら、本当に信用できる人には話してもいいと、思っているのかもしれない。

「それから、レーレアント・ブライデントさん。それにエラン・フィールドさん。
 お二人には、このあといらっしゃる憲兵の方から、いろいろ聞かれると思いますが……」

「……捜査の協力のためなら、なんでもします」

「ありがとう」

 お姉さんの答えに便乗するように、私は何度も首を縦に振る。
 このあと来る憲兵というのは、もちろん"魔死事件"のことを調べるために来るのだ。その人たちに、いろいろ聞かれるのか。

 まあ、お姉さんのほうは被害者のお姉さんだし。私も、すぐに死体を発見しているからな。
 ……となると、第一発見者である、被害者の恋人の人も、事情を聞かれるのだろうか。
 かなり弱っていたけど、大丈夫なんだろうか。

「私は、この学園内に犯人がいないと信じています。このようなことになっているのは、大変心苦しい。
 憲兵の方々と協力し、一向も早く犯人を見つけなければ。生徒たちも安心して、学園生活を送れないでしょう」

 その後は、なにか気になることがあればなんでもいいので報告してほしい、といった話があって、私たちは解散となった。
 それぞれが部屋を出ていく中、私は考えていた。

 せめて理事長には、本当のことを言ってもいいのではないだろうか。犯人はこの学園の人物ではなく、ダークエルフであること。
 だって、このままじゃいもしない犯人を探すために、労力を使うことになる。

 そもそも、私がルランの正体……ルリーちゃんの兄だということを黙っていても、どうせ捕まったらバレちゃうかもしれない。だったら……
 いやいや、捕まったらバレちゃう。だったら捕まらなければいいのか? それも違うだろう。これだけの被害を出しておいて……

「私は、どうしたいんだ……」

「? エラン・フィールドさん、どうかし……」

「理事長、憲兵の方がお着きに」

 自分でもなにがしたいのかわからなくなっていたところに、部屋に入ってきた先生が憲兵さん到着を伝える。
 思ったよりも、早かったな……
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。 神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。 追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。 居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。 小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

処理中です...