史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

文字の大きさ
上 下
145 / 828
第四章 魔動乱編

141話 予期せぬ乱入者

しおりを挟む


 ルリーちゃんの、なにを知っているのか……そう聞かれ、私は言葉に詰まってしまったのだ。
 ルリーちゃんと友達でない、という気持ちは微塵もない。私とルリーちゃんは、友達だと、そう思っている……いや、思っていた。


『なにも知らない、なにも聞いてない。
 それでよく、友達だなんて言えたもんだな!』


 ルランの言葉が、私の頭の中で反響している。
 なにも、知らない……だってそれは、その通りだったから。

 ルリーちゃんの家族のことも、過去になにがあったのかも……ルリーちゃんのことは、なにも知らない。
 彼女がダークエルフだと、ただそれだけだ。私だけ……というわけじゃないけど、秘密を知って、知った気になっていた。


『お前があいつの、なにを知ってるんだ?』


「わた、しは……」

 ルリーちゃんの、友達だ……でも、その言葉が言えない。
 友達だという気持ちに偽りはなくても。これが本当に、友達という関係なのか? そう、思ってしまった。

 私にとって、この国に来て……いや、これまでの人生で二番目の友達。それは、間違いないはずなのに……
 ルリーちゃんのことをなにも知らないのに、友達なんて……

「すっかり元気がなくなったな。やはり……」

「相手のことを全部知らないと友達じゃない。
 ……なんてワタシは、傲慢だと思うけどなぁ!」

「!」

 私のものでもルランのものでもない、声が聞こえた。
 校舎裏に響く声は女性のもので、どこから出てきたのだろうと視線を動かす。直後、その声の主が姿を現した。

 ドンッ、と、なにかが落ちてきたのだ。
 そのなにかは、人の形をしていて……なびく銀色の髪は、こんな状況でも目を釘付けにして。腰に手を当て、堂々と立つ女性はニッと笑っていた。

「……リーサ」

「やあやあ、バカルラン。こーんなとこでなにしてるのかな」

 声のトーンが一段と落ちて、ルランは目の前の女性を睨みつけた。リーサと呼ばれた女性は、自分に向けられる敵意を理解しているのかいないのか、ニコニコ笑いながら手を振っていた。

 露出の多い、格好だ。そこから見える褐色の肌。銀髪、緑色の瞳、尖った耳……
 間違いないダークエルフだ。

 しかもこの二人、知り合いみたいだ。

「お前、どうやってここに……」

「探してたんだよー、バカがバカやってるって知ってさ。
 あんた、自分のしてることわかってる? 妹の思いを踏みにじってんだよ」

「お前には、関係ない」

 あらら、なんか浅からぬ因縁がある様子だ……
 というか、ルランはいい加減離してほしいのだけど。

 二人はしばし睨み合いを続けたあと、動きがあった。
 目の前にいたリーサが消えた……かと思ったら、私はバランスを崩す。私を捕まえていたルランが、私を突き放して離れたからだ。

 バランスを崩して倒れそうだったところを、リーサに支えられる。
 少し離れたところに着地したルランの頬は、切れていた。

 もしかして、今の一瞬で、ルランとの距離を詰めて、攻撃したのか? ルランも、それをもろに受けないために離れた。

「大丈夫? ごめんねー、あのバカが」

「え、あ、ううん」

 親しげに話しかけてくるリーサからは、敵意はまるで感じられない。
 私を助けてくれた……ってことで、いいのかな。

 舌を打つルランが、私たちを睨んでいた。

「リーサ、なぜ人間を助ける。そいつらは……」

「わかってるよ、人間が私たちになにをしたか。
 でも、全ての人間がそうじゃない。わかってるでしょ? なのに、誰彼構わず人間を……」

「人間は、オレたちダークエルフを誰彼構わず迫害したのに、オレたちだけ我慢しろっていうのか!?」

 ……話が、見えてこないようで見えてきた気がする。
 ルランが"魔死事件"を起こすのは、魔石による進化が人間にも適用されるかを確かめたいから。……でも、それならあんなに多くの人たちを犠牲にする必要はない。

 あんなにたくさんの人たちを殺したのは……人間に迫害されたという、ダークエルフとしての復讐が目的だったのか?
 そして、その復讐心を我慢できずに……

「少し落ち着きなよ。こんなことしたって、なんにもならない。
 許せなくても、それを憎しみで返したら、それはずっと終わらない……」

「それ以上オレの邪魔をするなら、お前でも容赦はしないぞ」

 落ち着かせようとするリーサの言葉は届かずに。ルランは、聞く耳を持たない。
 リーサの方も、もはや口を開くことはない。これ以上の説得は無駄だと思っているのか。

 ともあれ、ここでルランと戦うことになっても……私は、ルランを止めようとしているリーサに加勢する。助けてもらったしね。
 いくらルランでも、二対一で挑んでは来ないだろう。

 ……私がそう考えているなら、ルランもそう考えているのは必然だった。

「ちっ、やめだやめ。お前とどうこうするつもりはない」

「なら、おとなしく……」

「それも断る」

 その直後、視界が……いや、ルランの姿が歪む。まるでそこにあるのが幻であるかのように、ルランの体が揺れ……薄くなっていく。
 リーサが手を伸ばすが、もう遅い。その手が届いた先には、なにもなかった。

 ルランがいたはずの場所には……なにも、なかった。そこにいたはずの人物が、こつ然と姿を消していた。
 なんらかの魔法で退避したのだろうか。ルランが、ずっと幻だったってのは考えにくいし……瞬間移動とか、そんな感じの。

「……バカ」

 さっきまでルランがいた場所を見つめ、そう呟くリーサの姿は……どこか、寂しそうだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

『伯爵令嬢 爆死する』

三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。 その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。 カクヨムでも公開しています。

辺境伯令嬢は婚約破棄されたようです

くまのこ
ファンタジー
身に覚えのない罪を着せられ、王子から婚約破棄された辺境伯令嬢は…… ※息抜きに書いてみたものです※ ※この作品は「ノベルアッププラス」様、「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています※

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

婚約破棄の場に相手がいなかった件について

三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵令息であるアダルベルトは、とある夜会で婚約者の伯爵令嬢クラウディアとの婚約破棄を宣言する。しかし、その夜会にクラウディアの姿はなかった。 断罪イベントの夜会に婚約者を迎えに来ないというパターンがあるので、では行かなければいいと思って書いたら、人徳あふれるヒロイン(不在)が誕生しました。 カクヨムにも公開しています。

妹が真の聖女だったので、偽りの聖女である私は追放されました。でも、聖女の役目はものすごく退屈だったので、最高に嬉しいです【完結】

小平ニコ
ファンタジー
「お姉様、よくも私から夢を奪ってくれたわね。絶対に許さない」  私の妹――シャノーラはそう言うと、計略を巡らし、私から聖女の座を奪った。……でも、私は最高に良い気分だった。だって私、もともと聖女なんかになりたくなかったから。  退職金を貰い、大喜びで国を出た私は、『真の聖女』として国を守る立場になったシャノーラのことを思った。……あの子、聖女になって、一日の休みもなく国を守るのがどれだけ大変なことか、ちゃんと分かってるのかしら?  案の定、シャノーラはよく理解していなかった。  聖女として役目を果たしていくのが、とてつもなく困難な道であることを……

処理中です...