上 下
139 / 769
第四章 魔動乱編

135話 前代未聞の事態

しおりを挟む


「これはまた、大変というか面倒なことに、なっちゃったねぇ」

「ふむ……」

 ……学園内で起こった、"魔死事件"。その事実に、"魔死まし者"の姿を見つめるタメリア・アルガ先輩。生徒会の会計を担当している。
 そんな彼に、相づちともなんともわからない言葉を返すのは、ゴルドーラ・ラニ・ベルザ生徒会長だ。二人は、凄惨な死体を見下ろしてなにを思うのか。

 あのとき、悲鳴を聞いた私はこの現場に駆け付け、"魔死者"となった男子生徒を発見した。
 その後、野次馬が集まらないために周囲に小規模ながら人払いの結界を張って、人を呼びに行った。そのさい、第一発見者の女の子も一緒に連れて。

 私が頼ったのは、ゴルさんたちだ。というか、彼らもまさに現場に向かおうとしていたところで、そんな彼らと運よく会うことが出来た。
 それから私は、軽く事情を説明し、ゴルさんたちとここに戻ってきたのだ。

「しっかし、人払いの結界まで使えるなんて……
 今年の一年ちゃんってば、優秀だねぇ」

「軽口を叩くな、タメリア。
 ……だが、いい判断であることは間違ってない」

「あはは、どうも」

 今、ここにいるのは私と、ゴルさん、タメリア先輩、それから何人かの先生たちだ。
 他の生徒会メンバーは、この場にいなくてもそれぞれ動いている。たとえば、生徒会副会長のリリアーナ・カロライテッド先輩は、第一発見者の女の子を慰めている。

 第一発見者という女の子には、話を聞きたいところだけど……さすがに、そういうわけにもいかないだろう。人の死体を、しかもあんな形で見たのだ。
 その上……"魔死者"となった男子生徒は、彼女の恋人だったらしい。


『レオ! お願い、止まって……私の、大切な、彼なの……レオォ!!』


 ……あの子をこの場から連れていくときの、悲痛な叫びが忘れられない。
 私は二人を引き離して、よかったのか? 恋人の、こんな死……すがりつきたくなるくらいに、悲しかったはずだ。

 あの子の意思を無視して、私は……

「おい、おいエラン・フィールド」

「ふぁ!?」

 耳元で、名前を呼ばれる。な、なんだよいきなりぃ。
 耳を押さえつつ顔を向けると、結構間近にゴルさんの顔があった。

「な、ななん、なんですか!?」

「さっきから話しかけていたのに、返事がなかったかと思えばその反応はなんだ」

 きわめて冷静なゴルさんは、どこか不服そうだ。
 そ、そうか……考え事をしていたから、気づけなかったのかな。

 そりゃ、私が悪いことをしてしまった。コホン、と咳ばらいを一つ。

「ご、ごめんなさい」

「……キミは最善のことをした。人が集まらないようにして、第一発見者の女生徒をここから遠ざけた」

「え」

 その言葉は、まるで私が考えていたことへの、答えにも思えた。
 なんで……と私が目を丸くしていると、くくっ、と笑いをかみ殺した声が聞こえた。

「エランちゃんってば、わかりやすいんだよ。顔に出てる」

 タメリア先輩の言葉に、思わず私は自分の顔を触る。
 私、そんなにわかりやすい顔してるのかな?

 そんな私に、ゴルさんは言葉を続けた。

「今すべきは、原因の究明だ」

「……はい」

 そうだ、今やることは、自分を責めることじゃない。
 この、不可思議な現象を解かないといけない。

 話には聞いていた"魔死者"、それをまさか、一日に二人も見ることになるとは思わなかった。一度目はダンジョンで、二度目は学園で。
 しかも、その二か所とも簡単に出入りできない場所だ。ダンジョンは、出現したばかりで私たち以前に入った人はいないという話。学園は、外部からの侵入を安々許すセキュリティはしていない。

 ……もっとも後者に関しては、学園内の人間なら、簡単に実行することもできるけど……

「魔獣に続いて、"魔死事件"の犯人か……前代未聞だな」

「しかも、短期間に二件ねぇ」

 侵入が難しい学園への侵入者……というので思い出すのは、魔獣騒ぎだ。あのとき、いるはずのない魔獣が、突然現れた。
 この二つを結び付けるには、ちょっとこじつけだけど……なんとなく、繋がりがあるような気がして、ならない。

 ゴルさんとタメリア先輩の会話からして、学園への侵入者なんて、少なくとも彼らの在学中にはなかったことなんだろう。

「先生たちは、とりあえず生徒たちを帰してるところだ。
 っても、もう放課後だし、ちょうど生徒が散らばってる時間だから、すぐに全員ってわけにはいかないだろうけど」

「悲鳴などの説明については、教員に任せるしかないな」

 この場にいないたくさんの先生も、生徒への対応に追われているらしい。人払いの結界も、今はゴルさんたちが足を踏み入れているから効果は薄れている。
 みんな、この凄惨な現場を見る前に、無事に寮へ帰ってほしい。殺人犯が、潜んでいるかもしれないんだ。

 ……クレアちゃんたち、大丈夫だろうか。

「だいたいわかったぜ、被害者の生徒のこと」

「戻ったか、メメメリ」

 声がした。そちらに顔を向けると、そこにいたのは生徒会書紀のメメメリ・フランバール先輩。
 彼は、手元の資料をゴルさんに渡しつつ、話を続けていく。

「被害者は、レオ・ブライデント。学年は二年、品行方正な生徒だと、教師や生徒から評判だ」

「む……ブライデント?」

「そ、有名貴族の家柄のな」

 資料に目を通しつつ、ゴルさんは眉間にしわを寄せていく。
 私はブライデント家というのは知らないけど、どうやら有名な貴族みたいだ。

 先生や生徒からも評判が高い……か。それは、誰かの恨みも買ってなさそうだけど。
 ……今気づいたけど、被害者の顔を見て泣いている先生もいる。そりゃ、生徒が死んだんだから悲しいのはもちろんだろうけど……それだけ、いい人だったってことか。

「友人や、彼を慕う生徒も多かったとか」

「そのようだな、評判は俺も耳にしている。
 ……そのブライデントが、どうして一人でここへ?」

「そこまでは」

 ……事件についての調査は、ゴルさんたちや先生たちに任せよう。私にできることは、なにもないんだし。
 となると、私がここにいる理由ももう……

「……ん?」

 なんとなく、だ。なんとなく、視線を巡らせた。ただそれだけのこと。
 離れた校舎の、角……その先に、見えた気がした……銀色の、髪が。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

出来損ない王女(5歳)が、問題児部隊の隊長に就任しました

瑠美るみ子
ファンタジー
魔法至上主義のグラスター王国にて。 レクティタは王族にも関わらず魔力が無かったため、実の父である国王から虐げられていた。 そんな中、彼女は国境の王国魔法軍第七特殊部隊の隊長に任命される。 そこは、実力はあるものの、異教徒や平民の魔法使いばかり集まった部隊で、最近巷で有名になっている集団であった。 王国魔法のみが正当な魔法と信じる国王は、国民から英雄視される第七部隊が目障りだった。そのため、褒美としてレクティタを隊長に就任させ、彼女を生贄に部隊を潰そうとした……のだが。 「隊長~勉強頑張っているか~?」 「ひひひ……差し入れのお菓子です」 「あ、クッキー!!」 「この時間にお菓子をあげると夕飯が入らなくなるからやめなさいといつも言っているでしょう! 隊長もこっそり食べない! せめて一枚だけにしないさい!」 第七部隊の面々は、国王の思惑とは反対に、レクティタと交流していきどんどん仲良くなっていく。 そして、レクティタ自身もまた、変人だが魔法使いのエリートである彼らに囲まれて、英才教育を受けていくうちに己の才能を開花していく。 ほのぼのとコメディ七割、戦闘とシリアス三割ぐらいの、第七部隊の日常物語。 *小説家になろう・カクヨム様にても掲載しています。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

処理中です...