130 / 769
第四章 魔動乱編
126話 冒険者と依頼とダンジョンと
しおりを挟む「で、今回の依頼っていうのは?」
そう言えば、私たちは冒険者のみなさんに着いていくばかりで、肝心の依頼内容……今回同行させてもらう、冒険者の依頼されたもの、について聞いてなかったな。
私の質問に、ガルデさんは振り返る。
「ありゃ、事前に聞いてるものだと思ってが」
「初体験ならば危ないことはさせられないだろう、って教えてくれなかったんですよ、あの堅物会長」
今朝のやり取りを、思い出す。ゴルさんめ、実はちょっと楽しんでたんじゃないか?
私の愚痴に、ガルデさんはくくっ、と笑う。
「なるほどな。なに、そう難しいことじゃない。
今回の依頼内容は、魔石採集だ」
指を立てて、得意げに話すガルデさん。ほほう、魔石採集……魔石採集かぁ。
……魔石採集?
授業でやったことあるなぁ。とはいっても、あの魔獣騒ぎの一件で、現在あの森は立ち入り禁止になっているから、魔石採集自体はあの一件以来だ。
「なるほど。
で、たどり着いたのがこの洞窟なわけですか」
「そうだ」
ガルデさんたちに連れられた先にあったのは、小さな洞窟。そこには憲兵さんがいて、ケルさんが中に入る許可を取っている。
以前魔石採集したのは学園裏の森だけど、今回は洞窟か。
それにしても、国内にこんな場所があったなんてなぁ。これまでいろいろ散策してきたけど、まだまだ知らないことばかりだ。
「許可取れたぜ」
「おう。……っと、どうしたそんな顔して」
「いや……この洞窟、どこに繋がってるのかなって」
洞窟って、もっと大きいものしか知らない。師匠と暮らしていたとき、少し家から離れたところにあったり、まああちこちにあった。
けれど、こんな大きなは初めてだ。人一人……いや二人が並んで通れるくらい?
「あぁ、この洞窟は、まあダンジョンの入り口ってやつだな」
「……ダンジョン?」
洞窟を指差し、さも当然のように言うガルデさんに、私は首を傾げるばかり。
その仕草に、ガルデさんは……いや、ケルさんにヒーダさん、それどころかルリ―ちゃんとキリアちゃんも目を丸くしている。
な、なんだいその目は。
「もしかしてだがエランちゃん、ダンジョンを知らないのかい?」
「まあ、聞いたことはある程度です」
師匠に、その存在を聞いたことはある。
けれど、こうして目にするのは初めてだ。
なぜなら……私たちが暮らしていた場所に、ダンジョンなんてものは出現したことがなかったからだ。
「あ、そういえばエランさん、グレイシア様と、人里離れた場所で暮らしていたって」
「あ、なるほど」
ポツリと呟いたルリーちゃんの言葉に、キリアちゃんは納得した様子。
ただ、それでなにを納得したのかわからない。私の頭にはクエスチョンマークが飛び交っている。
そして……ガルデさんたちは、丸くした目をさらに丸くしている。
「ち、ちょっと待ってくれ。グレイシアってあの……グレイシア・フィールドか?」
「うん、私の師匠だよ。知ってるの?」
その瞬間、ガルデさんたちは膝から崩れ落ちた。そういえば、私が師匠に育てられたって話はしたけど、師匠の名前までは言ってなかったっけ。
でも、そんなに大袈裟に驚かなくてもいいのに。
「そ、そうか……」
「マジかよ……あぁ、エラン・フィールドって、名前も……」
「な、なんてこった。そんな、とんでもねえ経歴とは……」
私の質問が聞こえていなかったのだろうか、三人ともかすかに震えている。
ただ、この震えは恐怖や怯え、ってよりも……
「ねえ」
「あ、あぁ、悪い……ちぃと我を忘れてた。
けど、驚いたぜ。なんせ、あのSランク冒険者、グレイシア・フィールドの弟子だってんだからな」
「……んん?」
なになに? Sランク? いきなりなに言っちゃってんの?
その私の反応に、ガルデさんたちはまたも目を丸くする。
「エランちゃん、もしかして冒険者のランク制度も……」
「知らない」
正直に答えると、ガルデさんたちは頭を抱えた。
なにをどこから話せばいいのか……そう、考えているようだった。
いや、実際にそうなのだろう。
「ええとな……エランちゃんの質問もあるだろうが、まず一つ一つ説明させてくれ」
「了解」
「まず、冒険者のランク制度。細かい説明は、まあ今のエランちゃんに説明しても意味ないから省くとして……
冒険者ってのは、ランクに分かれてる。大きく四段階だ。一番下をDとして、それからC、B、そしてAランクへと上がっていくのさ」
今は魔導学園に在籍している私に、必要最小限の知識を教えてくれるガルデさん。
彼は手をグーにして前に突き出し、それぞれ指を立てていく。
D……C……B……そしてA。なるほど、これで四段階。けれど、これじゃあ、Sランクっていうのがない。
そんな私の疑問を感じ取ったのか、ガルデさんは五本目の指を立てる。
「そして、Sランク。こいつは、最高ランクの証だ。けど、この目でそのランクのやつに会ったことはない。
名前だけは有名だけどな。その中でも、グレイシア・フィールドはSランクの中でもトップって話だ」
「俺たち冒険者の憧れなのさ」
「あぁ!」
私にもわかりやすく話してくれる……そして、実際に師匠を慕っているんだなっていうのが、伝わってくる。
なんだか、私まで嬉しいな。
それにしても師匠、魔導学園では首席で卒業し最強の魔導士だって有名で、世界一の魔導具技師で、冒険者としても最高ランクなんて……
やだ、私の師匠、すごすぎっ!?
「ところで、なんでAの上がSなの?」
「さぁなぁ。
聞いた話じゃ、Sランクとか、Sランクとか」
「ネーミングセンス……」
「エランさんみたいですね」
「ルリーちゃん……?」
「ひゃー、ごめんなさい!」
ルリーちゃんの頭をぐりぐりやってやる。もちろん本気で怒っているわけではない。
でも、この名前を考えた人、確かに私と似たセンスの持ち主かもしれない。いい酒が飲めそうだ、飲まないけど。
フード越しに頭をぐりぐりやったので髪は乱れていないが、乱れた着衣を正しながらルリーちゃんはガルデさんを見る。
あ、もちろん、フードが脱げるような力加減ではやってないからね?
「ちなみに、ガルデさんたちは何ランクなんですか?」
「はは、俺たちはBランクだ。グレイシア・フィールドの後じゃ、自慢にもならねえが」
「そんな、充分すごいですよ!」
Sランクが別格だとしても、Bランクなら全体の平均よりも上。充分すごいランクだ。
誇ってもいいと思う。それに、ゴルさんは、彼らのことを手練れだと言っていたなぁ。
ルリーちゃんの励ましに、ガルデさんは照れくさそうに笑う。
「そ、そうか?
ま、だからこそダンジョンでの魔石採集なんて受けることが出来るんだがな」
「そうそう、ダンジョン。ダンジョンについて教えて!」
出てきた単語に、私ははいはいと手を上げる。
師匠のインパクトが強かったけど、まだ聞きたいことはあるのだ。
そこで今度はケルさんが前に出る。
「ガルデにばっか話させるのもなんだし、次は俺の番な。
ダンジョンってのは、その仕組みは実はよくわかってない。だが、ある日突然……出現するのさ」
「出現?」
「そう。今回のこの洞窟が、いい例さ。昨日まで、ここにこんなものはなかった」
……つまりダンジョンってのは、なにもない場所に、突然出現するもの? にわかには信じられないけど……
いや、今朝のゴルさんの話が急だったのも、もしかしたらこのせいかも。突然出現したダンジョンを、早急に調べなければならない。だから……
「そして、ダンジョンが出現するのは、決まって人の多い場所、もしくはその付近だ。
この国の周辺にも、いくつかダンジョンはある」
これもまた原因はわからないけど、人の多い場所に出現する……か。
だから、さっきルリーちゃんとキリアちゃんは納得してたんだね。私と師匠が暮らしていたのは、人里離れた場所だったから。
同時に、私がダンジョンを見たことがない理由でもある。
次にヒーダさんが、口を開く。
「ちなみに、入り口はちっこいが、中はとんでもなく広い……
いや、別の空間に飛ばされているみたいだと言った方がいいか」
「別の空間?」
「こればっかりは、中に入ってみないと、だな」
ふむ、聞けば聞くほど、ダンジョンってのはわからないものだなぁ。
しかし、昨日出現したばかりのダンジョンなんて、危なくないのだろうか。
そんな私を安心させるように……
「どんなダンジョンも、入り口の階層は安全だから大丈夫だ。下に降りれば未知の世界だが……
今回俺たちの仕事は、ダンジョン一階層での魔石採集だ」
ヒーダさんは笑顔で答えてくれる。
それにしても、下に降りるだの一階層だの……ダンジョンってやつは、例えば地下に潜るみたいに何階も広がっている、みたいな言い方だな。
「でも、いいんですか? せっかく出現したばかりのダンジョンなのに、私たちのせいで……」
と、不安そうに言うのはキリアちゃんだ。彼女は、こう言いたいのだろう。
……私たち素人を連れているせいで、満足な動きが出来なくなってしまう。しかも、出現したばかりのダンジョンともなれば、他の冒険者も足を踏み入れていない。未開の地だ。
私は冒険者の仕事には詳しくないけど、少なくとも私たちのお守りがなければ、魔石採集以上のことが出来るはずだ。
「嬢ちゃんたちが気にすることじゃねえや。まあ、確かに嬢ちゃんの言うことも一理はある」
「基本的にダンジョン依頼は、個人ではなくギルドから出されることが多い。魔石採集、ダンジョンのマッピング、モンスター討伐……俺たちだけなら、魔石採集以外もできるかもしれない」
「だけど今回は、魔導学園からの要請でエランちゃんたちを引き受けることを、俺たちが決めた。俺たちの決定だ。お嬢ちゃんの心配は嬉しいが、それこそいらぬ心配ぜ?」
「皆さん……!」
「それに俺たちゃ、一番とかそういうのはあんま気にしないしな」
キリアちゃんの不安を吹っ飛ばすように……いや、文字通り笑い飛ばし、彼女の頭を撫でている。
その手を振り払うことはなく、キリアちゃんは嬉しそうだ。
うんうん、良きかな良きかな。これこそすばらしき人の繋がりだよ。
あたたかな光景を前に、満足にうなずく私。そんな私の隣に立つ、ガルデさんは……
「ところでエランちゃん……敬語は、やめたのかい?」
「あ」
意地悪な笑みを浮かべて、こう言ったのだ。
10
お気に入りに追加
167
あなたにおすすめの小説
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
公爵令嬢はアホ係から卒業する
依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」
婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。
そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。
いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?
何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。
エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。
彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。
*『小説家になろう』でも公開しています。
【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
出来損ない王女(5歳)が、問題児部隊の隊長に就任しました
瑠美るみ子
ファンタジー
魔法至上主義のグラスター王国にて。
レクティタは王族にも関わらず魔力が無かったため、実の父である国王から虐げられていた。
そんな中、彼女は国境の王国魔法軍第七特殊部隊の隊長に任命される。
そこは、実力はあるものの、異教徒や平民の魔法使いばかり集まった部隊で、最近巷で有名になっている集団であった。
王国魔法のみが正当な魔法と信じる国王は、国民から英雄視される第七部隊が目障りだった。そのため、褒美としてレクティタを隊長に就任させ、彼女を生贄に部隊を潰そうとした……のだが。
「隊長~勉強頑張っているか~?」
「ひひひ……差し入れのお菓子です」
「あ、クッキー!!」
「この時間にお菓子をあげると夕飯が入らなくなるからやめなさいといつも言っているでしょう! 隊長もこっそり食べない! せめて一枚だけにしないさい!」
第七部隊の面々は、国王の思惑とは反対に、レクティタと交流していきどんどん仲良くなっていく。
そして、レクティタ自身もまた、変人だが魔法使いのエリートである彼らに囲まれて、英才教育を受けていくうちに己の才能を開花していく。
ほのぼのとコメディ七割、戦闘とシリアス三割ぐらいの、第七部隊の日常物語。
*小説家になろう・カクヨム様にても掲載しています。
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」
リーリエは喜んだ。
「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」
もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる