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第四章 魔動乱編

122話 ボクの命の恩人

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「それで、結局犯人の目星はついているのかい?」

「いんや。そもそも目撃者が被害者しかいないし、被害者は全員死んでるから、まったく手がかりないんだってさー」

 目の前の机に顎を乘せて、私はぶつくさとつぶやく。そんな私の話に付き合ってくれるのが、隣に座って苦笑いを浮かべているナタリアちゃんだ。
 その逆側に座っているルリーちゃんも、笑みを浮かべている。

 ここは、ルリーちゃんとナタリアちゃんの部屋。今私は、二人の部屋にお呼ばれしているわけだ。
 そこで、さっき生徒会で話題に上がった『魔死事件』について話しているわけで。

「ナタリアちゃんたちは、なにか知らない?」

「ボクたちも、知ってる情報は似たりよったりだよ。
 王都を騒がしてる事件だし、むしろ知らない人のほうが珍しいんじゃないかなぁ」

「ですよねー」

 生徒会に所属していなくても、事件のことはほとんどの人が知っている。私やルリーちゃんのように、この国に来たばかりでない限りは。
 そして、これだけの騒ぎとなっているのに、犯人が捕まらないどころか、犯行も続いている。

 ま、前々からいろんな人がこの事件について調べてる。
 事件の詳細を聞いたばかりの私が、いくら頭を悩ませてもわかりっこない。ただ、これまで以上に身辺に気をつけろ、ということだ。

 学園内にいれば安全だと思いたいが、突然現れた魔獣の件もある。それに、休日なんかは外にも出るだろうし。

「それはそうと、話は変わるけどさ」

「なんだい?」

「ルリーちゃん、やっぱり短い髪も似合ってるよぉ、かわいいよぉ」

「え、えへへ、そうですか?」

「本当に話が変わったね。いいけども」

 あんまり暗い話をしていても、場の雰囲気が暗くなってしまうだけだ。なので、話題を変えよう。
 それというのも、ルリーちゃんの髪型についてだ。

 以前……私と会った頃は、腰まで伸びるほどの銀髪だった。それが、今ではショートヘアとなっている。バッサリいったものだ。
 いつからだったか……確か、私とゴルさんの決闘が終わって、しばらくしてからだったか。

 結果として、初対面時のロングヘアよりも、それから髪を切ってからのショートヘアのほうが見慣れてしまった。

「そういえば、髪を切った理由聞いたことなかったけど……」

 当時は、バッサリ髪切ったことにそりゃ驚いたものだ。まあ、普段は髪はフードの中に隠しているから、ほぼショートみたいに見えるんだけどね。
 長い髪だと、みんなから隠すのに不便だろうな、とは思っていたけど。

 私の質問に、ルリーちゃんは照れくさそうに笑って……

「じ、実は……エランさんと、おそろいにしたいなって」

「ほほぅ」

 なんだ、髪を短くしたのは、隠しやすくするため、ではなかったのか。ただ、おそろいなんて言われるとちょっと照れちゃうなぁ。
 ぜひとも、みんなにも見せたいくらいかわいいけど……ルリーちゃんが髪を露わにできる場所は、限られているもんなぁ。

 ダークエルフであるルリーちゃんは、その正体を隠している。正体を知っているのは私と、"魔眼"っていうのを持っているナタリアちゃんだけだ。
 なので、正体を知っている私たちの前……部屋の中でなら、フードを取って自由に髪をさらしている。
 まあ正確には、隠さなきゃいけないのは耳なんだけど。銀髪って特徴だけなら、珍しくはない。

 普段、ダークエルフであることを隠すために、ルリーちゃんは気を張っている。彼女の被っているフードは、その人の認識をずらす魔導具であるため、フードが脱げたりしない限りは正体がバレることはない。
 けれど、油断は禁物だ。だから、こうやってルリーちゃんの気が緩む瞬間では、思う存分羽根を伸ばしてもらいたい。

「はぁー、こんなきれいな髪なのに、みんなに見せられないなんて」

「わ、私は……エランさんさえ、知っててくれれば……」

「おやぁ? ボクはいいってのかい?」

「な、ナタリアさんももちろん!」

 ……最初のうちは不安だったけど、ルリーちゃんとナタリアちゃんはこんなに仲良しになったみたいで、よかったよ。
 なにせ、ルリーちゃんの正体、ダークエルフの扱いはこの世界ではとても敏感だ。私はなんとも思わないけど、正体を知った人がどう思うかはわからない。
 だからこそ、私はルリーちゃんと同室になりたかったんだけど……

 結果として、その人に流れる魔力の気配を見ることができる、という"魔眼"を持ったナタリアちゃんと同室になったのは、助かったといえる。
 ナタリアちゃんも、ダークエルフに関して悪く思っているわけじゃないし、誰かに言いふらすこともしていないから。

 ……"魔眼"かぁ。

「そういえば、ナタリアちゃんのその"魔眼"って……まるで、エルフみたいだよね」

 普段は、きれいな深い青色の瞳なのだけど……彼女が"魔眼"だと説明してくれた右目は、緑色へと変色した。つまり、両目ではなく右目だけが"魔眼"なのだろう。
 そして、そのきれいな緑色は……エルフのそれとそっくりだ。

 私の言葉に、ナタリアちゃんはキョトンとした表情を浮かべて。

「あぁ、そういえば話したことは、なかったかな」

 と、右目を手のひらで覆うようにして、軽く笑みを浮かべた。
 どうやら、ルリーちゃんは聞いたことがあるようだ。ま、同じ部屋にひと月以上暮らしていれば、そういう話にもなるか。

 ダークエルフだとバレた時点で、"魔眼"の話にはなるだろうし……そうなれば、その目の話に話題は切り替わる。
 私が小さくうなずくと、ナタリアちゃんは小さく深呼吸をして。

「エランくんになら、話しても問題はないかな。
 これは正真正銘、エルフの瞳だよ」

 自分の右目まがんについての謎を……ゆっくりと、語り始める。

「この"魔眼"は、その身をしてボクを助けてくれた、ボクの命の恩人……そのエルフの、形見なんだ」
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