118 / 769
第三章 王族決闘編
115話 訪れる決着の時
しおりを挟むドォオオオ……!
…………激しい音を立てて、会場全体が震えているような錯覚が起こる。実際に揺れているのか、それともそう感じているだけか。
放たれた四つの攻撃は衝突し、大きな爆発を起こした。どちらの攻撃が勝ったのかわからない。
私か、ゴルドーラか……三つの魔術と、魔術に相当するサラマンドラの炎は、その優劣が決まり切る前に爆発してしまった。お互いに互角で、相殺したということだろうか。
周囲は爆煙に包まれ、少しの前すらも見えない状況。そんな中で、私は……
「……」
「っ……」
手に持った杖を、正面へと……眼前にいるゴルドーラの喉元へと、突きつけていた。誰かが息を呑む音が、聞こえた気がした。誰かっていっても、ゴルドーラしかいないけど。
じっと正面を見つめ、煙が晴れた先に……ゴルドーラの顔が、あった。
魔術を撃った私は、前も見えない中でなんとか進み、ゴルドーラの眼前へとたどり着いた。そしてゴルドーラが動くよりも先に、杖を突きつけた。
私からはゴルドーラしか、ゴルドーラからは私しか見えない状況……周囲の爆煙は、風に流されてもすべてがかき消えるまで、多少の時間がかかるだろう。
決闘の決着は、相手を戦闘不能にするか、審判が判断するか。この状況では、審判である先生はまだ見えないだろう。
なら、煙が晴れる前に……いやゴルドーラがなにかする前に、魔法を撃って、ゴルドーラを倒す。決着をつけるべきだ。なんかさっきより目がチカチカするし、頭もぼんやりとしてるし、身体中痛いけど……
あと、少しなんだから。
「……まさか、ここまでとはな」
ポツリと、ゴルドーラの声が聞こえた。ふふん、どんなもんだい。これが、私、エラン・フィールドの実力さ。
ゴルドーラは下級魔導士相当の実力者。いつか師匠を超えるためには、こんなところでつまずいてはいられない。
この、勝負……
「へへ……わた、しの…………勝ち、だ……ね……」
……あれ、おかしいな。魔法が……使えないや。魔法が出ない……いや、魔導のイメージが、湧いてこない。
イメージができないと、魔導を具現化できないのに。イメージするには、頭の中、整理して……しゅ、ちゅ、しない、と……
おっ、か、しいな……なんか、からだが……ふら、ふらして……しかいが……ゆれ、て…………?
「……?」
……あ、れ……なんで、わたし…………けしきが、へん、だ……なんで、ゴルドーラの、あしが、見えているんだろう…………あぁ、いま、たおれ、てるの……か?
なんか、ほおが、つめた、い……し、かたい…………じめんに、よこ、たわって……るのか?
だめだよ、わたし、もう、ちょ、っとで…………あぁ、なんだ、っけ……なんか、やらな、きゃいけない、こと……が……あれ?
……それに、なんだ、か……ねむ、い……な……
「けっ…………うしゃ! ゴル…………ラ…………ニ・ベ……ザ!」
みみに、きこえ、た……あんまり、きこえ、なかったけ、ど…………それをさいごに、して……
わた、しの、いしき……は…………とだえた。
――――――――――
…………激しい音を立てて、会場全体が震えているような錯覚が起こる。実際に揺れているのか、それともそう感じているだけか。
放たれた四つの攻撃は衝突し、大きな爆発を起こした。どちらの攻撃が勝ったのかわからない。
さすがというべきだろう。攻撃の衝突により発生した爆発は、実際に会場を揺らしていた。結界がなければ、観客も残らず巻き込まれていただろう。
それほどまでに大規模な魔術の衝突は、生徒はもちろん、長年学園に勤めている教師でも見ることのできる機会は少ない。
爆発、そして爆煙により観客は……そして審判も、視界の情報を遮断された。そして、それは魔術を放った本人たちも同じ。
エラン・フィールド、そしてゴルドーラ・ラニ・ベルザ。両者の視界には、ただ煙のみが映った。
使い魔であるサラマンドラが残っていれば、あるいはゴルドーラは自由に移動できたかもしれない。使い魔の目は特殊だ。とりわけゴルドーラの使役する使い魔なら、この程度の煙は妨害にもならない。
だが、サラマンドラは力を使い果たしてしまったために、すでにその姿はここにはない。
無論、使い魔に頼るつもりはない。警戒は充分。それに、先ほども規模は違うとはいえ、魔術の衝突に突っ込んだのだ。あと一歩で、エラン・フィールドには逃げられてしまったが。
今回も、同じことをすればいい。この規模の爆発だ、突っ込めば先ほどとは違ってただでは済まないだろう。だが、それはエラン・フィールドも同じ。そう思っているからこそ、虚を突く。
そう考えたゴルドーラは、爆煙の中に潜むエラン・フィールドを探すために突っ込むことを決意する。分身が消えているか、それともまだ残っているかはわからないが……
とにかく、見つけてとどめを刺す。まだ正常に働く頭で、考え、結論を出した。
……考えて、しまった。
「っ……!?」
その、考えるほんの数秒の時間……それが命取りとなることを、ゴルドーラは突きつけられた杖を見つめることで、思い知らされた。
いつの間にか、喉元には杖が突きつけられている。誰の……とは、考えるまでもない。
そこにいたのは、未だ姿は見えずとも、決まっている……エラン・フィールドだ。
ゴルドーラが、爆煙の中に突っ込みエランの虚を突く……その、数秒を考える時間。その間にすでに、エラン・フィールドは爆煙の中へと突っ込んでいたのだ。
まさか、先ほどの自分と同じことを、彼女がするとは……それも、規模の段違いな爆煙を相手に。
撃った魔術は、サラマンドラの炎は……相殺した。火属性の衝突、そこに水属性の魔術も加わったことで、蒸発した水分がいっそう深い煙を生み出した。先ほどとは比べるまでもなく、濃く、そして熱い。
その中を、この娘は……
「……まさか、ここまでとはな」
素直に、称賛に値する。なにも、この行動だけではない……決闘が始まってからの、全てに対してだ。
魔法の使い方や多彩さ、魔術の威力、初めて使用するであろう魔導具の使い方。……対人戦の経験値はないと言った。しかし、彼女はこの戦いの中でも、成長していた。
まだ荒いが、類稀な戦闘のセンス。発想の応用。そしてさらに経験値を積めば……彼女は、よりいっそうに化ける。
不思議と、悔しさはなかった。王族であること、勝ち続けなければならないこと……それはゴルドーラにとって、重みだった。この決闘では、久しぶりにそれを忘れた。
この小さな女の子に、夢中になってしまった。まったく、王族が聞いて呆れる。
だがまあ、こんな結末も……悪くはないのかもしれない。どこか、そんな清々しい気分で、目の前の相手を見つめる。
……煙が晴れ、ついに露わになったエラン・フィールドの顔。それは、どこか誇らしげに笑っていて……
「…………な……?」
エラン・フィールドが視界から消えた……ふと、ゴルドーラは視線を動かす。
そこには、地面に倒れた、彼女の姿があった。
その直後……視界を覆っていた煙が、晴れていく。会場全体を包み込んでいた煙が、晴れていく。
視界がクリアになった周囲の目に映ったのは……立っているゴルドーラと、倒れているエラン・フィールドだった。
「決闘の勝者! ゴルドーラ・ラニ・ベルザ!」
「おぉおおおお!」
決闘終了の合図がなされ……瞬間、会場は沸き立った。先ほどとはまた別の意味で、会場を揺らすほどの歓声が、響き渡った。
誰が見ても、思うだろう……そして、現実に勝敗は決した。勝者が、ゴルドーラとして。
そのゴルドーラは、果たしてなにを思うのか。少なくとも、勝利を与えられた現状を、手放しで喜べはしない。
……俺は、負けていた……
倒れているエラン・フィールドを見て、ゴルドーラは己の敗北を認めた。エラン・フィールドは力尽き、倒れた……しかし、煙が晴れるのがもう少し早かったら……
いや、そんな次元の話ではない。魔導を使う者として……そして、心の問題で。ゴルドーラは負けを認めたのだ。
最後、彼女はボロボロの状態で分身魔法を使い、その上で二重に魔術を唱えてみせた。果たして、自分に同じ真似ができるだろうか?
まして、同じ条件で。彼女にとっておそらく、初の試みだったはずだ……あの状況下で、あのボロボロの状態で、あのようなことを思いつき、実行に移すなど。果たして自分に、同じ真似ができるだろうか?
それに、勝敗を分けた最後の場面。
彼女は、なにも考えることができないほどに衰弱したからこそ、躊躇なく爆煙の中に突っ込んだ。対して、ゴルドーラはまだ正常であったからこそ、考えた。
その時間の差こそが、この結果を生むことになったというわけだ。
必ず、勝つと……そう思っていたからこそ、気持ちが体を動かした。その心は、とても強く……気高い。それほどまでの覚悟が、果たして自分にはあっただろうか。忘れていた、そんな熱い気持ち。
この小さな少女は、自分なんかよりもよほどに……
ゴルドーラは、周囲の歓声を浴びる中で……自分に挑んできた小さな少女へ、確かな敬意と、忘れていたことを思い出させてくれた感謝とを、感じていた。
10
お気に入りに追加
167
あなたにおすすめの小説
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
公爵令嬢はアホ係から卒業する
依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」
婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。
そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。
いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?
何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。
エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。
彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。
*『小説家になろう』でも公開しています。
出来損ない王女(5歳)が、問題児部隊の隊長に就任しました
瑠美るみ子
ファンタジー
魔法至上主義のグラスター王国にて。
レクティタは王族にも関わらず魔力が無かったため、実の父である国王から虐げられていた。
そんな中、彼女は国境の王国魔法軍第七特殊部隊の隊長に任命される。
そこは、実力はあるものの、異教徒や平民の魔法使いばかり集まった部隊で、最近巷で有名になっている集団であった。
王国魔法のみが正当な魔法と信じる国王は、国民から英雄視される第七部隊が目障りだった。そのため、褒美としてレクティタを隊長に就任させ、彼女を生贄に部隊を潰そうとした……のだが。
「隊長~勉強頑張っているか~?」
「ひひひ……差し入れのお菓子です」
「あ、クッキー!!」
「この時間にお菓子をあげると夕飯が入らなくなるからやめなさいといつも言っているでしょう! 隊長もこっそり食べない! せめて一枚だけにしないさい!」
第七部隊の面々は、国王の思惑とは反対に、レクティタと交流していきどんどん仲良くなっていく。
そして、レクティタ自身もまた、変人だが魔法使いのエリートである彼らに囲まれて、英才教育を受けていくうちに己の才能を開花していく。
ほのぼのとコメディ七割、戦闘とシリアス三割ぐらいの、第七部隊の日常物語。
*小説家になろう・カクヨム様にても掲載しています。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる