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第三章 王族決闘編

106話 分身とゴーレム

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『おりゃ! どうだ、分身魔法!』

『わ、すごい! エフィーちゃんがいっぱい……』

『これなら、ゴーレムにもきっちりと対応できると思うんだよね。
 どうかな?』

『確かに、これならゴーレムの利点を潰せるもんね……いやでも、ホントにすごいねこれ。
 何人くらいまで、分身できるの?』

『うーん……わかんないや。まあ、できる限りやってみるってことで!』

『そっか~。
 ……ねぇ、一人くらい貰っちゃだめ?』

『ダメです』


 ……コロニアちゃんとの訓練中。ゴーレムに対する手段として編み出したのが、この分身魔法。
 これならば、ゴーレムの利点を潰しつつ、対応することができる。

 ゴーレムの利点は、ズバリ不死の身体と数にある。不死に関しては、核を潰すことができれば倒せるので、絶対そうとは言えないけど。
 相手の人数によって、ゴーレムの優位性は大きく変わる。相手が多なら巨大なゴーレムをぶつける。相手が一なら複数のゴーレムで囲む。
 前者はコーロラン、後者はゴルドーラがやっている戦法だ。

 ただ、こうして分けるのではなく、巨大なゴーレムを複数生み出す……これができれば一番だろうけど、これはとても難しい。巨大な一を作るか、小さい多を作るか……この二択に絞られる。
 現に、ゴルドーラは後者を選んでいる。つまり、下級魔導士相当でも、巨大ゴーレムを複数生み出すのは難しいってことだ。

「さて、と……」

 単に対して多で囲む……ゴーレムでなくても、戦いの定石だ。それを、分身魔法でひっくり返す。
 ゴーレムは強力な魔術だけど、この大きさなら魔術でなく魔法だけで対応できる。

 ゴーレムの数と同じ、十人で挑む。ちなみに、向こうはゴルドーラを含めたら十一人になる……なんで私も十一人にならなかったかというと……
 単純に、十一分の一の力で、ゴルドーラとタイマンを張れるとうぬぼれてはいないからだ。

「せいや!」

 ということで、ゴーレム倒し開始! 火で、風で、水で。あらゆる魔法を使って、ゴーレムへ魔法を叩きつけていく。
 ただ攻撃を当てただけでは、すぐに身体は再生してしまう。まずは表面を剥がし、核がどこにあるか確認。それを、叩く!

 数の差をひっくり返し、ゴーレムを倒していく……ただ、それをゴルドーラが黙って見ているわけもなくて。

「魔力の全身強化、複合魔術、浮遊魔法と魔術の同時発動、魔導具、そして分身魔法……実に多芸だ。それも、この数の分身、さすがに驚いた。予想以上に楽しませてくれる。
 だが、見込みも甘い。ゴーレムの上限が十だと、俺が言ったか?」

「!」

 ゴルドーラが再び詠唱を開始し、杖を振るう。すると、新たに十ものゴーレムが、瞬時に生み出される。
 まだゴーレム作れたのか……そりゃ、十で打ち止めだ、とは言ってないし思ってもなかったけど、こんなあっさりと増えるなんて。

 まずいな……さすがにこれ以上分身を増やして、個々の力が現象するのは避けたいし。
 それに、だ。

「うぉあっと!?」

 視界、感情など、分身体が見たり感じたものは他の全ての私に共有される。つまり、今私は十の景色を同時に見て、十の感情を感じている。
 今の私には、分身魔法で出せる数は十が限界だ……!

 ゴーレムが倍になったことで、単純に二体一となれば、それだけでも戦況は変わる。おまけに、ゴルドーラも控えているわけで……

「うぅ、ごちゃごちゃしてきた……」

 最初の計画としては、分身した状態でゴーレムをダーッと倒して、分身魔法を解除するつもりだった。それなら、共有の影響もあんまりないしね。
 だけど、ゴーレムが増え苦戦……時間が経てば経つほど、共有する視界や感情がいっぺんに流れ込んでくる。

 これ、酔う……!

「どうした、動きが鈍くなってきたぞ!」

 くっそぉ、調子に乗って十も分身するんじゃなかった……このままじゃ、倒れちゃう。
 なんとかゴーレムは倒せているけど、増えた分も含めると今残っているのは十五体か……!

 仕方ない!

「分身解除!」

 私はその場から飛び上がり、同時に分身を解除する。
 魔力強化で脚を強化していたので、おかげで高く高く飛び上がれる。また増やされる前に、一気に叩いてやる。

 イメージするのは、火……それも、ただの火じゃない。激しく燃え盛る火、まるで……そう、稲妻のように激しく、周囲を焼き尽くす火。

「ファイヤボルト!」

 バチバチと弾ける火をイメージ……上空から地面へと杖を向け、先端から魔法が放たれる。火属性の魔術ほどではないけど、業火となったそれが地面へと降り注ぐ。
 ただの火ならばここまで燃え広がらない。まるで、火の波だ。ダルマスがやったやつに似ている。

 そのまま、業火はゴーレムを呑み込んで……

「火か……俺に、火で勝負を挑むとはな!」

 不敵に笑うゴルドーラが、杖を振るう。すると、彼の背後に巨大な影が出現……なんだ今の。地面から、出てきた?
 そして、地面から出てきた影は、なにかを吐き出す。なにかとは……火だ。火というよりは、炎か。

 炎を、吐き出したのだ。

「!?」

 吐き出した炎は、私の業火と衝突し……爆音を立てて、爆炎を散らしつつ相殺した。
 ……いや。

「破られた……っ、くぅ!」

 爆炎の中から、私の業火を突き破ってきた炎が私を包み込もうとする。私はとっさに、魔力壁で身を守り、もろに炎に呑まれることは避けるけど……

「あつっ……!」

 炎によるダメージは防げても、炎による熱までは無力化できないらしい。
 火で熱せられた、お鍋の中の具材はこんな気持ちなんだろうか。ちょっと申し訳ない気持ちになってしまう。

 このまま丸焼きになるのはごめんだ。魔法で風を起こし、炎の中から脱出する。
 なんとか地面に着地。すぐに、ゴルドーラに視線を向けると……

 ……それと、目があった。

「……とか、げ……?」

 それを見た瞬間、なんの動物かと問われれば間違いなく、とかげと答えるだろう。おそらく。
 おそらくと言うのも……それは、とかげと言うにはあまりに巨大だからだ。

 真っ赤な皮膚……それはまるで、炎の鱗と言ってもいい。四足歩行の巨体は、とかげなんて大きさではない。とかげなら、手のひらに乗せられる程度だろう。
 だが、こいつは……大きい。手のひらに乗せられるなんてかわいいもんじゃない。人一人丸呑みできるだろう。

 グルルル……と喉の奥から唸り声がして、皮膚と同じ真っ赤な瞳が、私を睨みつけている。

「とかげとは、我が使い魔、サラマンドラに対して無礼な言いようだな」

「使い魔……」

 ゴルドーラの話すその単語には、聞き覚えがある。確か、コロニアちゃんとの訓練中に、ゴルドーラは使い魔も使ってくるだろうって話になった。
 結局、その使い魔がなんなのか、聞くタイミングを逃したけど……

 まさか、こんなのなんて。私の知ってる使い魔とほ違う。大きくて怖い。

「決闘には、互いの力の全てを持って当たるべし……貴様も理解しているはずだな。
 使い魔召喚、貴様らはまだ習ってはいない項目だ……だが、これも俺の力の一端。よもや卑怯とは言うまいな」

 ……使い魔召喚か。私はまだできない。だけど、これも個人の実力のうち。個人の全力に使い魔召喚も含まれているのなら、これを卑怯なんて呼べないだろう。そこを指摘してくるなんて、律儀というかなんというか。
 ゴルドーラの口振り的に、使い魔召喚ってのは授業で習うみたいだ。それを、習っていない生徒相手に出したのだ。

 私がこの程度で、卑怯だなんだと言うとでも思っているのだろうか。
 それに、これは私から挑んだ決闘。その点でも、私が卑怯なんて言う資格もないのだ。

「えぇ、もちろん。
 むしろ、決闘に負けた先輩に「あのとき本気出してなかったから負けた」なんて言い訳されなくて済みますからね。どんどん全力出しちゃってください」

「……言ってくれる」

 あらら、そのつもりなかったけど煽る形になっちゃった。
 ま、本心ではあるんだけど。

 それにしても……複数残ったままのゴーレムと、使い魔サラマンドラか……
 手強いな。
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