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第三章 王族決闘編

105話 訓練の成果を見せるとき

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 現れたゴーレムは、ざっと十体。それらが、一斉に私を襲いにかかる。
 しかも、さっきから光の弾は放たれ続けて、私を休ませようともしてくれない。

 光の弾に関しては、ゴルドーラの魔力を使った魔法だから『魔力剣マナブレード』で吸収し、打ち消せる。ただし、吸収できる魔力量には限界があるので、頼り続けるわけにもいかない。
 ゴーレムは、物理的な力なのでそもそも『魔力剣』の効果は発揮しない。大気中の魔力を使った魔術は、どのみち吸収はできないんだけどね。

 数の差と、的確に私の取るべき手段を潰しに来る……
 ……面白い!

「ちょっと出力、上げていくよ!」

 私は、手に持つ『魔力剣』へと力を込める。これは、魔力を吸収する……つまり、自分の魔力でも吸収されちゃうということだ。
 持ち主の魔力を吸収し続ける……これも、ピアさんがこれを失敗作と評した理由の一つだ。

 現に、さっきから魔力を吸われている感覚がある。なにを吸収し吸収しないか、そのオンオフはできない。
 できるのは、魔力を吸収するかしないか……そのスイッチを切り替えることだ。

 私は敢えて、自分から垂れ流す魔力を多く放出して……
 『魔力剣』のエネルギーへと、変える。

「! 魔力が……」

 驚くゴルドーラの視線の先は、私の手元……『魔力剣』の、刀身だ。吸収した魔力量に応じて、青白い光は大きく、太くなっている。
 ゴルドーラの光の弾を吸収したり、逆に魔力を放出することで……どの程度の魔力量なら、耐えられるのか。ある程度わかった。

 このくらいなら……!

「せぇえええい!」

 まずは、複数放たれる光の弾へ向けて、『魔力剣』を振るう。放出される魔力は、光の弾を上回り、打ち消していく。
 たった一振りで、光の弾は消えて……

「次は……!」

 次に狙うのは、ゴーレムだ。ゴーレムは、魔術により生み出されたものではあるけど、ある程度の自立機能がある。なので、ゴルドーラの命令を受けて、私を狙ってくるし、反撃されればそれなりの対処はするだろう。
 だけど……この、強力な魔力で押しつぶされて、無事でいられるかな!?

 巨大な刀身ではあるけど、それは魔力が目に見える形で表現されたものだから、どれだけ大きくても重くはない。決して、私が怪力なわけではない。
 まず、自分に一番迫っているゴーレムへと、『魔力剣』を振るい……

「なっ……にぃ!?」

 ガンッ……と鈍い音と共に、予想もしていなかった光景が広がる。
 振り下ろした『魔力剣』、その刀身が……止められていた。それも、素手で……ゴーレムの場合素手って言っていいのかわからないけど……両手の平を合わせるようにして、刀身を受け止めていた。

 マジか……剣を受け止めるなんて、そんな器用なことできるの? ていうか、これ受け止められるんだ……
 ゴーレムは、なんだかんだ魔力で動いているから、実体がなくても魔力は受け止められるとか?

「わっ、とと!」

 驚いている暇はない。動きを止められた私に別のゴーレムが迫り、拳を振りかぶる。それを見て、逆の手に持つ杖を向ける。
 先端から突風を起こし、それをビームのようにゴーレムにぶつける。この大きさなら、これくらいの魔法でも吹き飛ばせる。

 それから、『魔力剣』を受け止めているゴーレムを強引に蹴り飛ばし、距離を取る。

「遠距離からなら、どうだ!」

 ゴーレムを一体一体相手にするより、まとめて吹き飛ばしたほうが早い。そう考えた私は、『魔力剣』を振りかぶり……横薙ぎに、振るう。
 膨大な魔力は斬撃となって、ゴーレムへと飛んでいく。これで、まとめて倒すことができるはずだ!

 けれど、飛ぶ斬撃はゴーレムに到達するために、消える。いや、消される。
 なにかをぶつけられ、激しい音を立て消滅……なにかと、相殺したのだ。

「俺が、手出しをしないとでも?」

「ですよね……」

 私の攻撃を防いだのは当然、ゴルドーラ。魔力を吸収される『魔力剣』だけど、その攻撃を防ぐことに対しては思い切り力を振るえばいい。
 ゴルドーラはゴーレムを召喚した……だからといって、本人はそれからなにもしない、なんてことはないのだ。これが、ゴーレムを使う者の利点……普通の魔術は撃てばそれまでだけど、ゴーレムは自立し行動する。

 ゴーレムに守られ、ゴーレムを守り……それを繰り返すことで、単純に数の有利を勝ち取ることができる。

「あの大きさなら、魔術を使わなくても倒せる……けど、魔法だと威力不足でゴルドーラに防がれる、か」

 今、膨大な魔力を込めていた『魔力剣』を防がれたことを見ても、それは明らかだ。かといって、あれだけの数のゴーレムを吹き飛ばそうと、派手な魔術を使えば……
 魔術を使おうとする隙を、確実に狙われる、か。それに、せっかく倒しても新しくゴーレムを作られないとも限らない。

 単純だけど手強い……だけど……

「これも、予測済みだよ」

 なんのために、コロニアちゃんと訓練をしてきたと思っているんだ。こういう事態も、当然予測している!
 私は、『魔力剣』のスイッチを切り、収納魔法で空間に仕舞う。

 突然、武器を手放したことを不思議がっているだろう……ふふん、見るがいい。これが、コロニアちゃんとの複数ゴーレム訓練で編み出した、ゴーレム対策!

「分身魔法!」

 私は、私がもう一人……さらにもう一人、と増えていくイメージを膨らませていく。空に杖を掲げ、振るうと……私の姿が、ぶれていき……
 一人、二人、三人……と、エラン・フィールドが増えていく。

 その数……ゴーレムの数と同じ、十人!

「分身……! ほぉ……!」

 なんだろう、ちょっとゴルドーラの瞳が輝いているような……なんか、「ますます欲しくなった」みたいなことを言ってそうだ。
 そういえば、初めて分身魔法をお披露目したとき、コロニアちゃんも驚いていたっけなぁ。

 ……ともかく。

「これなら、一体のゴーレムに一人で対応できる!」

 いっぺんに吹き飛ばすことが難しいなら、こうして一体を相手に一人で対処すればいい。これなら、注意するのはゴルドーラとたくさんのゴーレムではなく、ゴルドーラと目の前のゴーレム、で済む。
 とはいえ、この分身魔法。分身が増えれば増えるほど、一人の力もまた低下する。単純に、今の私の力は本来の十分の一だ。

 それでも……このゴーレム相手なら、問題はない!
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