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第三章 王族決闘編
102話 しまっておいた"それ"
しおりを挟む「くぅう……!」
振り落とされた、拳……それを、両手でなんとか受け止める。けど……正直、分が悪い。
体格の違いが元よりあるのに、魔力で全身を強化している。そのため、繰り出される拳の威力も凄まじい。魔力強化しているのは、こっちも同じなんだけど……
ちなみに、制御面において魔導を放つには杖が必須だ。けれど、身体強化の魔法だけは杖なしで使える。
自分の体内の魔力を、自分の身体に付与する形で操作する魔法なので、これだけは杖いらずでも問題はない。なので、私は杖を収め、両手を使うことができている。
……それはつまり、相手も同じ条件だということで。
「ふぅ!」
押さえている拳とは逆の拳が、飛んでくる。両手が塞がっている私に、それを防ぐ術はない。
だったら……!
「っ、くはっ……!」
腹部に、拳がめり込む。繰り出された拳は、なにに防がれるでもなく私のお腹へと直撃した。ただし、直前に後ろに飛ぶことで、打ち込まれる拳の衝撃を減らしたのだ。
それプラス、全身強化の魔力が少なからずダメージを抑えてくれる。相手も魔力で強化されている拳を打ち込んだから、あんまりダメージ減少できてない気もするけど。
少し、ジンジンする。でも……
「次は、こっちが!」
後ろに飛んでいる途中に杖を取り出し、着地と同時に構える。繰り出すのは、風の刃。以前、魔獣に対して先生が繰り出したものと、同じタイプだ。
風……つまりは見えない刃を、四方八方からゴルドーラへと放つ。
全身強化していても、当たれば多少のダメージはあるはずだ。
「ふん、下らん」
しかし、ゴルドーラは杖の一振りだけで、迫りくる風の刃を吹き飛ばしてしまう。
それだけではない。さらなる一振りで、風を操り強烈な風圧が、私に直撃した。
風の圧力とはいえ、ダメージはない。けど、これじゃあ目も開けられないくらいに……!
「目をそらしていいのか?」
「!」
ふと、耳元で声が聞こえた。背後から、囁かれている感覚。
私はそれを、誰が確認するより先に、振り向きざまに杖を振るう。放った火の槍は、しかしなにもないところを掠めていった。
誰も、いない……いや!
「上か!」
上空を仰ぐと、そこには飛び上がっているゴルドーラの姿。
さっきの風に乗って、私が目を閉じた一瞬の間に背後に移動……そしてまた、一瞬の間に上空に飛び上がった、ってことか。
私をおちょくってるのか、それとも……
「はぁあ!」
「ぬぅ!」
落下とともに振り下ろされたのは拳……ではなくて、杖。それも、杖を魔力で強化し、まるで剣のように破壊力を持ったものだ。
それを私は、同じく魔力強化した杖で受け止める。
風が、ぶわっと散る。私は今度はゴルドーラを押し返し、弾き飛ばす。後ろへと飛ばされたゴルドーラは、危なげなく着地して……
……着地の瞬間を、狙う!
「はぁあ!」
イメージするのは、鞭……水の鞭だ。それを、杖の先端から伸ばす。
杖を振るい、鞭を伸ばせば……狙う先は、今は宙にあるゴルドーラの足。着地する瞬間なら、無防備になる……そこを狙う。
しかし、まるで私の狙いを読んでいたかのように。ゴルドーラは、"なにもない宙"を踏み、そこから一歩二歩と下がり、地面に着地する。
あれも、魔導……イメージの力で、宙に見えない足場を具現化したのだ。
おかげで、私の鞭は空振りだ。
「やるね」
本人には決して聞こえていないだろうけど、ゴルドーラに向けて私は言う。
コロニアちゃんの話だと、ゴルドーラも土魔術を得意としている……だからゴーレムを使ってくるはず、と言っていた。
ゴーレム、土魔術どころか、ゴルドーラはまだ魔法しか使っていない。それも、本人は全然大した力を使っていないのだ。
軽い運動……といった、涼しい顔をしている。魔術を使うまでもない……とでも思っているのだろうか。いや、決闘は全力を尽くすものだし、彼の性格から手を抜くような人じゃない。
だとしたら……
「とっとと全力を出させて、それを破ってうぉおおおおおい!?」
気合いを入れ直したところで、視線の先……ゴルドーラがすでに次の攻撃体勢を整えているのが見えた。
準備が、早いな!
彼の周囲には、いくつもの光の玉が出現している。そして、杖を振ると同時、光の玉は幾数の弾となって、放たれる。
だったら、また壁を作って……
「無駄だ」
魔力の壁を作って、光の弾を受け止める……が、壁にはすぐにひびが入り、パリィンと大きな音を立てて割れる。
小さな弾なのに、威力は凄まじい。しかも、まだ残った弾が私を襲う。
魔力強化を足に集中して避けて……いや……!
「お願い!」
私は、"なにもない空間"に手を突っ込み……内側に忍ばせていた"それ"を、取り出しざまに横薙ぎに振るう。
それが振るわれた瞬間……私に迫っていた光の弾は、音も立てずに消失していた。
「……? 収納魔法か」
私が"それ"を取り出した空間。それは、大気の中にポケットのような空間を作り、そこにものを収納しておくという収納魔法。あんまり大きいものや、多くのものは入らないけど。
そこにしまっておいたのだ……"それ"を。
これが、さっきのゴルドーラのように杖を振るって攻撃を薙ぎ払ったなら、まだわかるだろう。
けれど、私はちゃんと杖を持っている……今、"それ"を握っているのとは逆の手に。
私が、杖とは別に握っている"それ"は……
「……短剣?」
眉をひそめ、訝しげにゴルドーラが呟く。
そう、私の手にあるのは、短剣……ただし、その刀身は淡く青白く光っている。いや、違うか。
刀身が淡く光っているのではなく、淡い光が刀身の形を成しているのだ。つまり、本来付いているべき刃(は)が、ないのだ。
その、異様な武器に、ゴルドーラはしばらく沈黙して……
「魔導具か」
そう、言った。
さすが、鋭い。
「ご明察」
ゴルドーラの言った通り、これは魔導具。短剣ではあるけど、刀身がないという異様な形をしたもの。
これは、ピアさんに作ってもらったものだ。その、効果は……
「なるほど……俺の撃った魔導、いや魔力を吸収し、それをその短剣の力としたわけか。
魔力を刀身の形とし、それを振るうことができる魔導具」
……初見で、そこまで見抜くか。
そう、この魔導具は魔力を吸収することができる。なにもしなければただの、刀身がない短剣。だけど、魔力を吸収することでその魔力を刀身の形として、武器として振るえる。
つまり、相手の魔力を自分の武器に変えることができるのだ。
さっき、こいつを振るいその影響で光の弾……ゴルドーラの魔力は吸収された。今、この短剣に込められた力は、ゴルドーラの魔力だ。
ちなみに、魔力は大気にも流れているありふれたものだけど、大気の魔力は吸収しない。あくまで、相手の体内の魔力を使ったもの。
でないと、大気中の魔力を吸い続けて、とんでもないことになっちゃうからね。
「ふむ……面白い」
魔力を力に変えた短剣……それを見て、ここに来て初めてゴルドーラが……
不敵な笑みを、浮かべた。
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