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第三章 王族決闘編
95話 賑やかな子
しおりを挟むそれから、私はコロニアちゃんと、時間が許す限り語り合った。
まあ、そのほとんどが私の魔力を褒めてくれるものばかりだったけど。会って間もない子にこれほどまでに褒められるなんてね。
どうやらコロニアちゃんは、私とダルマスとの決闘の件も知っていたようだ。決闘とはいっても授業の一環だから、クラスメイト以外に人の目はなかったけど……
まあ、人の話なんてどこから漏れるかわからないしな。他にも知ってるっぽい子いたし。
その決闘の内容も盛り上がったんだけど……なんか、少し違和感のある質問があったなぁ。
一般的には魔力を部分的にしか纏えない身体強化を、私は全身に纏わせた。エフィーちゃんは魔力の使い方、操作がうまいんだね、なんて言ってくれた。
ただ……自分だけじゃなく、他の人の魔力も操作できるのかな、なんてことも聞かれた。
もちろん、他人の魔力を操作するなんてことはできないので、ノーと答えたけど。あれには、どんな意図が……
……いや、ただ私の魔力の使い方を、把握したかっただけだろう。
「じゃあ、またね~」
存分に語り合った……とは言い難いけど、それなりに話を終えた私たちは、別れた。
コロニアちゃんは「オウガ」クラスだということで、つまりはナタリアちゃんと一緒だ。ナタリアちゃんはルリーちゃんのルームメイトだし、なんとなく繋がりができたって感じ。
うーん、せっかくあのゴルドーラの妹と話す機会があったんだから、彼の弱点とか聞いたらよかったかな。
でも、身内の弱点とか話したくないかもしれないし。それに、そんな空気でもなかったしね。
決闘に勝つために相手を研究するのは大事だけど、せっかく友達になった子と関係性を壊すのは、よくない。
「こうして一人で帰るの、久しぶりかも」
暗くなり始めた道を、歩く。思い返せば、これまで放課後は常に誰かと一緒だった。入学二日目、調べ物をしに図書室へ寄った日を除けば。
同じクラスのクレアちゃんと行動したり、お茶会に参加したり、ルリーちゃんが迎えにきたり……
久しぶり、っていうほど、この学園で過ごしたわけでもない。
けれど、これまで周囲が賑やかだったせいか……一人になると、なんだか少し寂しい。
「ま、帰ればノマちゃんがいるし」
そう、帰ればノマちゃんが待っている。彼女は、まあ賑やかだ。こっちが黙っていても、向こうから話しかけてくるので話題が尽きることはない。
ノマちゃんみたいな楽しい子といるのは、私も好きだしね。
それに、賭けの話もしないと。
今回、試合で勝ったほうが負けたほうに対して、言うことを一つ聞かせる、という約束をした。その内容も、なんにしよっかなぁ。
頭の中でいろいろと思いを巡らせながら、寮へと戻る。そして、自分の部屋へ。
「ただい……」
「フィールドさぁああん!」
「まぼぉ!?」
扉を開けて、中にいるノマちゃんへと声をかける……途中に、腹部に鋭い衝撃が走った。
まるで、なにかにタックルされたかのような……いや、実際にタックルされたのだ。
誰に? そんなの考えるまでもない。
「な、なに……ノマちゃん……」
なんとか受け止めることができたけど、危なかった。まさか家の中から、突然タックルされるなんて思わなかったから。
まさかノマちゃん、試合に負けたから私を、こっそり闇討ちしようと……?
なんとか体勢を立て直し、ノマちゃんを引きはがす。
「うぅ、お腹が……
ノマちゃん、なんのつもり……?」
これがご飯食べた直後だったら、胃の中からとんでもないことになっていたかもしれない。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、ノマちゃんは私を見る。
「ど、どうしましょうフィールドさん!」
「……なにかあった?」
なにやら、深刻な様子。もしかして、ただ私のお腹に頭突きをおみまいしただけではないのか?
なんか、私が帰ってくるのをずっと待っていたようにも見えるし。だとしたら、私で力になれることがあるのなら……
「コーロラン様が、試合の後から元気がありませんの!」
「……」
……多分、ノマちゃんにとっては切実な問題なんだろう。けど、私にはどう反応すればいいかわからない。
元気がない、と言われてもな……
試合後から……って、心当たりはあるけど。
「そ、そうなんだぁ」
まさかあんな家庭の事情を、おいそれと話すわけにもいかない。それに、彼は妹にもそのことを隠しているっぽいし。
私も、なんとかごまかす方面で。
「試合で負けたのが、よほどショックで……きっと、わたくしたちが不甲斐ないせいですわぁ」
「いや、みんな頑張ってたと思うよー?」
そう、別に誰も悪くない。問題があるとするなら、あの二人の問題だ。
それに……筋肉男の言っていたことを肯定することになるようで嫌だけど。今回の試合は元々、王子様がお兄さんに自分の価値を示すために、起こしたものだ。
つまり、私も含めみんな、王子様の思惑に振り回されたってことだ。
その結果試合に負け、お兄さんのゴルドーラからはあんな態度。もちろんゴルドーラのあの言い方はムカつくけど、一連の件に関しては王子様にも責任の一端はあるし。
そのことで落ち込むのは自業自得で、ノマちゃんが気にすることでもないだろう。
「とりあえず、部屋入ろ? ね?」
部屋に入る前にタックルされたから、ここは玄関先だ。さすがに人の目が気になる。今のところ誰にも見られてないけど。
そんなこんなで、部屋の中へ。
「落ち着いた?」
「は、はい、なんとか……お見苦しいところを、お見せしましたわ」
時間が経ったことで少し落ち着いたのだろう、ノマちゃんは恥ずかしそうにしている。
そうやってもじもじしている姿は、なんというかきゅんとくるものがある。いいね!
とりあえずは、落ち込んでいる王子様をそっとしておいて、クラスメイトみんなで励ましてあげたらいい……という結論に至った。
「そういえば、試合の後、コーロラン様と……フィールドさんも、その場にいませんでしたわね。
まさか、二人でどこかに……?」
あぁー、やっぱり抜け出してたのはほとんどにバレてるのか。先生からも注意されたし。
しかも、ノマちゃんったら私たちが二人きりで、どこかに行ったのでは、と勘ぐっているらしい。
これはしっかりと、誤解を解いておかないと。
「違うよー。たまたま、その……トイレ探してたの。だから席を外してたっていうか。その後も、流れで、ゴルドーラさんと決闘することになっただけだから、王子様とはなにも」
「なんだ、そうでしたの。
………………んん?」
オホホホ、と口元を押さえていたノマちゃんの動きが、止まる。
「……けっ、とう?」
「うん」
「ゴルドーラ……って、まさか……コーロラン様の、兄君の……この国の、第一王子の……」
「うん。ゴルドーラ・ラニ・ベルザ」
「…………はぁ」
あ、これいきなり言っちゃあまずかったかな。
そう考えたのもすでに遅く。ノマちゃんは座っているのに、まるで立ちくらみでもしたかのように倒れそうになった。なんとか耐えていた。
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