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第三章 王族決闘編
93話 エフィーちゃん
しおりを挟む「おう、じょ……」
突然、現れて声をかけてきた人物……これが、王女……この、ふわふわというかほわほわというか、したのが王女……
口から出まかせを言っているわけでも、ないだろう。だとしたら、クレアちゃんがこんな反応するはずないもんね。
それに、このブロンドヘアー……王子様と一緒だ。まあ髪の色で判断してたらノマちゃんも王族になっちゃうんだけどさ。
なんか見覚えあるっていうのも、王族ならば納得だ。
「その王女様が、なにかご用で……?」
「んー?」
……この人、大丈夫なんだろうか。会ってまだ数秒なのに、見ていて心配になる。
なんか眠そうだし。
「歩いてくるの発見したから、声かけちゃったー。
迷惑だったー?」
「い、いえ! そのようなこと、あろうはずがございません!」
なんか、あまりの緊張でクレアちゃんがおかしなことになってる。今日は王族と絡みっぱなしだもんな。
王子様は、直接話すことはなかっただろうしクラス同士の場だからよかったのだろう。でもその後は、その兄であるゴルドーラ・ラニ・ベルザに認識され、目の前には妹のコロニア・ラニ・ベルザに話しかけられている。
自分で言うのもなんだけど、クレアちゃんみたいな反応が普通で、私みたいなのが異常なんだろう。
「クレアちゃんの言うように、迷惑なんてことはないですけど……」
「まあー、よかったー」
本当に王女様なのか、もう何回目の疑問だろう。そりゃ、見た目はまるでお人形のようだから、王女と言われても不思議はないけど。
使命感に迫られていた王子様や、あの堅物の兄を見ていたから……ああいうタイプと真逆で、驚いている。
……というか……
「王女様は……」
「コロニアとかあだ名で呼んで。エフィ―ちゃん」
……!?
エフィ……!?
「え、誰……」
「だって、エラン・フィールドちゃんじゃ長いでしょ。だからエフィーちゃん」
「そこは普通にエランちゃんでいいのでは……?」
あだ名……あだ名で呼び合う。あん、実に友達らしいやり取りだ。憧れる。
でも、でもだよ? 『エ』ラン・『フィー』ルドで『エフィー』って斬新すぎない……? いや、そんなもんなの?
多分、探せば普通にいるよ、エフィーって名前の子。
「だめー?」
「いや……まあ、だめではないですけど……」
「やったー」
……王族ってのは、みんなこんな、独特なタイプなのか? それとも、これが普通なのか? 私がおかしいのか?
あの王子様、爽やか男子って感じで別の意味で接しにくい部分はあったけど……彼が今のところ一番まともだ。
「それで、どうかしたのー?」
「え……あぁ」
そういえば、気になることがあるから話しかけたんだった。あまりにインパクトの強いあだ名に、一瞬飛んでたよ。
気を取り直して……
「おう……コーロランくんやゴルドーラさんは人間なのに、コロニアちゃんは」
「ちょっとエランちゃん、様を付けないと!」
「いいっていいって。様なんて堅苦しいしー」
本人から、様付けの必要はないと許可を貰った。あだ名で呼んでって言ってたってことは、フランクな話し方が正解のはずだ。
気を取り直して、気になっていたことを投げかける。
「コロニアちゃんは……獣人、なんですね?」
「んー、そーだよー。私は獣人」
そう、兄のコーロランやゴルドーラは人間だった。だけど、コロニアちゃんは違う。
頭には、動物の耳が生えている。なんかもふもふっとしている。それに、尻尾には丸っぽい尻尾も。
これはおそらく……たぬきだ。多分。たぬきだろうってのも、実際は髪の色と耳の色が一緒だから、勘なんだけどね。
兄二人は人間で妹は獣人……兄妹であるはずなのに、種族が違う。まあ、パッと見は人間なだけで、あの二人も実は獣人……普段獣の部位を引っ込めているって可能性もあったけど。
コロニアちゃんの言葉で、その可能性はなくなった。
「ウチは、お父様が人間族で、お母様が獣人族なの。お兄様たちは、お父様の血が濃く出たみたいだから、人間族なんだけど……
私は、お母様の血が濃く出たから、獣人族の特徴を受け継いだの」
不思議に感じている私に、コロニアちゃんは説明してくれる。へぇ、そういう仕組みなのか。
人間族と獣人族が結婚したら、両親どちらの血が濃く出るかによって子供の種族も変わる……と。
そういえば私、知っている家族って言ったらクレアちゃん、タリアさんのアティーア親子くらいだな。他にも友達はいるけど、親子関係までは知らないし。
クレアちゃんもタリアさんも、どっちも人間族だし……親と子の種族関係って、考えてみれば知らなかったなぁ。
「さっきの試合、見てたよー。お兄様のゴーレムを倒した魔術、すごかったー」
私に話しかけてきたときと同じようなことを言う、コロニアちゃん。さっき聞いたよ。
「ど、どうも」
「お兄様のゴーレム倒したのなんて、お兄様やお父様、お母様くらいだよー」
つまり身内か……まあ、それは王子様のレベルが低いんじゃなく、身内のレベルが高いって意味のほうが正しいんだろうな。
というか、お兄様お兄様って……ややこしい。
「ややこしい」
「あ、ごめんごめん。じゃあー、いつも通りコーロ兄様、ゴル兄様って呼ぶねー」
やっべ、声に出てた。
まあ、その呼び方のほうがこっちも混乱しないから、それはありがたいんだけどさ。
それはそれとして、魔術の腕を素直に褒められるのは……うん、素直に嬉しいな。
「それでね? エフィーちゃんともっとお話したいなって」
「お話」
「うん。
放課後、二人でお茶会しない?」
……それは、突然のお誘いだった。
「えっと……二人で?」
「うん。だめ?」
だめ、ではないけど……
ちらりと、クレアちゃんを見る。クレアちゃんは、肩を震わせる。
その視線の意味に気づいたのか、それとも気づいていないのか。コロニアちゃんは……
「ごめんねー、クーちゃんともお話したいんだけど、今回はエフィーちゃんと二人だけで……」
「あ、は、はい! それはもちろん……く、クーちゃん!?」
「うん。だめー?」
「いえ、光栄です!」
ちゃんとクレアちゃんにも断りを入れるあたり、わざとクレアちゃんを無視した……というのではなさそうだ。他意は感じないし。
もしそうなら、いくら王女様のお誘いでも断ってたところだよ。
……というか、クーちゃん……クレアちゃんだからクーちゃんなのはわかるけど。
それなら、私もエーちゃんとかでよかったのでは?
「うーん、エーちゃんでもいいんだけど……」
! 心を読まれた!?
「エーちゃんはもういるから、その場合エーツーちゃんになるけど」
「エフィーでお願いします!」
なるほど、そうか……すでにクラス内に友達ができて、その子のあだ名がエーちゃん。だから私もエーちゃんだと被っちゃう、と。
それはわかったが、そうなった場合のあだ名がまた独特だ。なんだよエーツーって。ロボットか。それとも望まれてないのに生み出された悲しき生物か。
そんなこんなで、私はエフィーちゃんになった。
「じゃ、約束ー。楽しみだなー、お茶会」
「だ、だねー」
そして、果たして私は、この独特すぎる王女様となにを話すのだろう。会話はちゃんと成立するのか、不安だ。
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