93 / 739
第三章 王族決闘編
91話 異例の決闘騒ぎ
しおりを挟む「なにをしているんだお前たちは……」
先生の、怒りのような呆れのような、多分どちらも入り混じっているであろう感情を乗せた声が届いた。
それを受けて、私と隣に座っているクレアちゃんは、果たしてなにを思えばいいのだろう。
ただ、なんとなく申し訳ないなぁとは思う。
なんとなく。
「あ、あのぉ……わ、私は、巻き込まれただけというか……その場に、居合わせただけ、というか……」
「その場にいたのにフィールドを止めなかった時点で、お前も同罪だアティーア」
「しょ、しょんなぁ……」
半べそをかいているクレアちゃん。
ごめんよ。クレアちゃんに関しては完全に申し訳ないよ。あの状況じゃ無理だよね。
……ここは、生徒指導室という名の教室。この場には、私とクレアちゃんと、先生の三人だけだ。
さて、どうしてこんなところで、こんなことをしているのかというと……時間を少し遡る。
「デーモ」クラスとの試合、それを終えた私は、ふとしたことで試合相手の王子様の家庭の事情に首を突っ込んでしまった。
その結果……王子様の兄、つまりこのベルザ王国の第一王子であるゴルドーラ・ラニ・ベルザに、決闘を挑むことになった。
そして、先生にその報告をしたら……こうなった。
「はぁ……」
この部屋に来てまだ十分くらい。なのに、先生は数え切れないくらいのため息を漏らしている。
そんなにため息吐いてると、幸せが逃げちまうよう?
「まあまあ、落ち着きましょうよ先生」
「……こっちはお前のことで悩んでいるんだが」
それはごもっとも。私の決闘騒ぎに、さぞ胃を痛めていることだろう。
だけど、先生がこう悩む必要も、ないのではないだろうか。
そもそも……
「この学園は、生徒の主体性を尊重する、って言ってたじゃないですか」
ここでは、生徒の主体性……自主性だっけ……まあおんなじことだ。とにかくそれを尊重すると、先生は言っていたはずだ。
だから極論、私が誰と試合しようが誰と決闘しようが、それは私の責任で先生に問題はないはず。
それを受けて、先生はまたため息を漏らした。頭を抱える。
「確かに、そうだ。
生徒同士の決闘も、当人同士の合意の上行われるなら、我々教師も口を挟むつもりはない」
「だったら……」
「だが、な……入学して数日で、上級者相手に……しかも、よりによって王族に決闘を申し込む。これが口を挟まずにいられるか。
しかも、さらなる問題は決闘申し込みを受けた当人が、決闘することを了承したことだ」
……あのとき、私は決闘を申し込んだ。決闘を申し込むことと、それを受けることとはまた別問題だ。
だけど、彼は……ゴルドーラ・ラニ・ベルザは、私の決闘申し出を、受け入れた。受け入れたのだ。
決闘とは、一対一……正真正銘、一対一の勝負だ。力と力の、技と技の勝負。
つまり、単純に……決闘の勝ち負けにより、その人間の価値も決まるということだ。
「まったく……本来なら、王族に決闘を申し込むバカも、それを王族自身受け入れることもしないはずだがな」
おっと、バカって言われた。私のことチラ見してる。そんな顔しないでおくれよ。
「……そんなに私、バカかな」
「おバカよ」
ついにクレアちゃんにも、言われてしまった。
巻き込んだのはごめんだけど、そんな言わなくてもいいじゃないか。
「決闘っていうのは、普通の試合とはわけが違う。お互いに真剣勝負……基本、なにかを"賭けて"戦うのが決闘よ。
勝てば得るものは多いし、負ければ失うものも多い。それでも、一生徒同士なら、そこまで問題じゃない。
問題なのは、相手が王族であること。王族相手に決闘を挑む者はまずいない。貴族社会において、王族に決闘を申し込むなんて考えるだけでも恐ろしいわ」
自分の肩を抱き、恐ろしさをアピールするクレアちゃん。
……言われてみれば、そうだ。貴族社会ってのがどんなのか、まだ私はよくわかってない。でも、貴族同士でさえ、些細なことが問題になるのだ。
なのに、王族ともなれば…………とんでもないことだな、うん。
「決闘の勝ち負けは、貴族の価値観を左右する。それが万一、王族が決闘に負けたりなんかしたら……
あぁ、考えたくもない」
王族が負けることで発生するリスク……それを、考えるだけでも頭が痛くなると、クレアちゃん。まあ、言おうとしていることはわかる。
今回のようなクラス対抗の試合ならば、多人数入り乱れた混戦だ。勝ち負けに、そこまでの価値は見出だせない。
けれど、一対一の決闘は、違う。
決闘の勝ち負けがその人の価値を決めると言うのなら、確かに決闘はおいそれと申し込むものじゃないし、受けるものでもない。
私も以前ダルマスと、決闘はしたけど……授業の一環だったし。
……それが今回、決闘を受けた王族は、決闘を受け入れた。
「負けたらどうなるとか、考えてないタイプだとは思えないんだけどな」
あのタイプは、結構計算しているタイプだ。自分が決闘に負けることで発生する不利益を、計算できない男じゃない。
なのに、彼は決闘を受けた。決闘を申し込んだ私が言うのもなんだけど、不思議な男だ。
まあ、申し込んで受け入れられたものは仕方ない。決闘の申し出を白紙に戻すこともできるらしいけど、私にそのつもりはないし……
……なんか、二人の視線が痛い。
「な、なにか?」
「いや……普通に、勝つつもりで話してるんだなぁって」
もう驚きすぎたのだろう、無の表情でクレアちゃんは言う。けど、その内容がよくわからない。
そりゃ、勝つつもりがなきゃ決闘なんて申し込まないし。
「そりゃ、負けるつもりはないよ。逆に、負けちゃった王族の末路を心配してるくらいだよ」
「……大物なのか、単なるバカか」
先生に、すごく失礼なことを言われている気がする。
「あのねエランちゃん。勝つつもりなのは向こうも同じ……
だから、決闘を受け入れたの」
私に言い聞かせるように、ゆっくりとした口調で話すクレアちゃん。ふむ、今度はわかりやすいな。
勝つつもりがなければ決闘は受けない……か。決闘申し込まれても、拒否できるみたいだし。
それをしなかったってことは、それだけ自信があるってことだろう。
王族が負ければその立場がない……そのリスクがあるのを承知で、逃げずに私との決闘を受け入れた。
「そりゃ、勝つ気のない相手とやってもつまらないからね!
あのゴーレムを生み出した、王子様のお兄さんか……どんな魔導士なんだろ!」
「……お前のために悩んでいるのがアホらしくなってきた」
「みんながエランちゃんみたいな性格なら、世界は平和なんですかね」
私の意気込みをよそに、本日何度目となるため息を、先生とクレアちゃんは漏らした。
とても大きなため息だった。
11
お気に入りに追加
164
あなたにおすすめの小説
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m
公爵令嬢はアホ係から卒業する
依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」
婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。
そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。
いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?
何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。
エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。
彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。
*『小説家になろう』でも公開しています。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
異世界に転生した俺は農業指導員だった知識と魔法を使い弱小貴族から気が付けば大陸1の農業王国を興していた。
黒ハット
ファンタジー
前世では日本で農業指導員として暮らしていたが国際協力員として後進国で農業の指導をしている時に、反政府の武装組織に拳銃で撃たれて35歳で殺されたが、魔法のある異世界に転生し、15歳の時に記憶がよみがえり、前世の農業指導員の知識と魔法を使い弱小貴族から成りあがり、乱世の世を戦い抜き大陸1の農業王国を興す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる