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第二章 青春謳歌編
84話 起動せし巨人
しおりを挟む試合は、どんどん激しくなっていく。
周囲を見渡してみると、その様子は様々だった。
王子様の策略によってバラバラにされた私たち。そこを、「デーモ」クラスの生徒は複数人で囲んで叩いてくる。
数の差で負ける者、逆に数の差を力の差で返り討ちにしている者もいる。
それでも、人数的にはこっちが不利かな……
「ほら、よそ見をしている暇はありませんわよ!」
「!」
私を休ませないと追撃を続けるのはノマちゃん。杖を振るい、放たれる魔導は正確に私を狙ってくる。
それだけじゃない。常に、私と一定の距離を保ちながら三人の男子生徒が、私を囲っている。
さっきのように反撃されないためか、近すぎず離れすぎずって感じだ。
「うーん、参った……」
向こうの攻撃を捌くことは造作もない事だけど……逆に、こっちの攻撃も当たらない。
私がなんか放っても、避けられるかそれぞれ違う角度から攻撃を撃ち込まれ、相殺される。
それに、囲まれているから助けも期待できないし……
「力勝負では勝てません、ですから……
搦め手で!」
「わっ?」
迫りくる魔導にばかりに集中していたせいか、足首になにかが巻き付いたのに気づくのが、一歩遅れた。
しかも、両足だ。
なにが起こったのかと下を見れば、地面から伸びた……蔦のようなものが、私の足首を拘束している。
これで、私の動きを封じたってことか。
直後、まるで示し合わせたように、囲っていた三人の男子生徒からそれぞれ、魔導が放たれる。
どれも強力なエネルギー波だ。もろに当たったらどうなっちゃうだろう。
「決まりですわ!」
「ちっちっち。甘いよノマちゃん。
魔導士相手に、動きを封じるなんて意味のないことだよ」
不思議そうな表情を浮かべるノマちゃん。その顔が、見えなくなる。
いや、私に三種の魔導がぶつかって……その衝突の爆炎で、見えなくなっただけだ。
もしも、もろにあれを受けていたら、結構なダメージを受けていただろう。結界の中だからある程度以上は無効化されるけど。
「なっ……」
「おい、どうなってんだ。無傷だと!」
「どころか、服にも傷がねぇ!」
爆炎が晴れ、私の姿を確認した三人が驚きを見せる。
無傷? そりゃそうでしょうよ。三種の魔導がぶつかる直前、私は自分の周りに魔力防壁を張ったのだから。
言葉通り、それは魔力による防壁だ。魔力量によるけど、私の魔力防壁なら大抵の攻撃を打ち消せる。
「動けなくても、攻撃を防ぐ手段はいくらでもあるよん」
「し、かし……あの三種の攻撃を、難なく防ぐなど……」
ノマちゃんや男子生徒的には、私じゃあの攻撃は防げない、と判断したらしい。
でも、そう思っていたなら甘々だよ!
「ちっ、【成績上位者】ってのもいい加減なもんってわけじゃないようぶべら!?」
「トーロイ!」
ありゃ、なんかしゃべってる途中に殴っちゃった……失敗失敗。
まあ殴ったって言っても、拳でじゃなく魔力を使って、操った大気でちょっとやっただけだ。
トーロイと呼ばれた彼は、突然殴られたことに受け身を取ることもできずふっ飛ばされ、結界の外に弾き出されてしまう。
どーよ、これが【成績上位者】の力……そうか、「デーモ」クラスにだけは、【成績上位者】いないんだっけ。だから、どれくらいの力があるのか判断できなかったと。
「なっ……今ので……!?」
まさか一撃貰っただけで結界の外に弾き出される……つまり戦闘不能にされてしまうとは思っていなかったのか、ノマちゃん含め三人は目をパチパチさせている。
まるで、信じられないものを見るように。
へへん、どうだい。動けなくったって、相手を戦闘不能にする方法はあるんだよ。
「そー……」
「うわぁああ!」
「なんだありゃ!」
「っれ……って、なに?」
さっきと同じく、そして今度は殴打の連打を浴びせようと杖を構え……ていたところに、突然の悲鳴。
同時に、ズシン……と、大きな地鳴りがあった。複数の悲鳴と巨大な地鳴り、ただ事ではないのはすぐにわかった。
それに……気のせいだろうか、視界が暗くなったような……
「おぉ……」
「あれが……」
男子生徒たちは、私……の、後ろに目を向けている。その視線は、上空だ。
私も釣られるように、振り返るとそこには……
……巨人が、いた。
「でかいぞ! どっから現れやがった!」
「魔物か!?」
「まさか、そんなはずない!」
ギャーギャーと周囲は騒ぎに包まれる……きっと、あれを初めて見る人ばかりなのだろう。魔物と勘違いしてしまうのも仕方ない。
だけど、あれは、魔物じゃあない。
あれは……
「ゴーレム……」
あれはただの巨人じゃない。土でできた巨人だ。泥人形って表現もあるけど……
どっちにしろ、あれが魔物でないことは確かだ。魔法ではなくあれは魔術……土属性の精霊の加護により、出現したものだ。
あんなゴーレムを作り出せるなんて、相当の魔導士だ。ぱっと思い浮かぶのが、ナタリアちゃんか、ヨルだ。
けど、その二人はこの舞台にはいない。当然私でもないし……私のクラスの誰か、でもない。
だって、さっきから騒いでる声、私のクラスメイトばっかだし。
となると、残るは「デーモ」クラス。
その上、これだけの魔術を使える人物となると……
「王子様か……!」
思い浮かぶのは一人。【成績上位者】でこそなかったけど、クラスの代表に選ばれ、この試合の発端となった男。
王子様ことコーロラン・ラニ・ベルザ!
「キャー! コーロラン様ー!」
なんか、ノマちゃんのテンションが異様に高いし……
うん、間違いないな!
会場も、ざわめいている。
そりゃそうだろうな……ゴーレムってやつは、もちろん魔術って時点ですごいんだけど、それだけじゃない。
「行け……!」
どこからともなく、声が聞こえた。その直後……ゴーレムが、動き出す。狙いを、私たちに定めたようだ。
やっぱり、王子様の声に反応して、動いている。土属性の魔術は、他三種類と少し勝手が違う。
土属性は、なにかを創造……生み出すことが多い。生み出し、そしてその先……生み出したものが動き、まるで意思を持っているかのように行動する。
そこまでできて、初めて土属性の魔術は完成する。火、水、風よりも複雑ではあるが、だから極めれば強力な魔術だ。
ただぶっ放すだけじゃなく。生み出し操る……たとえ精霊さんと契約しても、実行するにはより本人の技量が試される。
それを、王子様……コーロラン・ラニ・ベルザは、ものにしている。
「……いいね」
最初は、なし崩し的に持ち込まれた形になった試合だったけど……
これは、面白いよ!
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