83 / 796
第二章 青春謳歌編
81話 プラン
しおりを挟む『考えたんだけどさ。試合が始まったらまず私が突っ込んで、相手クラスの人数をいっぱい減らして、残ったのをみんなで囲んでボコる、とかどうかな』
『どうかな、じゃねぇ。いいわけないだろ』
『悪魔みたいなこと言うな』
『あははー、やっぱだめかー』
『おっそろしいこと言い出すわね』
『ま、冗談は置いておいて』
『冗談と思えないのがこえぇよ』
『せっかくのクラス対抗だし、クラス一丸となって頑張ろうよ!』
……試合会場に来る前のやり取りを思い出しつつ、クラスのみんなは指定の位置につく。
試合のルールは、事前に説明された。
クラス対抗であるため、最後の一人まで立っていた方のクラスの勝利。
戦闘不能状態と判断されたら失格。
魔法、魔術どちらの使用も可。
武器の使用も可。
また、どれだけ暴れても会場には結界が張ってあるので、外に影響は出ないとのこと。
ちなみに戦闘不能の判断は結界による判定で、その時点で結界の外に弾き出されるとのこと。
あと、決闘と試合との違いだけど……試合は競技的な意味に対して、決闘は互いになにかを賭けるものらしい。そういう意味では、私とノマちゃんは負けた方が勝った方の言うことを聞く、と賭けているから、決闘との言えるのかも。
ダルマ男と決闘はしたけど、あれは授業の一環だからノーカンだ。
「いよいよね……」
「だね。最初王子様に試合申し込まれたときはどうなることかと思ったけど、こうしてお互いのクラスでやりあって、お互いに高め合う!
これぞ青春ってやつだよね!」
「うるさいぞバカ」
怒られてしまった。
みんな緊張しているみたいだから、場を和ませようと思ったのに!
まあ、緊張するのも無理ないか……魔導に関する知識はあっても、実技を繰り返しても。実戦となると初めての子が多いだろうし。
私なんかは、師匠と実戦形式で何度もやりあったり、魔物と戦ったこともあるからいいけど。
貴族の子って、こういうのに弱いイメージがある。なんとなく。
「ではこれより、「ドラゴ」クラス、「デーモ」クラスによる試合を行う!」
そこへ、高らかに先生の声が響く。
魔法を使っているのか、それとも素の声量なのか……会場全体に、響いている。
それにより、会場の空気が変わる。今まで騒がしかった観客席も、静まり返った。
なんか成り行きからこうなっちゃった感はあるけど、ここまで来たら楽しまないとね!
「それぞれ、力を尽くして戦うように!
では試合、開始!」
ついに、試合開始の合図が、切って落とされた。
さぁて、まずは誰から……
「ちょっ、エランちゃん!」
「ん?
……なぬぅ!?」
ふと、クレアちゃんの焦った声が聞こえる。
そちらに顔を向けて、そのクレアちゃんが上空を指しているので、顔を向けると……
……雨が、降り注いでくる。
しかも、ただの雨じゃない。これは……
「火か!」
火だ。それが、雨のように降り注いでくるのだ。当たれば熱い、なんてもんじゃないだろう。
結界内では一定以上のダメージは無効化されるけど、言ってみれば一定以下のダメージはそのまま痛みとして受けてしまうんだ。
現に、私に殴られたダルマ男は気絶したし……あれ、一定以上なんだろうか以下なんだろうか。
それに、痛みではなく熱などはそのまま受けてしまう。
「って、考えてる場合じゃない!」
クラスメイトは、開始の時点では密集している。
このままここにいては、みんないっぺんに火の雨……いやシャワーの表現が想像しやすいかな。を浴びてしまうことになる。
「散れ!」
誰ともなく叫び、クラスメイトは四方に散る。
降り注ぐ火の雨は、方向を変えて曲がる……なんてこともなく、地面へとぶつかる。
早速バラバラになっちゃったな……いや、バラバラにさせられたと言うべきかな。
だって、あんな密集しているど真ん中に撃ち込んでくるなんて、その先に取る行動は限定される。
「みんな、プラン通りに!」
と、王子様が叫ぶ。
それを皮切りに、向こうのクラスも動き出す。だいたい、四、五人ひとかたまりになって。
なるほど、私たちをバラバラにしてから、そこをひとまとめにして叩こうってことか。
って、観察してる側から……
「せやぁあああ!」
「おっ……!」
きらやかに輝くブロンドヘアが、視界に映る。それは、今朝も見たばかりの髪……
振り下ろされる杖は魔力で強化されていて、それは言わば剣だ。
私はそれを、同じく杖を魔力強化することで、受け止める。
「ノマちゃん……!」
「さっきぶり、ですわね!」
ノマちゃんとは食堂で一緒に食事をしてから別れたから、確かにさっきぶりだ。
それにしても、ノマちゃんが私のところに突っ込んでくるなんて……さっきの、プランってやつか?
「そんなに、私に会いたかったんだ」
「間違いではないですけど!
あの方の言っていた通り、バラバラに別れたあなた方を、一気に叩かせてもらいますわ!」
やっぱり、バラバラになった私たちを一気に、叩くのが目的か。正面にはノマちゃん、それに……
私の周囲を囲むように、生徒たちが迫っている。
ノマちゃんの言う、あの方ってのは……王子様だろう。てぇことは、あの火の雨を降らせて私たちを分断させ、そこを叩こうって作戦を立てたのは王子様か。
なるほど……面白い!
「けど、そううまくはいかないよ!」
「!?
皆さん、下がって!」
いち早く異変に気づいたノマちゃんが、叫ぶ。
けれど、遅い!
私は、杖への魔力強化とは別に足先に、魔力を込める。部分的な身体強化だ。脚を強化ではなく、足なのがミソだ。
そして、その足を上げて……思い切り、地面へと振り落とす。
その影響で地響きが鳴り……割れた地面の欠片は浮き上がる。それらを、魔導で操って……私を囲んでいた生徒へと、ぶつけていく。
「うっ!」
「ぐっ!」
「べへ!」
別に見えてはいなかったが、人の気配と魔力の方向へと地面の欠片をぶつけた。結果、ちゃんと当たってくれたらしい。
声からして、男子か……男の子三人に囲まれるなんて、モテモテだなぁ私も。
……っと、ノマちゃんも私から距離を取ったか。
「ちょ、ちょっと……なにかするとは、思いましたが……
地面を蹴り割るとか、めちゃくちゃじゃありませんの」
「そっかなー」
「そうですわよ!」
地面を割ることで、周囲のバランスを崩す。
割った地面を有効活用して、相手にぶつける……合理的な方法だと思うけどな。
「ですが……あのくらいじゃ、彼らは戦闘不能ではないですわよ?」
「みたいだねー。……みんな見事に分断されちゃって。
けどさ、さっきの、みんなバラバラに避けなかったらどうしたの? 魔力壁で防いだりとか」
「それならそれで、それ用のプランがあっただけですわ」
「そっか……」
それ用のプラン……ね。
じゃあ、あの王子様は、それぞれ私たちがどう動くか、パターンを予測して、数あるプランを立てていたってことだ。
戦略家ってやつかな……面白い!
「けど、思い通りにはいかないよ」
私も、クラスメイトたちも、思惑通りに動いてなんてあげないんだから!
10
お気に入りに追加
174
あなたにおすすめの小説
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
Sランク冒険者の受付嬢
おすし
ファンタジー
王都の中心街にある冒険者ギルド《ラウト・ハーヴ》は、王国最大のギルドで登録冒険者数も依頼数もNo.1と実績のあるギルドだ。
だがそんなギルドには1つの噂があった。それは、『あのギルドにはとてつもなく強い受付嬢』がいる、と。
そんな噂を耳にしてギルドに行けば、受付には1人の綺麗な銀髪をもつ受付嬢がいてー。
「こんにちは、ご用件は何でしょうか?」
その受付嬢は、今日もギルドで静かに仕事をこなしているようです。
これは、最強冒険者でもあるギルドの受付嬢の物語。
※ほのぼので、日常:バトル=2:1くらいにするつもりです。
※前のやつの改訂版です
※一章あたり約10話です。文字数は1話につき1500〜2500くらい。
公爵令嬢はアホ係から卒業する
依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」
婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。
そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。
いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?
何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。
エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。
彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。
*『小説家になろう』でも公開しています。
ボッチの少女は、精霊の加護をもらいました
星名 七緒
ファンタジー
身寄りのない少女が、異世界に飛ばされてしまいます。異世界でいろいろな人と出会い、料理を通して交流していくお話です。異世界で幸せを探して、がんばって生きていきます。
夫婦で異世界に召喚されました。夫とすぐに離婚して、私は人生をやり直します
もぐすけ
ファンタジー
私はサトウエリカ。中学生の息子を持つアラフォーママだ。
子育てがひと段落ついて、結婚生活に嫌気がさしていたところ、夫婦揃って異世界に召喚されてしまった。
私はすぐに夫と離婚し、異世界で第二の人生を楽しむことにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる