上 下
80 / 778
第二章 青春謳歌編

78話 楽しい楽しいお買い物の時間

しおりを挟む


「楽しみですわ、クラス同士での試合なんて!」

「そうだねぇ」

 クラスのみんなに、「デーモ」クラスとの試合を発表してからさらに翌日。
 私は、ノマちゃんたちとお外にお出掛けに出ていた。以前話していた、お買い物というやつだ。

 学園の外に出るには許可が必要だけで少し面倒だけど、それさえ済ませてしまえばこうして、楽しい時間が広がっている。

「楽しみだねー」

「ねー、ですわ」

「……当事者の二人がそれでいいなら別にいいんだけど、なんでそんなに軽いんだ?」

 仲良く隣り合って笑い合う私たちに、苦笑い気味に言葉を漏らすのは、ナタリアちゃんだ。
 他に、ここにはクレアちゃんとルリーちゃんの姿もある。

 ノマちゃんとお買い物の約束をしてから。私は、仲のいい子に声をかけた。
 結果、三人も同行することになったわけだ。

「軽いー?」

「いや、だってとんでもないことじゃない……私も、聞いたときはなんの冗談だって思ったわよ」

 呆れたようにため息を漏らすのは、クレアちゃん。
 まあ……いきなり、クラス同士で試合します、って宣言されたら、驚きもするだろうか。

 クラスのみんなからも、どうしてそんなことにと質問攻めされたっけなぁ……
 とはいえ、私は試合を申し込まれたほうだから、なんとも言えなかったけど。

「それにしてもノマちゃん、知ってたなら、その日に言ってくれればよかったのに」

「だって、コーロラン様がまだ言ってないのに、わたくしから言うわけにはいかないじゃないですか」

 王子様に試合を申し込まれ……王子様は、事前にクラスのみんなには試合の許可をとっていた、と言っていた。
 ということは、王子様と同じクラスのノマちゃんも、試合のことは知っていたってことだ。

 思い返せば、試合を言い出される前の日あたりに、ノマちゃんはソワソワしていたような気もする。
 きっと、試合のことは知っていて、話しちゃいけないとわかっていたけど話したくなってしまいそうに……って気持ちだったのだろう。

 逆の立場なら……うん、私も話したくても話せないかな。

「けど、ちょっとワクワク、してません?」

「あ、わかるぅ?」

 なんだかんだ言って、ワクワクしている自分がいる。
 決闘とはまた違う。試合だ。それも、多人数での。

 これまで一人で魔導を学んできた私が、誰かと協力して、試合をするのかぁ……

「今から燃えちゃってるよ!」

「わたくしもですわ!
 ですが、今日はせっかくのお買い物。こちらも楽しまないと」

「もっちろん!」

 私にとって、こんなにも多くの友達とのお買い物は初めてだ。
 この国に来てから初めて、クレアちゃんとお買い物に出掛けた。それも楽しかったけど、こうやって大勢で、というのも別の楽しみがある。

 ……うーん。

「私、師匠だけじゃなくクレアちゃんが選んでくれた服も持ってるんだけど……」

 ノマちゃんに詰め寄られたときは、思わずなにも言えなかったけど……私は、師匠が買ってくれたものだけでなく、初めてのお買い物でクレアちゃんが選んでくれた服も持っている。
 白いワンピースとかだ。かわいい。
 なので、私のものを買う、なんてそこまで困っているわけでもない。

 ……まあ、いっか。
 なんにせよ、みんなとの買い物であることには変わりないんだし。

「そういえば、それ私が選んだ服よね」

「ふふん、そうだよー。
 似合う?」

「とっても素敵です!」

 今日私は、クレアちゃんが選んでくれた服を着ている。さっき思い浮かべた白ワンピとはまた別の、女の子らしい服だ。
 クレアちゃんも、ルリーちゃんも、ノマちゃんも、女の子らしい素敵な服装だ。

 みんなスカート……だけど、一人違う子がいる。

「カルメンタールさんは、パンツスタイルなんですのね?」

「あぁ、うん。変かな?」

「そんなことはありませんわ。とてもお似合いです」

 そう、ナタリアちゃんは長いズボンを履いている。
 スラッとした足が、強調されてよく似合っているんだけど……

「スカートはちょっと、恥ずかしくて……」

 と、いうことらしい。

「でも、学園じゃスカートじゃない」

「それは、制服だし……
 私服で、スカートは持ってないんだよ」

「それはもったいないですわ!
 カルメンタールさん、おきれいなんですからおみ足を見せたほうがいいですわよ」

 どうにも、衣類のことになるとノマちゃんは妙なスイッチが入るな。
 ズボンはズボンでいいと思うんだけど……かっこいいし。

 まあ、スカート姿を見ているしもったいないという気持ちも、わからなくはない。

「これは、カルメンタールさんの服も選ばなければ……」

「いや、ボクは……」

「まー、ああなったら止められないよ」

 もはや、ノマちゃんを止めるのは諦めたほうがいいだろう。
 どのみち、服は見て回ることになるのだから。

 ただ、その前に……

「お腹空いた……」

「そうねー、昼食にしない?」

 集合したのがお昼前。今はお昼時で、ちょうどお腹が空いてきた頃合いだ。
 みんなも、異存はないようで、どこか手頃なお店を探す。

「あ、だったらさ……」

 どこかいいところは……と考えていたところで、頭の中にふといいアイデアが浮かぶ。
 美味しいご飯を出してくれる、お安いお店があるじゃないか!

 その店の名前を出すと、クレアちゃんは渋った顔をしていたけど、ルリーちゃんはこくこくこくと激しくうなずき、ナタリアちゃんとノマちゃんも賛成したのでそこに向かうことに。

「いらっしゃい。
 ……あら、エランちゃん!」

「タリアさん、久しぶり!」

 着いた先は、『ペチュニア』という名前の宿屋。
 私が魔導学園に通うまでお世話になっていたところで、なにを隠そうクレアちゃんの実家だ。

 宿屋ではあるけど、普通にご飯も食べられる。
 それに、久しぶりにタリアさんに会いたかったのもあるしね。

「まー、数日のうちにずいぶん立派になったじゃないか」

「そ、そうかなー?」

「ルリーちゃんも久しぶりねぇ」

「はい」

 私と同じく、ルリーちゃんもお世話になっている。

「そちらは、お友達?」

「うん。みんなと、美味しいもの食べたいなって思って」

「まあ、嬉しいことを言ってくれるじゃないか。
 シャレた店じゃないけど、うんと美味しいもの食べさせてあげるからね」

 王都ならば、確かに小洒落た店もあるのだけど……
 私は、ここでみんなと、ご飯を食べたい。

 それに、クレアちゃんだって久しぶりの実家で嬉しいはず……

「……なんでクレアちゃんは店に入ってこないの?」

「だ、だって……わざわざ、こんな……」

 なんでか、もじもじしているクレアちゃん。
 このままだと埒が明かなさそうなので、渋るクレアちゃんを無理やり、店内へと引きずり込んだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。 神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。 追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。 居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。 小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

処理中です...