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第二章 青春謳歌編
76話 排除するか
しおりを挟む魔獣騒ぎ……それが、学園に入学してからこの数日のうちに起こった、大きな出来事だ。
すでに、先生の口からそれぞれに、説明がいっているとは思うが……
今回の魔獣騒ぎに、直接関わった一人が私だ。
というか、ルリーちゃんはほぼ放心状態だったし、ルリーちゃんのチームメンバーに至っては気絶していた。
結果的に、一番状況を理解しているのが、私だけ……と言えなくもない。
「じゃあ、話すけど……」
みんな、先生から聞いた以上の話は出てこないだろうよ。
だって、私がそれ以上の情報を持っていないんだから。
……魔獣が『エルフ』と口にしたこと、は除いて。
私は、魔獣を発見した時の状況を説明した。
突然悲鳴が聞こえたこと、そこにはルリーちゃん……「ラルフ」クラスの生徒がいたこと、魔獣がしゃべったこと、途中先生も合流してくれたこと……
……そして、ルリ―ちゃんと先生の協力もあって、魔獣を無力化できたこと。
それらを簡略化して。
かくかくしかじかちょもらんま
一度先生に話を通していたおかげか、わりとすんなりと話すことができた。
でも、同じこと説明するのしんどい。
途中、誰も口を挟むことなく、黙って私の話を聞いていた。
「以上です」
「……なるほど」
私の説明を聞き終わり、はじめに言葉を漏らしたのは王子様だった。
彼は腕を組み、話を真剣に聞いていた。
「やっぱり、みんな知ってる話だったでしょ?」
「それはそうだけど、本人から話を聞くのとそうでないのとじゃ、また違うよ」
今の話はつまらなかっただろうと心配する私に、ナタリアちゃんが嬉しいことを言ってくれる。
うんうん、こう言ってくれたら、私ももう一回話したかいがあるってもんだ。もう話したくはないけど。
「じゃあ、この件についてどう思う、ヨルくん」
「俺!?」
「クラスメイトが狙われたんだ、思うところがあるんじゃないか」
今回の件は、ヨルが所属している「ラルフ」クラスの生徒が襲われた。
無論、あの森には「ドラゴ」クラスもいたから、どちらが襲われるかという確率で言えば二分の一だ。
……あの魔獣は、エルフ……ルリーちゃんを狙っていた。
それはつまり、確率の問題なんて関係なく、「ラルフ」クラスは襲われていただろう。
まあ、その推測は隠しておくけど。
「俺には、エランのように悲鳴は聞こえなかったな。
もし気づいてれば、すぐに駆け付けたのに、気づいた時には全部終わっててさ」
「ホント、居なくていいときに居るのに、居てほしいときに居ないとか使えないよね」
「なんか俺への当たりキツくないか!?」
別に居てほしかったわけでもないですけどね。
とはいえ……あの場にヨルが、というか他の誰も来るようなことがなくてよかった。
ルリーちゃんのあんな姿、見せられないしね。
「そういえば、凍っちゃった魔獣はどうしたんですか?」
「凍っちゃったって、ああする他なかったとはいえそれをやった本人が言うか。
……魔獣は、地下へと保管することになった」
なぜか私に、呆れたような表情を向ける先生だけど……
構わずに、話を続ける。
「地下?」
「さすがに、あの魔獣をあのまま置いておくわけにもいくまい。かといって、殺してしまっては今回の件は迷宮入りだ。
だから、氷が溶け充分な安全を確認して、色々調べてみるつもりだ」
なかなか氷が溶けないがな、と、先生はまたも私に視線を向けてくる。
しょうがないじゃないか。
まあ、先生の心配はもっともだな。
あれを森に放置なんてできないし。地下なら、仮に魔獣が暴れても大丈夫だろう。
地下がどんなとこか知らんけど。
「確かに、魔獣を調べてみたらわかることが、あるかもしれませんからね」
「あぁ」
「そだねー、調べればわかることが……!」
魔獣を調べる……よくよく考えたら、それってまずくないか?
いや、今回の件……魔獣がどうやって現れたとかは、明らかにするべきだと思うんだ。
問題は……魔獣が自由になったら……少なくとも顔の部分溶けたら口が露わになる。
口が露わになると、どうなるか。しゃべる。
しゃべると、どうなるか……
「ん……」
エルフって、言っちゃうんじゃない?
エルフって、言っちゃうんでないの?
しゃべる魔獣は"上位種"。でも、言葉のその内容は、ただ人の言葉を真似しているだけだ。
だから、魔獣のしゃべる言葉に意味はない……本来なら。
問題は、エルフと言葉を発した魔獣が、実際にエルフを狙ってきたってこと。
ルリーちゃんは自分の正体を隠しているけど……諸々が判明したら、ルリーちゃんの正体にたどり着く勘のいい人が、出てくるかもしれない。
そうなったら……
「まずいよなぁ」
考えすぎかもしれない。だけど、デリケートな問題だ。考えすぎなほうがいい。
魔獣がエルフ言う→襲われていた生徒が調べられる→ルリーちゃんの正体バレる。こうなっても、不思議じゃない。
あぁー、困ったなぁ。魔獣のことが気になるのは私もだけど、そのためにルリーちゃんの正体を危険にさらすわけには……
あぁああああああ…………
……排除するか、あの魔獣。
「それにしても、すごかったんだってね、エランくんの魔術」
「はぇ?」
おっとっと、なんか思考が変な方向に行ってた。
ナタリアちゃんが、なにやら感心したように私に視線を向けていた。
いやぁ、そんな真正面からすごいなんて言われると、照れますなぁ。
「俺は直接、凍った魔獣を見たけど……
うん、あれはすごかった」
「それは興味深いな。
しかし、氷の魔術なんてないはずだが……正確には、火の魔術と水の魔術を組み合わせて、氷の魔術とすることができる」
「じゃあエランくんは、すでに火と水の魔術を使えるってこと!?
つまり、二種類の精霊と契約してるの!? すごい!」
なんだか、いつの間にか話が大いに盛り上がっている。
魔術じゃなく、私のことで。
けど……悪い気はしないな、へへ。
「えへへー、もっと褒めてー」
「……お前ら会議をしろよ」
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